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24.食事処、そして九割のテキトー

「あ、あのリリア‥‥‥?  そんなに腕に抱きつかれると歩きづらいんだけど‥‥‥」


「えぇ~いいじゃないですかぁ、せっかくのデートなんですし♪  なんならもーっとギュッ♪ってしちゃいます? 」


「い、いや、遠慮しておこうかな‥‥‥」


 普段、制服の上からでも分かるほど立派な双丘は、レイコルトの腕にその柔らかさと弾力を余すことなく伝えてきており、おかげでさっきから心臓が痛いぐらいに激しく鼓動を打っているのだ。正直、このまま平常心を保つことが難しいと判断したレイコルトはさりげなくスルリとリリアと自身の腕を離すと、僅かに距離を取る。


(──っていうか、視線が痛い‥‥‥!?)


 気づかれないようにチラリと周囲を見渡せば、道行く男性の大半から羨望やら嫉妬やらと様々な感情が入り混じった目でこちらを睨み付けており、中には血涙を流しそうな勢いでこちらを凝視している者もいる。


「むぅー、ならせめて手を繋ぎませんか? ほら、人通りも多いですしはぐれたら大変ですよ?」


「う、うん。まぁ、それなら‥‥‥」


 確かにお昼時という最も人が混み合う時間帯に最も人が集まる商業区画で再び合流するのは至難の業だろう。ここは素直に彼女の提案に乗るべきだと判断したレイコルトはスッ、と左手をリリアの前に差し出す。するとリリアは小さく「やった」と呟き、レイコルトの掌に自分の右手を滑り込ませた。


(なんだろう、上手く誘導させられたような気がするなぁ‥‥‥)


 レイコルトは掌から伝わる温もりに僅かながらの気恥ずかしさを覚えつつも、気になっていたことを尋ねることにした。


「そういえば今ってどこに向かってるの? 見た限り、色んなお店が立ち並んでるみたいだけど‥‥‥」


「えっ? 特に何も決めてませんよ? ノープランですノープラン。無計画万歳ってヤツですね♪」


「いや、そんなドヤ顔で言われても‥‥‥。五分前の『行きましょう』発言は一体なんだったのさ」


「あははっ♪ それはその場のノリってやつですね。──というか私の発言の内、九割はテキトーと勢いに任せて口走ったモノばかりなのであまり本気にしない方がいいですよ♪」


「えぇ‥‥‥」


 誰もが見惚れるような完璧な笑顔とそこから発せられたトンデモ発言の落差に自身の頬が数センチほど引きつっているのを自覚するレイコルト。


「えーっと、それなら昼食にしない?  ちょうどお昼時だし、確かちょっと歩いた先で知り合いのお店が屋台を出してたと思うから」


「おおっ~いいですね、 ナイスアイデアです! そうと決まれば善は急げです♪  ほら、レイさん行きましょう!」


「あ、ちょっと!  リリア、そんなに急がなくても屋台は逃げないから!?」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 『銀月の宴亭』。ここは庶民街の中でも知る人ぞ知る隠れた老舗の食事処であり夫婦二人だけで営業しているお店だ。。シラリアという完璧メイドを抱えているレイコルトは普段、彼女の作る食事で済ませる──というかシラリアの作る料理が美味しすぎて、わざわざ外食する気にならないというのが真実──のだが、ここだけは別だ。


 というのもやはりシラリアも一人の人間である以上、精神的、ひいては肉体的な疲労というのは切っても切り離せないもの。しかし彼女の場合、そんな事情などお構いなしとでも言わんばかりに、家事やレイコルトの世話に時間を費やそうとするのだ。


 もちろんその献身性こそがシラリアの美点であることは理解しているし、なにより彼女にそこまで(あるじ)として想われているという事実が嬉しくないはずがない。だが一方で、そのあまりにも献身的すぎる姿勢が災いとなり彼女は一度、大きく体調を崩してしまったことがあったのだ。それ以降、シラリアの負担を少しでも軽くするために、彼女が憔悴しきっている日などの食事はこのお店を利用することが習慣となったのだ。


 ──とまぁ実は他にも色々と理由はあったりするのだが、こうして贔屓にさせて貰っているお店が建国祭で屋台を出していると小耳に挟んだ以上、顔を出さないのも失礼だと思いこうして足を運んだというわけである。


「こんにちは、ローレスさん。どうです? 繁盛してますか?」


「おぉ、レイコルトの坊主か。よく来たな。見ての通り今にも閑古鳥が鳴くどころか巣を作っちまうんじゃないかって程には盛況だよ」


(それって、あんまり芳しくないってことじゃ‥‥‥)

 

 皮肉交じりに白髭で覆われた口元を吊り上げながら木製のジョッキを呷る初老の男性こそ『銀月の宴亭』の主人であるローレス・クレインだ。長い年月を積み重ねた皺が刻まれた顔と白髭に隠れた鋭い双眸から一見すると厳格で気難しい人物のように見えるが、実際はとても人当たりがよく優しい性格をしており、こうして昼間から酒を呷り、軽口を叩く位には気さくで陽気な人物だったりする。


