13.呼び出し、そして事の経緯
えぇー、まずはいつも本作品を読んで頂いている皆様方、ここ三週間ほど全く更新がなくてすみませんでしたぁぁぁー!!。前話の前書きでも書いた通り、テスト週間で更新がストップしていたのですが、今日からまた更新を再開したいと思います。出来るだけ毎日更新を続けたいとは考えているので、どうかまたよろしくお願い致します!!
『1-1組レイコルト君、理事長がお呼びです。至急、理事長室まで来てください。繰り返します、1ー1組‥‥‥』
そんな放送が教室に設置された魔導拡声器から流れたのはちょうど講義と講義の間の小休憩の時間。隣の席のリリアに前の講義で理解が足りなかった箇所を教わっていたレイコルトは、突然自分の名前が呼ばれたことに思わずメモのために走らせていたペンの動きを止めると、黒板の上部に設置された魔導拡声器を訝し気な瞳で見つめる。
「はぁ、レイさん、次はいったい何をやらかしちゃったんですか?」
「いや、なんで僕が何かやらかした前提なのさ?」
『またですかぁ~?』とでも言わんばかりに呆れの感情をありありと露わにした藍色の瞳が向けられるが、レイコルトもレイコルトで身に覚えがないため思わずジト目で返してしまう。
「何ででしょうかねぇ~? まぁ、とりあえずは急いだほうが良いんじゃないですか? 至急って言ってましたし、何か大切なお話でもあるんですよ、きっと」
そう言うなりリリアはやれやれと言った様子で肩を竦めて見せると広げていたノートや教科書を片付け始める。そんな彼女の様子に妙な敗北感を覚えるレイコルトだったが特に反論することも思いつかなかった為、素直にその忠告に従うことにした。
「うーん‥‥‥まぁとりあえず行ってくるよ。それでリリア、悪いんだけど次の講義‥‥‥」
「はーい、分かってますよ。後で板書した分のノートは写させてあげますから♪」
「ありがと、それじゃあ行ってくるね」
「いえいえ、お礼は食堂の限定パフェで良いですよ♪?」
「‥‥‥あれ、食堂で一番高いやつだよね?」
どうやらただでさえ寒いレイコルトの懐事情は、さらなる寒波を迎えることになりそうだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
コンコンッ
「入りたまえ」
理事長室の前までたどり着いたレイコルトは重厚な木製の扉を軽くノックするとすぐに中から入室を促すセリーナの声が返ってくる。
その声色がいつもよりどこか硬いことに微かな違和感を覚えつつも、レイコルトは促されるままにドアノブを回して静かに入室すると──
「失礼しま──あっ」
てっきり室内にいるのはセリーナ一人だけだと思っていたレイコルトは、もう一人の人物の存在を視界に入れた途端、小さく驚きの声を上げた。
一人用の黒革のソファに腰を下ろし、ローテーブルを挟んでセリーナと向かい合うようにしているのは、腰まで伸びたプラチナブロンドの髪と透き通るような水色の瞳が特徴的な女生徒。アルカネル魔道士士官学校の全生徒を纏める生徒会長にして、四大貴族のご令嬢、ルーシア・フォン・アークストレアは、レイコルトの姿を見るなり、その整った顔に花のような笑みを浮かべると、ひらひらと右手を振ってきた。
「ふふっ、昨日ぶりねレイコルト君。あの後、ちゃんと講義には出れた?」
「あ、はい。その節はどうもお世話になりました。なんとか反省文3枚で許してもらえましたよ」
「う~ん、それは許してもらえたって言うのかしら?」
ルーシアは困ったように苦笑いを浮かべると、こてんと小首を傾げる。そんなちょっとした仕草ひとつ取っても絵になってしまうのは流石と言うべきか。
「おや、二人は知り合いなのかい?」
