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20.脅威、そして絶体絶命

「──はぁあああっ!! 」


 レイコルトは強く地面を蹴り上げると、レクス目掛けて一直線に突貫した。


 体内の魔力を体の一部に集中して流し込むことで身体能力を向上させる魔力強化(マナブースト)。レイコルトはそれを脚部に施すことで空気を切り裂くような加速を生み出していた。


固有能力(スキル)によって生み出された傀儡は使役者からの魔力供給が途絶えれば消滅する。なら!!)

 

 周囲の黒装束や土人形(パペット)を視界の端に捉えながら、レイコルトは最短最速の動きでレクスへ差し迫ると加速と自重を乗せた黒刀を一閃する。


 だが──


「甘いな」


「なっ‥‥‥!?」


 突如として立ちふさがる壁。視界をまるまる覆いつくすほどの巨躯を誇る黒土色の正体は、レクスが固有能力(スキル)で操っている土人形(パペット)であり、レイコルトの必殺の念を込めて放った一閃は土人形(パペット)の胴を薙ぎ払うにとどまってしまう。さらに──


 ズズズズッ──


 切り裂かれたはずの胴体からは、まるで不気味な生き物のようにグニャグニャと蠢く土塊(つちくれ)が這い出してきたかと思うと、それらは瞬く間に元の形を取り戻してしまった。


(再生能力まで持ってるのか!?)


 動揺に一瞬だけ足を止めるレイコルト。その隙めがけて、左右からいくつもの魔法が降り注いだ。


「‥‥‥ッ!」

 

 レイコルトは咄嵯に後方へ飛び退くことでその攻撃をやり過ごすと、黒刀を正眼に構え直す。


「どうした忌み子(フォールン)?  手加減ならいらんぞ?」


「‥‥‥‥‥‥」

 

 レクスの挑発的な言葉にレイコルトは無言で応じると、再び地を蹴ってレクスの元へ突貫した。


 今度は先程のような直線的な動きではなく、緩急をつけた不規則な軌道。 


 攻撃のタイミングを悟らせない変則的な動きで接近するが、当然レクスも黙ってそれを見ているだけではない。


「ふっ‥‥‥」

 

 レクスが嘲るように鼻を鳴らすと、土人形たちがその行く手を阻むべく壁のように立ちはだかる。


 しかし、レイコルトもそれは織り込み済みであり、直前で天高く跳び上がると、前方宙返りの要領で立ちふさがる土人形(パペット)達を乗り超え、一気にレクスの背後を取る。


「‥‥‥はぁああ!!」

 

 天地が逆転した視界の中、レイコルトは渾身の力を込めた斬撃を首筋めがけて薙ぎ払う。


 しかし、完全に虚を突いたかに思えた斬撃は、またしても直前で割り込んできた土人形に防がれてしまう。


「くっ‥‥‥!」


 レイコルトは空中で体勢を立て直すと、そのまま地面に着地して一旦距離を取る。


 レクスの操る土人形(パペット)。一週間前の決闘時であれば大した脅威でもなかった存在だが、今は違う。


 神秘の雫(シード)とやらによってレクスの魔力量自体が大幅に引き上げられた影響なのか、それに比例するように土人形を操る量も精度も速さも格段に上がっていた。


「くくく、 ずいぶんと必死のようだが、まさか今のわたしを倒すつもりでいるのか?」


「そうじゃなかったらこの場に残っていないさ。それに、あなたに手を貸した第三者についてもある程度目処は付いているんだ。──《魔王教団(ディルヴィア)》。それがあなたの協力者の正体だろ」


「ほぉ‥‥‥そこまでわかっているとはな。何故分かった?」

 

 レイコルトの言葉にレクスは感心した様子を見せると、ニヤリと口角を上げてみせる。


「あらかじめその存在を師匠から聞かされていたっていうのもあるけど、一番はこの紙さ」


「‥‥‥紙だと?」

 

 怪訝そうなその態度を尻目にレイコルトは懐から一枚の羊皮紙を取り出すと、レクスに見えるように広げた。

 

 それは昼間レイコルトが念のためにと拾っておいたものであり、そこには血のような色で八芒星と謎の記号のようなものが書き込まれていた。


魔王教団(ディルヴィア)は必ず襲撃した村や集落に何らかの痕跡を残していくってことを思い出したんだ。最初は魔物との戦闘中にうっかり落としたものかと思ったんだけど、それにしては綺麗すぎるし、ちょうど死角になる位置に置かれていた。つまりこの紙は魔物との戦闘後、誰かが意図的に残したものだということになる。そんな奇妙なことをするのは魔王教団(ディルヴィア)以外に考えられない」


 レイコルトは左右から挟み込むようにして佇んでいる黒装束たちにチラリと視線を向ける。


 相変わらずフードを深く被っているせいで表情は窺えないが、その雰囲気からは殺意はおろか敵意すらも感じられない。おそらくは本当に組織の指示に従って行動しているだけなのだろう。