「はぁ、ローレスさん。また昼間からお酒を飲んでるんですか?  あんまり飲み過ぎるとポーラさんに怒られますよ?」


 ポーラとはローレスの奥さんの名前であり、老齢ながらにお店の調理を全て一人でこなしている豪快で肝っ玉気質の女性だ。


「なぁに、これぐらいならポーラの奴も目くじら立てねぇよ。今日は特に客足が遠退いちまって暇なんだ。それより──」


「?」


 ローレンスはそこで言葉を区切ると、レイコルトの隣でニコニコと満面の笑顔を浮かべるリリアへと視線をスライドさせる。


「レイコルトの坊主。お前まぁた別の女引っかけて来たのかよ。シラリアの嬢ちゃんといい、この前のエレナの嬢ちゃんといい。かーっ!  これだからモテる男は。このクソ坊主め!!」


「い、いや別にローレスさんが考えてるような関係じゃないですから!!  リリアもただの友達っていうか──」


「うるせぇ、この色男!!  いいか聞け! 俺だって若い頃はなぁ、お前みたいに何人もの女をとっかえひっかえしてたんだからなっ!! ──別に羨ましくなんかないんだからなっ!!!」


「何の話ですかっ!? ──ていうか完全に酔っぱらってるでしょ!?」


「あっ、初めまして。私リリア・マレットって言います。レイさんとは()()お友達ですけどいずれはもーっと親密なお友達になれるよう精一杯努力したいと思っていますので、どうぞよろしくお願いしますね♪」


「えっ!? この状況で自己紹介するの!? 」


「おう、リリアの嬢ちゃんっていうのかい。俺の方こそよろしく頼むぜ」


「ローレスさんも普通に応じないでくださいよぉ~!!」


 ハァ、ハァとなぜか何もしていないはずなのに妙な疲れを感じたレイコルトは、軽く咳払いで息を整えるとローレンスと向かい合うようにしてカウンター席に腰を下ろした。


「ふぅ、それよりポーラさんの姿が見えないですけど今日はどうしたんですか?」


「あぁ、あいつならつい先日から腰を痛めちまってな。今は家でゆっくり休んでるよ」


「えっ!? そんな状態でお店開けちゃって大丈夫なんですか!?」

 

 レイコルトはギョッとした表情を浮かべてそう尋ねるが、ローレスは事もなげに問題ないと肩をすくめる。


「ハッ、心配ねぇよ。料理の腕前こそポーラには劣るが俺だって何十年と一緒に店を構えてきたんだ。基本的なメニューぐらいなら俺一人だって作れるさ」


「それでもやっぱり心配じゃないですか? 私で良ければ何かお手伝いしますけど……」


 レイコルトの隣に腰掛けたリリアも案ずるようにそう申し出ると、ローレンスはやれやれといった様子で苦笑を浮かべた。


「その申し出自体はありがたいんだがねぇ、やっぱり年寄りが若者の時間を無為に奪うわけにはいかねぇんだよ。それに何十年も続けてりゃ、こんな状況なんて一度や二度じゃねぇんだから別に大した事じゃあねぇ」


「ローレスさん‥‥‥」


「だから、お前さんたちは気にせず好きなだけ食っていけばいいんだよ。ほら、さっさと注文決めちまいな」


「あの、それじゃお言葉に甘えさせて貰いますね。えっとじゃあ──」


 その後、レイコルトは冷製パスタをリリアは夏野菜のサラダと鶏肉の香草焼きをそれぞれ注文する。数分と経たずして運ばれてきた料理は、見た目の鮮やかさもさることながら、味の面でも文句のつけどころがないほどの絶品であった。ローレス本人はポーラに料理の腕は劣ると言っていたが全くそんなことはなく、やはり長年一緒に店を切り盛りしてきたという経験に裏打ちされた熟練の技というやつなのだろう。


 隣ではリリアも料理の美味しさに舌鼓を打っているようで、時折その口元が僅かに緩んでいるのが見て取れる。どうやらこの店を選んで正解だったようだ。


「そういえばレイコルトの坊主。お前さん、確か建国祭の警備隊をやってるんだって?」


「え?  あぁ、はい。それがどうかしたんですか?」


「いや特別どうってことはないんだが、ちょっと気になることがあってな」


「気になること、ですか‥‥‥」


 途端、神妙な面持ちでそう切り出してきたローレンスに自然と背筋がピンッと伸びてしまうレイコルト。


「あぁ、ていうのも昨日今日と、やけに街中でスライムを見かけることが多い気がしてな。しかも一箇所に集中してるとかじゃなく、あちこちにちらほらって感じで。アルカネルの地下水道は城壁外に繋がっているから、時折迷い込んだ個体が街に侵入することがあるのは分かるんだが、それにしても異常なぐらいに数が多いんだ。だから一応、報告しておこうと思ってな」


「スライムが、ですか‥‥‥」


 スライムと言えば全身がネバネバと粘性の高い水と、原動力である魔力の核のみで構成された最弱クラスに分類される魔物である。大した特殊能力もなく、強いて言うのであれば非常に生命力が高いことから最低限の水と栄養さえあればどこにでも生息できるぐらいだろうか。


 とはいえその最弱っぷりは子供の扱う魔法でも十分に討伐できるほどのものであり、よく街中に迷い込んだスライムが子供たちの玩具として追い回されている光景をレイコルト自身何度も見かけたことがある。


 そのため、スライム一匹が街に出現したところで特別被害があるというわけではない。しかしそれが複数、しかも同時に目撃されているとなると少々話が変わってくる。


 ただでさえ『王国の覇者』や『魔王教団』など、今なお予断を許さない問題が多数存在するのだ。何か大事件の前触れでないことを祈るばかりだが、出来る限りの準備はしておくべきか。


 レイコルトは密かに決意を固めつつ、冷製パスタを平らげるのであった。

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