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8.四大貴族、そして王国建国祭

「えっ? 生徒会長さんと?」


「うん、まぁ成り行きでね。エレナがそんなに驚くってことは、もしかして相当凄い人なの?」


 午前と午後の合間の休憩時間。もはや固定化されつつあるレイコルト、エレナ、シラリア、リリアの四人は食堂のテーブルを囲んで昼食を取っていた。


 最近ではこのメンバーに加えてルークも一緒に昼食を取ることが多くなったのだが、どうやら今日は別の友人達と約束があるらしく、この場には来ていない。

 

 ガヤガヤと賑わう食堂の喧騒を片隅に、レイコルトの正面に席取ったエレナは昼食のミートパスタをフォークでクルクルと巻きながら「だって」と口を開いた。


「凄いも何もアークストレア家ってあの四大貴族の一角でしょ? それに今の会長さんは歴代当主の中でも特に優秀って評判だし、あの年齢で既にいくつか家の公務を担ってるって話よ」


「四大貴族ってあれだよね? 昔から王国を支えてきたっていう大貴族の‥‥‥」


「はい、四大貴族はそれぞれ『武力』、『財力』、『知力』、『外交』、これら四つの分野から王国を支え、繁栄に貢献してきた名家のことですね。特にアークストレア家はこの『知力』において他の四大貴族の追随を許さないほど卓越した一族で、歴代の当主様は皆聡明な方々だと記憶しています」

 

 エレナに続いてレイコルトの隣に座っていたシラリアがそう補足を付け加える。レイコルトも当然、四大貴族なるもの自体は知っていたが、細かい部分までは把握していなかったため、「へぇ~」と感心したように相槌を打つ。


「それにそれに、魔法の実力だってかなりのものらしいですよ♪ 確かなんでしたっけ? 学内自警団の‥‥‥」


「『シュバルツ』、ですね。校内の治安維持及び有事の際の戦力として王国から正式に認可を受けた学生組織であり、校内で唯一、騒乱調停のために魔法と固有能力(スキル)の使用権限が与えられた学生達の総称です」


 レイコルトの右斜め前に座っていたリリアが、人差し指を頬にあてながら首を傾げ、それにシラリアが淡々とした調子で答える。


「あぁ! それですそれです♪ 会長さんってば、そこの騎士団長も務めてるらしいですよ。凄いですよねぇ~、完全実力主義の『シュバルツ』で三年生を抑えてトップに君臨してるんですから♪」


「それだけ生徒からの信頼が厚いってことなんでしょうね。実際私も何度か会ったことがあるけど、とても良い人だったわ」


「えっ? エレナも会ったことがあるの?」


 エレナの発言に昼食である日替わり定食のハンバーグを食べていたレイコルトの手がピタリと止まる。


「えぇ、実は生徒会に入らないかってお誘いを頂いてて、その時に何度かね。なんでも生徒会の慣習として毎年新入生を一人、生徒会の書記としてスカウトしているらしいの。大体の場合、その年の推薦入試で首位の成績を収めた人が選ばれるらしくて、それで私に白羽の矢が立ったってわけ」


「なるほどー、ならエレナさんは書記として生徒会に?」


「うん。即決ではなかったけれどつい一昨日に書記として生徒会に入る旨を伝えたわ。元々生徒会としての活動には興味もあったし、ソングレイブ家の一人として組織の運営に携わってみるのも良い経験になるかと思ってね」


 エレナはどこか毅然とした様子で三人を見渡すとフォークに巻き付けたパスタを口へと運ぶ。食器とフォークがぶつかる音一つ立てないその所作は、どこを切り取っても気品に満ち溢れており、改めて彼女が王家に仕える貴族の家柄なのだと再認識させられる。


「それに生徒会に入れば私の目標にも大きく近づくし。せっかく頂いた機会だもの、有効に活用しないとね」


「エレナの目標? それって‥‥‥?」


「まだ内緒。具体的にどうすればそこに辿り着けるか明確に見えてるわけでもないし、つい最近芽生えたばかりの夢みたいなものだから。でもいつか、ううん、この学校を卒業するまでには絶対‥‥‥」

 

 最後の一言は誰に告げるわけでもなく、まるで自分自身に言い聞かせるようにエレナは小さく、しかしはっきりと口にする。ルビー色の瞳はどこか遠くを見つめており、その澄んだ眼差しには並々ならぬ覚悟の光が窺える。


 おそらくエレナにとってその目標は決して生易しいものではないのだろう。並々ならぬ努力と苦労を重ね、それでもなお届くか分からない高い壁。机の下から覗く、細くて白い手が固く握りしめられているのが何よりの証拠だ。


 しかし、それでもなおエレナは前を向き続けるのだろう。理想の二文字を抱えるその瞳は、苦難を前にしてなお不屈の闘志を漲らせている。


(やっぱり凄いなエレナは‥‥‥)


