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2.復帰、そして日常

 アルカネル魔道士士官学校。その入り口に位置する巨大な正門から校舎まで、まっすぐに伸びた石畳の通りをレイコルトとシラリアは肩を並べて歩いていた。コツコツと石畳を踏み鳴らす二人分の足音が、朝特有の清々しい空気の中に溶け込んでいく。


「そういえば、久しぶりだよね。こうしてシラリアと一緒に登校するのって」


「そうですね、ご主人様が療養されていた間はわたし一人でしたので、こうして再びご主人様の隣が歩けることを大変喜ばしく思っておりますよ」


「あはは‥‥‥。それはちょっと大袈裟じゃないかな?」


「いいえ。心からそう思えるほど、ご主人様の様態は重篤(じゅうとく)なものだったのですよ? ‥‥‥もう二度とあんな無茶なことはしないでくださいね?」


「う‥‥‥はい。気をつけます‥‥‥」


 『無茶』の部分をことさら強調しながら、ジトッとした視線を投げ掛けてくるシラリア。普段からあまり感情を表に出さない彼女だからこそ、こういった場面では人一倍あっ、とするような迫力感を持っており、思わずレイコルトの背筋もピンと伸びてしまう。


 とはいえ、心配をかけさせてしまったことは紛れもない事実であるし、なにより、そう言ってジト目を向けてくるシラリアの声音からは、本当にレイコルトのことを心配してくれていたのだという想いが痛い程に伝わってきていた。


???「そうそう、レイが学校を休んでたこの数日の間、シラリアったら『ご主人様の具合は大丈夫でしょうか』とか『また無理をなされていないでしょうか』ってずーーっと、ソワソワしてたんだから」


「「っ!?」」

 

 突如として後ろから聞こえてきた声。聞き覚えのある快活な声に思わず振り返ると、そこには案の定、予想通りの人物が、亜麻色のポニーテールを揺らしながらこちらに歩いてくる姿が目に映った。


「おはよう! レイ。それにシラリアも」


「おはよう、エレナ」


「おはようございます、エレナ様。僭越ながら言わせて頂きますが『ソワソワ』は心外です。わたしはただご主人様の身の安否を気にしていただけですので」


「またまたー。シラリアったら素直じゃないわね」


 そう言って悪戯っぽく笑うのは、二人のクラスメイトであり友人でもあるエレナ・ソングレイブ。意志の強さを示すようなルビー色の瞳と、絹糸のようになめらかな亜麻色の髪を黒のリボンでポニーテールにまとめた髪型が特徴的な、明るく活発な少女だ。


 実はアルカネルでも有名な貴族の家系であり、頭脳明晰、容姿端麗、文武両道、品行方正を地で行くような完璧超人だが、それを歯牙にもかけない人当たりの良さと、身分を問わず平等に接する気さくな人柄から、学校という枠を超えて多くの人々から慕われている。また、彼女がアルカネル、ないしはレヴァリオン王国内でも名が知られている理由。それが歴史上二人目となる《全属性持ち(ゼータ)》であるということだ。

 

 《全属性持ち(ゼータ)》とは、その名の通り火・水・風・土・光・闇の六属性全ての魔法適性を持っている者のことであり、歴史的に見てもその存在が確認された者は千年前に実在していたという人物──『大賢者』とエレナの二人だけである。


 最近まではそんな《全属性持ち(ゼータ)》である自分と、本当の自分との間で苦悩していた彼女だが、先日行われた野外実習にてレイコルトに自身の本心を吐露し、前を向いて歩み始めることができたらしい。


 それからというものレイコルトが療養中も、頻繁に家を訪れてくれては体調やらなにやらを気にかけてくれており、自分の自惚れでなければかなり好意的に接してくれているように感じられる。


「ですがエレナ様も、ご主人様が休学中の間は少々上の空になることが多かったように窺えますが?」


「なっ‥‥‥!?」


 予想外なシラリアの反撃に、言葉を詰まらせたエレナは一瞬レイコルトの方をチラリと一瞥し、


「ち、違うのっ! ただちょっと心配だっただけで‥‥‥」


 明らかに動揺を隠せていない様子で、慌てて弁解を始めるエレナ。しかし、そんなエレナの端正な顔は耳まで真っ赤に染まっており、それが彼女の本心を如実に物語っていた。


「もう‥‥‥シラリアの意地悪」


「申し訳ありません。エレナ様があまりにも可愛らしい反応をされるもので、つい」


「むぅ‥‥‥」と僅かに頬を膨らませ、不満げに唸るエレナに対して、どこか勝ち誇ったような微笑を浮かべるシラリア。そんな二人の仲睦まじいやり取りに自然と口元が綻ぶのを感じるレイコルトは、「さて」と黒色の瞳を持ち上げると、


「そろそろ行かないと遅刻しちゃうから急ごうか」


 そう二人を促しながら再び校舎へと歩みを進めるのだった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 『1-1』という白磁色のプレートが掲げられた教室。その扉を横にガラガラとスライドさせ、レイコルトが入室した途端、


「「「────っ」」」


 と、先ほどまでの喧騒がまるで嘘のように静まり返り、教室内の全ての生徒の視線が一斉にレイコルトに向けられる。その視線に込められた感情は困惑か、はたまた驚愕か。中には嫉妬のような感情を向ける者もいるが、総じてあまり好意的なものではないことだけは確かであった。