するとそんな二人のやり取りを見ていたセリーナが意外そうに話しかけてきた。
「ええ、まぁ……ちょっといろいろありまして‥‥‥」
「なるほど、それなら自己紹介の手間は省いてもよさそうだ。レイも座りなよ、今お茶を入れるから」
「レイコルト君、こっちこっち!」
ルーシアは嬉しそうに手招きすると自身が腰を掛けていたソファの左隣、空席となっていたもう一つのソファの座面をポンポンと叩いてみせる。どうやらそこに座れということらしい。
ルーシアは以前、自身のことをお姉さんと形容していたが、今の彼女の仕草はどちらかと年下や妹と言った表現の方がしっくりと来る。そんな彼女のお姉さんらしい外見とは裏腹な子供らしい振る舞いとのギャップに内心クスリと笑みを零しながら、レイコルトは言う通りルーシアの左隣に腰掛けた。
その際、ルーシアの髪からふわりと香る柑橘系の爽やかな匂いにドギマギしたのはここだけの秘密だ。
「さて、これで役者もそろったことだし早速本題に入ろうか」
ほどなくしてローテーブルの上に三人分の紅茶が揃ったところで、セリーナがそう切り出す。
「単刀直入に言うよ。レイ、君には直近に控えた王国建国際で『シュヴァルツ』と共に祭典の警備にあたってもらいたい」
「‥‥‥‥‥‥えっ? 僕が‥‥‥ですか?」
予想だにしていなかったセリーナの言葉に、一拍遅れてレイコルトは間の抜けた声で反応を示す。
『シュヴァルツ』とは魔導士士官学校が独自に保有している校内治安維持のための学生組織であり、今年は警備強化のために王国建国際の警備隊に任命されたことはレイコルトも知っていたが‥‥‥。
「あの‥‥‥どうして僕なんですか? 他にももっと適任がいると思うんですけど‥‥‥」
「いや、今回に限って言えば君以上の適任はいないよ」
「?」
セリーナの返答に思わず首を傾げるレイコルト。そんなレイコルトの反応を予想していたように、セリーナは言葉を続ける。
「とりあえず経緯から説明させてもらってもいいかな? 返事はその後でも構わないから」
「‥‥‥わ、分かりました」
セリーナはレイコルトの返答に小さく「ありがとう」と笑みを浮かべると、今朝、王国の執政院からセリーナの元に届いたとある事件の詳細について語り始めた。
「昨晩、王城の地下深くにある地下監獄に収容されていた囚人が何者かの手によって脱獄。さらに看守の任を担っていた王国騎士団員十数名全員が、身元の特敵が不明な状態で死亡しているのが発見された」
「なっ!? そんなことがあったんですか!?」
まさかそんなことがあったとは露知らず、レイコルトは目を見開く。しかし、そんな大事件であれば今朝にでも王国内で大騒動になっていそうだが‥‥‥。
「情報統制が布かれたのよ。直近に建国祭が控えてることもあってか国民の不安を煽らないように、ってね。このことが知らされたのは極々一部の上流階級の人たちだけ。私も今朝、父上宛ての連絡で知ったわ」
「なるほど‥‥‥」
隣に座っていたルーシアがレイコルトの考えを読み取ったように補足を付け加える。
「まぁ実際はお偉い方のメンツを保つため‥‥‥と言った所なんだろうけどね。なにせ、建国祭を前に囚人が脱走したなんて大事が明るみに出れば警備体制の不備を問われることは必至。自分たちの権威にも傷が付くってもんだ。だから、この一件は国民には知らせずに秘密裏に処理してしまおうって魂胆だろうね」
セリーナはどこか含みを持たせた声音で「こんな時でも自分達の保身が第一とは、いやはや恐れ入るよ」と小さくため息を零す。
「とまぁ、そんなわけでこの件については上位層を含め、限られた人しか知らない極秘事項ということになってるからレイコルト君もお友達に話すのはダメだからね」