 秘められた努力、決してぶれない自信、そして何よりその強い覚悟が、レイコルトにはとても眩しく見えた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「『シュバルツ』といえばあれですよね。今年は王国建国祭の警備隊に加わるらしいですよ♪」


 全員が昼食を食べ終え、話題がひと段落ついた頃、リリアがふと思い出したように学内自警団の話題を盛り返した。


「王国建国祭‥‥‥そっかもうそんな時期か」


 王国建国際。それはレヴァリオン王国に古くから伝わる三大行事、英雄祭、聖夜祭に並ぶ祭事のことである。


 計三日に渡って執り行われる建国祭は毎年、国中の人々が一同にアルカネルに集い、建国の祖である初代国王に敬意を示すとともにこれからの王国の発展と繁栄を願うという国を挙げての一大行事だ。


 百年以上の歴史を刻むこの建国祭だが、時の流れとともに祭本来の目的は風化あるいは形骸化してしまい現在の人々にとっては大規模な祭事としての認識が強まりつつあるという。

 

 それでも、建国祭が王国にとって非常に重要な行事であることには変わりはない。国民皆が一丸となって執り行われるこの祭りはまさに王国の一大イベントであり、当日は多くの屋台や露店が立ち並び普段のアルカネルとはまた違った賑わいを見せることになる。


 特に建国祭の目玉と言われているのが、王国全土から選りすぐりの魔導士を集めトーナメント形式で競わせる王国魔導大会と、最終日の夜に執り行われる王家の人達が国民の前に姿を現し、アルカネル中央の大公道を馬車で練り歩くパレードだ。


 前者は王国に名を連ねる魔導士達の頂点を決める大会であると共に、ここで優勝すれば王国騎士団として王国から直々にスカウトされることもあるという魔導士達にとってはまさに夢と名誉、栄光を掴める夢のような舞台である。


 そして後者は、建国祭の最後を締め括る最大のイベントであり、国民にとっては普段は王城に籠りきりの王家の人々を間近で見ることができる数少ない機会であり、王家にとっては自身の威光や国民からの支持をより強固にするための大切な行事だ。


 国中を放浪していたレイコルトもこれまで参加したことこそないものの、この時期はどこの村や町でも祭りの話題で持ちきりだったことをよく覚えている。


「建国祭の警備隊ね‥‥‥。まぁ確かに毎年祭りの規模が拡大してるって噂だし、王国騎士団だけじゃ手が回らなくなるのも無理ないのかもしれないわね」

 

「はい♪ それに今年は三年ぶりに『王家の紋章』が一般公開されるらしくて、その警備も兼ねているんだとか‥‥‥」


「──ッ!?」

 

 カシャン、パシャッ。


 『王家の紋章』。その言葉がリリアの口から発せられた途端、これまでレイコルトの隣で静かに紅茶を嗜んでいたシラリアの肩がビクンッ!と大きく跳ね上がり、その反動でカップの中の紅茶がわずかに溢れ、テーブルクロスに琥珀色の染みを作った。


「だ、大丈夫シラリア!? 火傷とかしてない!?」


 レイコルトは慌ててシラリアが持っていたカップをソーサーごと受け取ると、彼女のシミ一つない綺麗な手を優しく持ち上げ、火傷の有無を確認する。


 幸い温度はそこまで高くなかったようで、シラリアの新雪のような白い手に火傷や水膨れといったケガは見られなかった。


「い、いえ大丈夫です‥‥‥。それより大変申し訳ございません主人様。制服に紅茶の染みが付いてしまいました‥‥‥」


「ん? あぁ、別に気にしなくていいよ。制服なら洗えばどうとでもなるし、シラリアにケガがなくて良かった」


 普段からレイコルトの専属メイドとして身の回りの世話をしてくれているシラリアだが、人一倍従者としての矜持も持ち合わせているようでちょっとしたミスでも過剰に自分のことを責めてしまう節がある。


 レイコルトとしては別にそこまで気負わなくても良いのでは?と思うのだが、それはシラリアが従者の家系出身であることも少なからず関係しているのだろう。


 そんな時レイコルトも出来るだけシラリアが気に病まないよう、なるべく優しい言葉をかけるようにはしているものの、やはり彼女の中での従者としてのプライドがそれを許してはくれないらしい。


「‥‥‥はい、本当に、申し訳ございませんでした‥‥‥」


(ん?)


 ふとそこでレイコルトは、シラリア表情がどこか浮かないことに気づいた。何かが違う。普段彼女がミスをした際に見せる沈んだ表情とはまた別種の。どこか思い詰めたような、あるいはトラウマを必死に振り払おうとするような、そんな表情。


 結局その直後、休憩時間の終了を告げるチャイムが鳴り響き『王家の紋章』のことはもちろん、レイコルトの心中に浮かんだ小さな違和感も有耶無耶になってしまった。

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