 だがそれも仕方がないのかもしれない。なにせレイコルトは、魔法も固有能力(スキル)も使うことができない欠陥品──通称《忌み子(フォールン)》と呼ばれる存在であり、魔法優位思考の色が根強いレヴァリオン王国では昔から差別の対象となってきたのだから。


 むしろ《忌み子(フォールン)》である自分がこの魔導士士官学校に入学できたこと自体が異例中の異例であり、本来であればこの場に存在しえないはずのイレギュラー。そういった事情もあいまってか、レイコルトのことを良く思わない生徒の方が圧倒的に多数派であり、それはこの教室にいる生徒全員の共通認識と言っても過言ではなかった。

 

 しかし、当の本人であるレイコルトといえば特段に何か反応を示すわけでもなく、エレナとシラリアの二人に「またあとで」と別れを告げ、自分の席へと赴く。


 教室の最奥、しかも窓際という最も地味な立地にある自身の席へと歩みを進めたレイコルトは普段から腰に吊り下げている黒刀を壁に立て掛けると、そのまま机に突っ伏し、静かに窓の外へと視線を投げかける。


(はぁ‥‥‥)


 周りに悟られないよう、そっとため息をつく。これが忌み子(フォールン)であるレイコルトにとっての普通であり日常。療養期間を終えて学校に復帰したところで何かが変わるわけでもなく、むしろ休学していたことがマイナス方向に振り切れている気さえする。


 自分が世間一般的にはどういった存在なのか。レイコルト自身も十二分に理解しているつもりではあるが、こうして露骨な差別的対応を目の当たりにするとどうしても憂鬱な気分になってしまうのが人間というものだろう。


(なんとかしたいとは思うけど‥‥‥)

 

 とは言ったものの、こればかりは如何せん自分の力だけではどうしようもなく、レイコルトにできることといえばこの現状を甘んじて受け入れるか、あるいは周りの意識を変えるために自ら積極的に行動していくかの二択ぐらいだろう。とはいえ、現状が現状なだけに後者を選ぶのは正直厳しいところである。


「はぁ‥‥‥」

 

 と、レイコルトが再びため息をこぼした、その時だった。


「駄目ですよーレイさん。ため息なんてついてたら、幸せが逃げちゃいます♪?」


「っ!?」

 

 突如至近距離から囁かれた甘い声。ぞわぞわと全身を駆け巡る奇妙な感覚と、耳元に吹きかけられた妖艶な吐息にビクリと身を跳ね上がらせたレイコルトは、慌てて体を起こし声の主の方へと向き直る。


「おはようございます、レイさん! ようやく学校に復帰ですね♪」


「あ、あぁ、おはようリリア」


 そこにあったのは、レイコルトの机に片腕をつき、こちらをのぞき込むようにして満面の笑みを浮かべるリリア・マレットの姿だった。


 どこまでも深く続く深海を彷彿とさせる藍色の瞳とセミロング程度に整えられたパステルピンクの髪。パッチリとした大きな目と小さな鼻に瑞々しいピンク色の唇がまるで完璧に計算し尽くされた彫像のようにバランスよく配置されており、その容姿は見る者全てを問答無用で魅了するほどの愛くるしさを誇っていた。


「あの、リリア? 何でわざわざ耳元で囁いてきたの? 普通に声をかけてくれれば良かったんじゃ‥‥‥」


「えー?  そんなのレイさんを驚かせるために決まってるじゃないですかぁ♪」

 

「えぇ‥‥‥」


 小悪魔のようにクスクスと笑いながらレイコルトの隣の机に鞄を下ろすリリア。それでも全く嫌味や悪意を感じさせないのは、彼女の天性の人の良さが為せる業なのかもしれない。


「それで、体の調子はもう大丈夫なんですか?」


「うん、おかげさまでなんとかね。それより、リリアこそありがとうね」


「えっ? 何のお礼ですか?」


「シラリアから聞いたよ。野外実習の時、リリアがミレアス先生に連絡を取ってくれたんでしょ?  本当に助かったよ」


 野外実習二日目の夜。因縁の相手であるジークと一触即発の空気で対峙していたレイコルト達の裏では、リリアが担任教師であるミレアスと何度もコンタクトを図ってくれており、そこからミレアス→王国騎士団と伝手を辿ることで《魔王教団(ディルヴィア)》を撤退に追い込むことができたのだ。正直あのままジークと戦っていれば命を落としていたのは確実にレイコルトの方であり、そういう意味ではリリアには頭が上がらない思いである。


「あぁ~、なるほど! 別にいいですよお礼なんて。むしろ、私がミレアス先生にコンタクトを取るのが遅れたせいで、レイさんにもエレナさんにも迷惑をかけちゃったんですから。むしろ謝らなきゃいけないのは私の方ですよ!」


「いやいや、リリアは全然悪くないよ。それにあの後も皆にはだいぶ迷惑かけちゃったし‥‥‥」


「いえいえ、それこそ本当に気にしないでください! 皆さんが無事だったんですから結果オーライじゃないですか?」

 

 互いが互いに相手のフォローを入れあい、どちらに非があったか双方主張し合う不毛な言い争い。そんな傍から見れば実にくだらない光景が繰り広げられること数分。


「なぁ、ちょっといいかな?」


「え、僕?」


 そんな二人の間に割って入るように一人の男子生徒がレイコルトに声をかけてくる形で、この不毛な言い争いは幕を下ろすのだった。


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