「だがそれを突き止めたところでどうする? どうせ貴様には何もできないというのに」


「そんなことはないさ。これだけ騒ぎが大きくなればミレアス先生や王国騎士団がすぐに駆けつけてくる。そうなれば、あなたも、魔王教団(ディルヴィア)もすぐに牢に放り込まれることになるぞ」


 そう答えながら、レイコルトはレクスとの間合いをじりじりと詰め、同時に隙を探っていく。


「ミレアスか‥‥‥、だが、果たして本当にそうかな? 」


「どういうことだ?」


 (いぶか)し気に眉をひそめたレイコルトに対してレクスは胸ポケットから何かを取り出す下かと思うと、無造作にこちらに投げつけてきた。


 一瞬、投擲武器か何かだと警戒したレイコルトは直接は受け取らずに地面に落ちたそれを拾い上げる。


「‥‥‥これは──」


 レイコルトが手にしたのは、緊急連絡用としてミレアスが用意していた通信用魔道具だった。


 各グループに一つずつ渡されており、レクスがこれを持っていること自体は何ら不思議ではないが、これがどうかしたのだろうか。


 レクスは無言で顎を突き出すことでレイコルトに意図を伝える。


(使え、ってことか)


 不意打ちへの警戒と、何か細工が施されていないことを確かめたレイコルトは慎重に魔道具を起動させる。


 だが──


「‥‥‥‥‥‥起動しない? いや、反応はある。ミレアス先生が通信を受け付けていないのか」


 魔道具は正常に作動しているが、ミレアスからの応答はない。


 一瞬、通信を妨害する結界でも張られているのかとも考えたが、魔力の流れからしてそれはないだろう。


(襲撃を受けた生徒たちが一斉に救助を求めて通信が滞っている? いや、戦闘中に悠長に通信を行っている余裕があるとは思えない。となると‥‥‥)


「ミレアス先生の身にもなにかあったのか‥‥‥」


 レイコルトは苦々しく呟くと、改めてレクスに向き直る。


 戦闘中、もしくは考えたくないが既に手遅れになっている可能性もある。それなら通信が繋がらないことにも納得がいくが──


「そうだとしたら誰の救助も期待はできまい? 貴様も、あの女も、クラスの連中も全員、今日ここで死ぬのだッ!!」


 レクスは高笑いと共にそう言い放つと、周囲の土人形たちが一斉にレイコルトへと襲い掛かってきた。


「くっ‥‥‥!」

 

 土砂崩れのように迫りくる土人形たち。それら全てをレイコルトは黒刀一本と足使いだけで捌きながら後退していく。数に物を言わせただけの波状攻撃に対して防戦を強いられながらも、一体、二体と着実に土人形を切り伏せていくレイコルト。しかし、それでも如何せん数が多すぎる。


「ハハァッ!! どうした忌み子(フォールン)!!  動きが鈍くなってきているぞ!?」


「‥‥‥ッ」

 

 レクスの挑発に対し、レイコルトは無言で歯噛みしつつも背後から襲い掛かってきた土人形を斬り捨てる。


 更に、その横合いから飛来してきた【ファイア・ボール】を斬るのではなくあえて弾くような軌道で刃を振るうことで、別の土人形へと直撃させてその動きを一瞬止めるが、そんなものは所詮付け焼刃でしかない。


 レイコルトは四方八方から押し寄せる波状攻撃に徐々に圧されていき、遂に囲まれてしまう。


 そして──


「──ぐッ!? 」

 

 正面から飛びかかってきた土人形を迎撃したレイコルトだったが、その瞬間右半身に鋭い痛みが走った。


 小さく顔をしかめつつも、振り返りざまに攻撃の主を斬り払うと、追撃の【ウィンド・スピア】をたたき落とす。


 傷口に視線を落とすと、僅かに躱し損ねたのか土人形の爪が右の脇腹をかすめており、その部分が浅く切り裂かれていた。


 制服の耐刃性が活きたのか傷自体はそこまで深いものではないが、ポタリポタリと真っ赤な鮮血が地面に滴り落ちる。


 戦闘への影響はさほどないとはいえ、その傷はレイコルトが少しずつ、しかし確実に追い詰められている何よりの証拠だった。


 その後も休む間もなく次々と繰り出される攻撃を何とか凌ぎ続けるが、次第に傷は増え、出血の量も増し、動きが鈍化していく。


 今まで余裕をもって対処出来ていた攻撃も、今では薄皮一枚の差で辛うじて捌いている状態だ。むしろ、よくここまで持ちこたえていると言ってもいいかもしれない。


「‥‥‥はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥はあ‥‥‥」

 

