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5.襲撃者、そしてガントレット

「ぐッ──!!」


 全身を縦に貫く衝撃と金属音。柄を握った指先から肩にかけて走る鈍い痺れにレイコルトは一瞬、顔を苦悶に歪めながらも、何とかその一撃を刀で受け止めきると、強引に相手を押し返した。


「むっ!? 何と! 今の一撃を防ぐでありますか!!」


 どこか喜々としているように聞こえるのは少女の声。反動を利用して大きく後方へと引き下がったレイコルトは、声の主を視界に収めると、


「女の子‥‥‥?」


 思わずそう呟いていた。


 レイコルトの目の前に立っていたのは一人の少女だった。年齢はおそらくレイコルトより少し下くらいだろうか。幼さの残るあどけない顔立ちと、肩口あたりで切り揃えられた赤みがかかった茶髪。そして薄暗い路地裏でも燦然と輝く両腕のガントレット。身に纏っている武装ははそれのみであり、あとは太ももや二の腕などが大胆に露出した軽装鎧。おそらく動きやすさを重視した結果なのだろうが、年頃の少女がする格好にしてはいささか無防備すぎるのではないかと思わずにはいられなかった。


「レイ、大丈夫!?」


「うん、エレナは?」


「わたしも平気よ」


 咄嗟に突き飛ばしてしまった為、どこか怪我をしていないかと心配していたが、どうやら杞憂で終わったようだ。レイコルトはほっと胸をなでおろすと、改めて少女の方へと視線を向ける。


「いきなり殴りかかってくるとはずいぶんな挨拶だね」


「むむっ! それは申し訳ないのであります!」

 

 レイコルトの言葉に少女はビシッと気をつけの姿勢をとると、そのまま深々と頭を垂れた。あまりにも素直すぎるその態度にレイコルトは一瞬毒気を抜かれそうになるが、すぐに気を取り直す。


「しかし、これが自分の仕事であります故!  何卒(なにとぞ)ご容赦を!!」


「仕事?  それってどういう──」


 意味なの?と言いかけたレイコルトだが、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。理由は至極単純、少女の瞳が突如として獰猛な光を宿したかと思ったその刹那、レイコルトの懐へと飛び込んできていたからだ。そして──


「むんッ!!」


「──ッ!?」


 再び振るわれる剛腕。一撃でも食らえば一瞬で意識を刈り取られそうなその拳撃は正確にレイコルトの顎を狙い定めると、下から弧を描くような軌道で振り抜かれた。


「くっ!?」


 咄嗟に上半身を後方へと反らしてその一撃を躱すレイコルト。しかし、少女はそのまま流れるような動作で体を回転させると、今度はその遠心力を利用した右足を鞭のようにしならせながら蹴りを放ってきた。


「ちょッ!?」


 慌てて体を横に捻ることでその蹴りをやり過ごしたレイコルトだったが、少女は攻撃の手を緩めることなく次々と攻撃を繰り出してくる。


 上段・中段・下段と変幻自在に放たれる拳に足技の数々。それらの攻撃をなんとか刀で受け流しながらレイコルトは少女から距離を取ろうと試みるが、まるでそれを先読みしているかのように少女はぴったりとレイコルトに張り付いてくる。


「むぅ、なかなかやるのであります!」

 

 少女は一度後方へと飛び退くと、そう言って嬉しそうに笑ってみせる。その表情だけ見るとまるで遊びに夢中になっている子供のようなのだが、その身に纏った装備がそんなほのぼのとした雰囲気を一瞬で打ち消してしまう。


 加えてこの幅の狭い路地裏では十分に刀を扱いきることができないレイコルトに対して、対手の少女の装備はガントレットと足技のみという、周囲の環境と得物の射程範囲(リーチ)の差をうまく利用した戦い方は、まさに戦い慣れている者のそれであった。


「でも、まだまだこれからであります!」

 

 そう叫ぶと少女は再びレイコルトへと肉薄。その勢いのまま今度は蹴りではなく拳撃を放ってきた。


(ここだっ!!)


 しかし、その拳撃が直撃する瞬間、レイコルトは左右の壁を交互に蹴る三角飛びの要領で天高く飛び上がると、一気に少女の頭上をかすめ取った。


 このまま落下の勢いを利用して少女に刃を当てれば、それで勝負は決する。そう考えたレイコルトは刀を握る手に力を込めると、そのまま少女の脳天目掛けて一気に刃を振り下ろした──のだが


「甘いのであります!!」

 

 少女は膝をばねのようにグググッと屈み込むと、そのまま勢いよく地面を蹴り上げた。


「なっ!?」


 重力に逆らって加速度的に上昇していく少女の体。そして、そのままレイコルトの刀をアッパーカットで迎え撃ち──


「《豪拳(ごうけん)》ッ!!」

 