ルーシアは唇に人差し指を添えながら「しー」と可愛らしくウインクして見せる。
「了解です。それで、どうして僕が警備隊に参加する、という話になるんですか? 正直、僕が何か力になれるとは思えないんですけど‥‥‥」
「‥‥‥ああ、そうだったね。ここからが本筋だ。まず、脱獄した囚人についてだが、名は『ゼノン・グリフィス』。レイには『王国の覇者』と言った方が分かりやすいかな?」
「!? 『王国の覇者』って、まさか!!」
レイコルトはあまりの衝撃に思わずソファから飛び上がりそうになりながらも、セリーナの次の言葉を待つ。
「ああ、そのまさかだ。昨日も話したとおり、三年前の王国建国祭で『王家の紋章』を盗み出した張本人だ。そんな彼が建国祭を直前に控えたこの時期に脱獄した。いや、させられた。これが何を意味しているのか」
セリーナは深刻そうに顔を曇らせると、背もたれに体重を預け、左右の脚を組み替える。
「‥‥‥もう一度『王家の紋章』を盗み出すため、ですか?」
「そうだね」
レイコルトの推論をセリーナは肯定する。そして一度小さく息を吐くと、いつもの調子を取り戻した表情で話を続ける。
「‥‥‥もちろん警備体制については以前よりも数段強化し、『王家の紋章』を保管する場所も逐一変更することなっている。展示の際も数十人規模の警備隊が常に見張ってるから、そう易々と盗み出すことは不可能なはず。とはいえ相手は『王国の覇者』の異名を誇っていた男だ。‥‥‥正直言って不安要素が多すぎる」
「それで、僕に警備に参加してほしい‥‥‥と?」
つまりは単に一人でも多く警備に回せる人手が欲しい、という事なのだろうか。
確かにレイコルトは魔法を斬るという独自の剣技──《魔撃剣伐》によって、対魔導士戦においてはかなり有利な立ち回りができる異端な存在ではあるが、それでも所詮は一人の学生に過ぎない。たかが一人増えたところで大局に影響があるとは思えないが‥‥‥。
「いや、私が君を警備隊に推す理由は別にある」
と、意外にもセリーナは即座にレイコルトの予想を否定してみせた。
「今回のゼノンの脱獄、そこにはある一人の人物が深く関わっているんだ」
「ある人物?」
レイコルトが思わず聞き返すと、代わりにルーシアが「えぇ」と相槌を打つ。
「協力者、とでも言うべきかしら。元『王国の覇者』が収容されていた独房を破壊して脱獄の手引きをした人物。私とセリーナ理事長は、その協力者が今回の脱獄の裏で手を引いてると考えているの」
「で、でも‥‥‥どうしてその人はそんなことを? そもそもその協力者って一体‥‥‥?」
「私もまだ詳しいことは何も‥‥‥。ただ、一つ興味深い情報を手に入れてね。昨晩、ゼノンらしき人物ともう一人、全身を黒のローブで覆い隠した怪しげな人物の二人が王城側の裏道からものすごいスピードで駆け抜けていく様子を見た、と報告が上がっているんだ」
「!! ‥‥‥黒のローブって、まさか!!」
セリーナその特徴を告げた瞬間、レイコルトの全身からドッと嫌な汗が噴き出すと直近の記憶が何者かによって叩きつけられたかのように呼び起こされる。
知っているどころではない。つい最近、その特徴に当てはまる集団とネウレアの樹海で遭遇し激戦を繰り広げたばかりなのだ。
レイコルトは脳裏に一人の人物──灰のような髪と同色の瞳が獰猛な銀狼を彷彿とさせる元兄弟子の顔を思い浮かべると半ば無意識の内に傍に立て掛けておいた黒刀に手を伸ばしていた。
「うん、今回のゼノンの一件、裏に《魔王教団》が絡んでる可能性がある」
セリーナはその端正な顔に神妙な面持ちを浮かべると、そう静かに告げるのだった。
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