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14.説明、そして承諾

「今回のゼノンの一件、裏に《魔王教団(ディルヴィア)》が絡んでる可能性がある」


「《魔王教団(ディルヴィア)》が、ですか‥‥‥」

 

 レイコルトはセリーナの言葉を脳内で反芻(はんすう)するように復唱すると、訝し気に眉を顰めた。


 《魔王教団(ディルヴィア)》とは千年前に実在していた『大魔王ヴェルミス』を信仰の対象としている教団の事であり、教義、目的、構成員、活動拠点、それら全てが闇に覆われている謎多き組織のことである。


 しかし最近、士官学校の行事の一環で訪れたネウレアの樹海にてレイコルト達は、《魔王教団(ディルヴィア)》を名乗る集団と遭遇。


 その戦いの中でレイコルトは、自身の元兄弟子である『ジーク・アーカルド』と再会し、彼が《魔王教団(ディルヴィア)》に属していることを告げられた。その場でジークを捉えることは出来なかったものの、その日以降、レイコルトとセリーナは、何かと《魔王教団(ディルヴィア)》の動向に目を光らせていたのだが‥‥‥。


「でも、どうして奴らはゼノンを脱獄させたんでしょうか?  まさかゼノンも《魔王教団(ディルヴィア)》の一員だった、なんて事は‥‥‥」


「その可能性も十分にあり得るだろうね。まだまだ不明な事が多い組織だし、誰が《魔王教団(ディルヴィア)》の構成員だったとしても不思議じゃないさ」

 

 セリーナは一言そう告げると、テーブルの上に並んでいる紅茶に手を伸ばした。


「私もその《魔王教団(ディルヴィア)》という組織についてはセリーナ理事長から聞いたこと以上のことは何も知らないの。でも、私が生徒会長を務めるこの学校の生徒が襲われた以上、その存在を放っておくことも出来ない。だからレイコルト君、改めて『シュヴァルツ』の騎士団長兼、生徒会長である私、ルーシア・フォン・アークストレアから依頼させて。『シュヴァルツ』の一員として協力してもらえないかしら?」


 ルーシアはいつになく真剣な表情でそう告げると、レイコルトに頭を下げてみせる。


(なるほど、そういうことか‥‥‥)


 そこでようやくレイコルトは自分に白羽の矢が立った理由を悟った。


 今回、ゼノンの脱獄の手引きをした可能性が高い《魔王教団(ディルヴィア)》。しかしその存在自体知っている人はほとんどおらず、ましてや彼らと接触および、直接交戦経験のある人物などそうそういるはずもない。そう、たった二人の人物を除いて。


 レイコルトとエレナ。二人はネウレアの樹海にて《魔王教団(ディルヴィア)》と接触、並びに交戦を経験しており、さらにあらゆる幸運の巡り合わせによってではあるが、彼らを撤退にまで追い込むにまで至った。


 つまり、一度《魔王教団(ディルヴィア)》の陰謀を暴き、さらに撃退したレイコルトだからこそ気づける何かがあるかもしれないとセリーナとルーシアも期待を寄せているのだ。


(確かエレナは、建国祭中あんまり自由に動けないって言ってたっけな‥‥‥)


 エレナの実家であるソングレイブ家はレヴァリオン王国の中でも有数の貴族の家であり、建国祭の間は様々なパーティーへの出席、要人との挨拶などで自由に行動が取れないと嘆いていた。そのため有事の際の戦力としてはカウントしづらく、より自由に動けるレイコルトの方が今回の役割としては最適だと判断したのだろう。


 それにレイコルト自身としても《魔王教団(ディルヴィア)》が関わっているかもしれない以上、傍観者に徹することは出来ないし、少しでも多く彼らの情報を掴む機会があるのなら積極的に参加するべきだろう。


「分かりました。そういう事なら是非僕も協力させてください」


「本当!?  ありがとうレイコルト君!!」


 レイコルトが承諾の旨を伝えた途端、ルーシアはその水色の瞳に安堵と歓喜の色を滲ませると、花のような笑みを浮かべた。


「『シュヴァルツ』の皆には私から連絡をしておくから、──って、あっ、そうだ!」


 ルーシアは何かを思い出したかのように手をポンと叩くと、再びセリーナの方に向き直った。


「理事長、実は先日『シュヴァルツ』と王国騎士団の合同訓練の最中、メンバーの女の子が一人ケガをしてしまって‥‥‥。その子、建国際の警備隊に参加する予定だったんですけど、かなり重症みたいで今回の参加は見送るように伝えたんです。でも建国祭の警備には『シュヴァルツ』のメンバーを総動員してあるので穴を埋められる子がいなくて。それで今、急いでその子の代わりとなる人員を探しているんですが‥‥‥」