 少女の全身全霊を込めた一撃が炸裂。その威力に刀は弾き飛ばされ、レイコルトの体もまた後方へと大きく吹き飛ばされた。しかし──


「エレナッ!!」


「まかせて!! 【ファイア・ランス】ッ!!!」


 レイコルトの呼びかけに答えるように、エレナは右手を前方にかざすと、燃え盛る巨大な炎の槍を顕現させる。そしてそのままレイコルトを吹き飛ばしたことでがら空きとなった少女の腹部目掛けて、


「食らいなさいッ!!」


「なぬぅぅぅぅ!!?」


 エレナの右手から解き放たれた炎の槍は、空中で体の自由が利かない少女へと直撃。少女の体は猛烈な速度で地面と水平に吹き飛ばされると、そのまま壁に激突し、地面に崩れ落ちたのだった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ふぅ‥‥‥」


 エレナが放った炎の槍により、地面に倒れ伏す少女。その様子を尻目にレイコルトは弾かれた黒刀を拾い上げると、それを鞘へと納め、大きく息を吐き出した。


「大丈夫、レイ?」


「まぁ、なんとかね」


 駆け寄ってきたエレナに苦笑いで受け答えるレイコルト。事前の打ち合わせも何もしていない即興の連携ではあったものの、エレナが上手くレイコルトの意図を汲んでくれたおかげでこうして、なんとか少女に勝つことができた。しかし、


「それにしても、この女の子は一体何者なんだろう?」


 レイコルトは目の前で倒れ伏す少女に視線を移し、訝しげに眉をひそめる。先ほどこの少女は自分たちを襲った理由として仕事だからと言っていたが、こんな人通りのない裏路地で一体何を‥‥‥とレイコルトがそこまで思考を巡らせていると、


「──あぅ‥‥‥、いたたた‥‥‥」


「あ、起きた」


 重い瞼を開き、お腹をさすりながら少女は上体を起こすとキョロキョロと辺りを見回す。そしてレイコルトの姿を視界に入れると、


「むむ、途切れた記憶、下腹部に走る痛みに人気のない路地裏。そして小生をいやらしい目で見下す男の姿。‥‥‥はっ!? ま、まさか小生はこの男に乱暴されたのでは!?」


「え、どうしてそうなったの?」


「な、なんと破廉恥な! このような辱めを小生に加えるなど言語道断であります!! この恨み晴らさないでいられるか、いや、ない!」


「いやだからなんでそうなるのっ!?」


 少女のどこかネジの外れた思考回路に頭を抱えるレイコルト。しかし、そんなレイコルトの心情などつゆ知らず、少女はビシッ!と指を突きつけると、


「さぁ覚悟をするであります、このハレンチロリコンすけこまし最低野郎!! 今にでもその腐った根性を叩き直して──」


「やめな、さいっ」


「はうッ!?!?」


 トンデモ発言を連発する少女に対して流れるように背後を取ったエレナの手刀が少女の脳天にクリーンヒット。突然の衝撃と痛みに少女は目を白黒させると、その場で頭を押さえてうずくまる。


「うう、痛いのであります‥‥‥」


「貴女が人の話を聞かないからでしょう? とりあえずその破廉恥な考えは懐にしまっておいて頂戴」


「しかし、そこの男が小生の脚や胸をチラチラといやらしい目で見ていたのは事実でありますよ?」


「あらぁ~、そうなの?レイ?」


「えっ!? いや、そ、それは‥‥‥」


 目元に影を宿しながらにっこりと微笑みを向けてくるエレナ。なぜだろう、その笑みからはどこか有無を言わせない迫力が感じられた。そして、しどろもどろになりながら視線を宙に浮かすレイコルトの様子を見て全てを理解したのだろう。エレナは「はぁ‥‥‥」とため息をつくと、


「まぁ、レイの裁判はシラリアとリリアも交えて後で行うとして、とりあえず有罪にしとくわね」


「やる前から有罪確定なのっ!? っていうか戦闘中の不可抗力だし!?」


「それで、貴女の名前は? さっき仕事がどうとか言っていたようだけど」


「ねぇ! 僕の話聞いてる!?」


「む、そういえばまだ自己紹介をしてなかったでありましたな。小生はラミア。ラミア・アザレスであります」


「私はエレナで、そこのハレンチロリコンすけこまし最低野郎がレイコルトよ。それでそのお仕事って?」

 

 レイコルトが必死に抗議の声を上げるも、エレナとラミアは華麗にスルー。ついでにレイコルトはハレンチロリコンすけこまし最低野郎という不名誉極まりない称号まで追加されてしまった。


「それでラミアちゃんはどうして私たちを急に襲ってきたのかしら?」


「あぅ、その‥‥‥それは、えーと‥‥‥」


 

 エレナの問いかけに対し、バツが悪そうに口ごもるラミア。その様子から察するに特段レイコルト達と敵対しないといけない訳ではなさそうなのだが──


???「あぁ、それについてはわたしが説明するよ」


「「「ッ!?」」」


 突如として聞こえてきた第三者の声。知的な印象を受けるその声音がレイコルトたちのすぐ背後から投げかけられるのだった。

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