 レイコルトの口から苦し気な吐息が漏れ、幾重にも渡る攻防により全身には大小様々な裂傷が刻まれてる。


 肩で呼吸をする姿は満身創痍という他なく、何度でも再生する相手に体力が尽きたのか魔力強化(マナブースト)も保てなくなり全身が震えを帯び始めていた。


「くくくっ、随分と辛そうではないか、忌み子(フォールン)。もう限界ではないのか?」


 愉快そうな笑みを貼り付けたレクスが、余裕の表情でレイコルトへ歩み寄る。


 ここまでの戦いから、レイコルトの攻撃はもはやレクスには通らないと判断したのか、その足取りはゆったりとしたものだ。


「いい加減自らの死を受け入れろ、欠陥品が」


 レクスは吐き捨てるようにそう言うと、呆れたような口調で語りかけてくる。


「貴様自身も理解しているはずだ。忌み子(フォールン)である貴様など、生きている価値はないと。この世界には必要のない存在なのだと」


「‥‥‥‥‥‥」


 対峙するレイコルトは、無言。


 肩を上下させて呼吸しつつ、静かにレクスを見据えている。


「それにも関わらず、何故まだ抗う?  私に勝てるわけがないと悟った上で、何故無駄な抵抗を続けるのか? ‥‥‥くだらん、実に下らない」


 レクスは心底失望したというように嘆息すると、レイコルトを睨みつける。


 それは、かつてないほどの殺気に溢れており、視線だけでレイコルトを射殺さんばかりの威圧感を放っていた。









「‥‥‥なきゃ‥‥‥こ‥‥‥るんだ」


「なんだと?」


 レクスはピクリと眉を動かすと、レイコルトの呟きに耳を傾ける。


「伝えなきゃ、いけないことがあるんだっ!!」


 レイコルトは擦れ切った喉を震わせながら叫ぶと、黒刀を握る手に力を込める。


 黒い瞳に宿る闘志はいまだなお潰えることはなく、目の前の男を真っ直ぐに見つめていた。


 その脳裏に浮かぶのは、苦しそうに微笑んだエレナの姿。


 才能という檻に閉じ込められ、一人孤独に苛まれ続けた彼女にレイコルトは伝えたいことがあった。


 だから──


「僕は死ねない!!‥‥‥あなたを倒すまでは絶対にッ!!」


「‥‥‥戯言を。ならば見せてもらおうか。その悪あがきがどこまで続くのかをなァ!!」


 レクスの言葉を皮切りに、前後左右、八体の土人形(パペット)による四方向からの同時攻撃がレイコルトを襲う。


 直撃すれば致命傷は免れない必殺の一撃。疲労困憊(ひろうこんぱい)のレイコルトでは、到底捌き切ることなどできず勝負は決したかに思えたその刹那──



 

 

 






 ザシュッ!



「──なっ!?」


 八体の土人形(パペット)がその巨腕を振るおうとした瞬間、土で形成された体は再生不能なレベルまでバラバラに弾け飛んだ。


 よく見てみると攻撃、移動、バランスの要である腕、腰、脚が、一瞬で粉砕されていた。


 それも一度に襲い掛かった──八体同時に。


「な、に‥‥‥‥‥‥!?」


 レクスの目には何が起きたのか全く見えていなかった。


 一体何が起きたのか。


 ただ、これまでとは比較することすらおこがましい速さでレイコルトが黒刀をふるい、勝負を決めた。


 それだけは間違いなかった。


(まずい!?)


 本能でそう判断したレクスは自身の周囲にある土人形(パペット)たちを全速力でレイコルトへと差し向け、自身は後方へと跳躍した。

 

 直後、凄まじい爆発音が響き渡る。


 レイコルトへと殺到していた土人形たちは、先ほどと全く同じように、その全てが粉々に吹き飛ばされたのだ。


 「馬鹿な‥‥‥」


 レクスは今起きている光景が信じられず、愕然と目を見開く。


 先ほどまで立っていることすら不思議だった人間が、たった一瞬で土人形たちの群れを粉砕していく。


 そんな非現実的な事実をレクスが受け入れられずにいる間にも、レイコルトは攻撃の手を止めることなく、更に二体の土人形を打ち砕いていた。


「‥‥‥ふぅー」

 

 レイコルトは小さく息をつくと、ゆっくりとした動作で黒刀を構える。

 

 そのズタボロな状態からは想像できないほどに強い意志が宿らせた黒い瞳はレクスを鋭い矢のように射抜いていた。


「‥‥‥ひっ!?」


 レクスの口から思わず悲鳴が漏れる。それは恐怖からくるものだった。


 一週間前の決闘でも、今のようにレイコルトはレクスの呼び出した土人形を次々と撃破していたが、その時でもここまでの迫力はなかった。

 

 加えて自分は神秘の雫(シード)の力によって、魔力量も、固有能力(スキル)の練度も大幅に強化されている。

 

 その自分が今、目の前の敵(レイコルト)に対して明確な脅威を感じているのだ。


「何をしたぁ!! 貴様ァァァァァ!」


 レクスは自身の動揺を隠すように声を荒げて叫んだとき、レイコルトは応じるように天を仰いだ。


 ほんの一瞬閉じた目の裏で、レイコルトは遠い過去に兄弟子が言っていたことを思い出す。


 ──『あぁ、だから俺が使ったのは魔力強化(マナブースト)を応用して、生み出した【神速強化(マナオーバー)】だよ」

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