「ふむ、ならその枠にレイを入れたら良いんじゃないかな? 実力は申し分ないと思うんだけど?」


「いえ、レイコルト君には当日、特定の部隊には属さず自由に動いてもらいたいんです。その方が全体の状況を把握しやすいですし、何よりレイコルト君自身もあまり集団行動は好ましくないのではと思いまして‥‥‥」


 ルーシアはレイコルトの心情を慮るように、そう言葉を付け加える。


 確かに魔法や固有能力(スキル)が使えない《忌み子(フォールン)》であるレイコルトが部隊の中に混ざってしまうだけで全員の足を引っ張ってしまいかねない。加えて『シュヴァルツ』はメンバー同士の連携を重視した複数人での戦闘をメインとしているのに対し、レイコルトは個人での戦闘をメインとした訓練しか行ってこなかったため、集団戦闘の立ち回りなどについての知識が乏しい。仮に今からその訓練を行ったところで付け焼刃にすらならないだろう。


「なるほど、確かにそうか‥‥‥。となるとまた別の人を探さなくちゃいけないね」


「えぇ、そうなんですけど中々適任がいなくて。『シュヴァルツ』は校内の治安維持部隊ですからそのぶん、こちらが求めるレベルも高くなります。すると必然的に候補は絞られてしまうんですよね」


 ルーシアは困ったように眉根を下げると見るからに肩を落としてしまう。


(『シュヴァルツ』に所属していないながら、それと同等以上の実力を持つ人かぁ‥‥‥)

 

 二人の会話を横で聞いていたレイコルトは、なんとなくそれに該当する人物がいないか考えを巡らせてみる。


(ルーク‥‥‥は確かあんまり実技の成績は芳しくなかったはずだし、リリア‥‥‥は実力は確かだけど、未だによく分からない部分が多いし‥‥‥)


 その他にも何人か候補に挙がりそうな人たちを思い浮かべてみるが、その誰もが決定打に欠けているように思う。やはりそんな人物はそうそういるものではないか、と半ば諦めかけていたその時──


「あっ」


「「?」」


 レイコルトの脳裏に一人、ある人物の存在が浮かび上がった。


(彼女なら‥‥‥いや、でも‥‥‥)

 

 レイコルトが今思い浮かべた人物ならルーシアの求める条件を満たしている。しかし、彼女がこの話を受けてくれるかと言われれば‥‥‥かなり微妙なところだ。


「どうしたのレイコルト君? もしかして思い当たる人でもいた!?」


「あっ、いや‥‥‥、確かに、いるにはいるんですけど‥‥‥」


 ルーシアはどこか期待を込めた眼差しでレイコルトの顔を覗き込むが、当の本人はどこか言いづらそうに口ごもる。


「‥‥‥もしかして何か問題でもあるの?  だったら無理にとは言わないけど‥‥‥」


「いや、そういう訳じゃないんです。けど‥‥‥その‥‥‥」



「もしかしてレイが今思い浮かんだ人物ってシラリアのことかな?」


「はい、まぁ‥‥‥」

 

 セリーナに言い当てられたレイコルトは、気まずそうに頷く。


 そう、レイコルトの専属メイドにして、かつてはセルネスト家の一員として実際に建国祭の警備にも従事していたというシラリアなら実力も申し分なく、ルーシアが求めている条件も全て満たしているのだ。だが──


「確かにシラリアなら今回の条件にはピッタリなんだけどね‥‥‥。そういえばレイ、舞踏会の件はどうなったんだい?」


「駄目でした。やっぱり師匠の言っていた通り、どこか家族に対して引け目があるのか、『自分にその資格は無い』の一点張りで‥‥‥」


「そっかぁー。まぁ、なんとなく君の様子からそんな気はしてたけど、まさかそこまでとはね‥‥‥」


 昨晩のシラリアとの会話を脳裏に浮かべたレイコルトは、同時に彼女が見せた悲痛な表情も思い出してしまい思わず唇を強く噛みしめてしまう。


「あのー、二人とも? 話が全く見えてこないんですけど‥‥‥、そのシラリアさん? って一体どんな方なんですか?」


 セリーナとレイコルト。二人して沈痛な面持ちで黙り込んでしまう様子を見て、一人置いてけぼりとなっていたルーシアは、どこかおずおずとした様子で二人に疑問を投げかけた。


「ああ、ごめんねルーシア君。‥‥‥そうだね、この話は一応ルーシア君にも話しておくべきか。実は──」


 それからセリーナはシラリアについて、話しても問題ない範囲でルーシアに説明を始めた。


 もともと四大貴族のご令嬢であるルーシアはセルネスト家の失態についてある程度周知していたのか、セリーナの口から語られる事実に特別驚くようなことはなかったが、それでもどこか思うところがあったのか、ルーシアは終始複雑な表情のままセリーナの話を静かに聞き続けていた。

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