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19.復讐、そして二度目の開戦

 世界が白一色に染め上げられた。放たれた大量の光は一瞬にしてレイコルトの視界を強奪すると少し遅れて耳をつんざくような轟音が鼓膜を突き破らんばかりに鳴り響く。


「ぐぅう‥‥‥ッ!」


 次いで、爆風と共に襲い来る衝撃波。それらは容赦なくレイコルトの背中を殴りつけると、地面から砂塵が舞い上がり、周囲は瞬く間に黒煙に包まれた。


「‥‥‥ハァッ‥‥‥ハァッ‥‥‥」


 衝撃が収まったところでレイコルトは荒い呼吸を繰り返す。背中には鈍器で殴りつけられたかのような激痛が走っており、熱風の煽りを受けたことで全身がヒリヒリと痛みを訴えている。

 

 しかし、それよりもレイコルトは己の腕の中にある確かな温もりに安堵を覚えていた。


 閃光によって奪われた視界が徐々に回復していき、ようやく周囲の状況が確認できるようになる。


「エレナ‥‥‥大丈夫?」


「えぇ、なんとか‥‥‥」

 

 すぐ近くで聞こえてきた弱々しい声に、レイコルトはホッと胸を撫で下ろす。見ればエレナはレイコルトの肩に顔を埋めるように抱きついており、レイコルトはその小さな身体を庇うようにして抱きしめていた。


「よかった‥‥‥」


「‥‥‥レイこそ、無事で良かったわ」


「まあ、なんとかだけどね‥‥‥ッ!?」


 レイコルトは苦々しく微笑むと、突き刺すような痛みを堪えてゆっくりと立ち上がる。


 先ほどまで自分たちがいた場所を見てみると、そこは広範囲に渡って土埃に覆われており、巨大なクレーターが形成されていた。


 あとコンマ何秒か反応が遅れていれば二人は跡型もなく吹き飛ばされていただろう。


「!? あの三人は!?」


 エレナがハッと我に帰ったように顔を上げると、爆発の中心地を凝視する。だがそこにあるのは爆発の余波を受けて原型を失った木々と、もはや炭化してしまった大地だけであり、人の形はおろか血痕の一滴さえ残されてはいなかった。


「‥‥‥うそ‥‥‥そんな‥‥‥」


 エレナは口元を抑えると、信じられないといった様子で悲痛な表情を浮かべる。


「まさか‥‥‥死ん──」「いや、違う」


 レイコルトはエレナの言葉をピシャリと遮った。


「あれは本物の三人じゃない。固有魔法(スキル)によって生み出された人形(ダミー)だ」


人形(ダミー)‥‥‥?」


「うん。おそらく最初の爆発は僕たちをここにおびき寄せるための罠。本命は人形の内部に埋め込んだ爆弾で近づいてきた僕らを人形ごと爆殺するつもりだった。そうだろう? レクス!!」


 レイコルトがキッ!、と鋭い視線を投げた先からは闇夜に溶け込むように黒いローブを纏い、口元には歪んだ笑みを湛えたレクスが突如として姿を現した。

 

 レクスは無言のまま、手にしていた起爆装置らしきものを懐にしまうと、レイコルトの元へと歩みを進めてくる。


「ほぉ、忌み子(フォールン)にしてはなかなか鋭いじゃないか。何故、あれが人形だと分かった?」


「重さだよ。本来気絶した人間を背負おうとすると、重心のバランスが乱れ、かなりの重量を感じるものなんだ。なのにさっきの人形はあまりにも軽すぎたよ。それに爆発の寸前、人からはあり得ないほどの熱と強い火薬の臭いがした」


 レイコルトはレクスの問いに淡々と答えると、一歩前に出てエレナを守るように立ち塞がる。


「僕からも質問させてほしい。あなたの固有能力(スキル)──土の傀儡(ランドオブパペット)は、せいぜい三十体の土人形(パペット)を召喚するだけで精一杯だったはず。一週間前の決闘からあなたに何があった?」


 付け加えるならレクスは土人形を呼び出すことは出来ても、実際に手足のように操れるのは三体のみという有様だったはず。それが今はどうだろうか。召喚した土人形を操るだけでなく、本物の人間と遜色ないレベルでの擬態を可能としているではないか。


「魔力の量や、固有能力(スキル)の練度は一朝一夕で成長するものじゃない。ましてや、たった数日でここまで劇的に変化するなんてありえない」


 すると──


「クハハハハハハハハハハハハハハッ!」


「!?」


 レイコルトの指摘に、レクスは愉快そうに笑い声を上げた。


「なるほど、忌み子(フォールン)の割にはいい質問だな。確かに貴様の言う通り、私は以前とは比べ物にならないほど強くなった。その理由はただ一つ!! これだよ」


 レクスはポケットから何かを取り出すと、それを天に掲げて見せた。


()はこれを『神秘の雫(シード)』と言っていた。なんでも服用するだけで体内の魔力が増幅され、魔力量の上限すらも引き上げる代物らしい。つまり、貴様らの言う、努力や研鑽などという下らん過程を踏まずとも圧倒的な力を手にすることが出来るということだ!!」


「なっ‥‥‥‥‥‥!?」


 レクスが『神秘のシード』と呼ぶそれは、子指の爪ほどの大きさの水晶玉であり、月明かりを受け、血のように禍々しく輝いていた。


「‥‥‥そんなものが‥‥‥」


「あぁ、全ては()()()のおかげだよ。貴様に敗北を喫した日。私に神が降りてきた。いや、正しくは悪魔と言ったところか。だがそんなものはどちらでもいい。私はあの方に『神秘の雫(シード)』を授かり、更なる高みへと至った。今の私ならばあの時の屈辱を晴らすことも容易いだろう!!」


 レクスは狂気に彩られた瞳でレイコルトを見据えると、両手を広げて演説でもするように声を張り上げる。


「あら、随分と丁寧に話してくれるのね?」


 するとこれまで静かに事の経緯を聞いていたエレナが挑発するように口を開いた。


「あぁ、どうせ貴様らの命はここで消える。ならば少しばかり情報を流したところで構うまいよ。それに、そろそろ頃合いだろう。おい、出てこい」


 レクスが指を鳴らした途端、それを合図に先程まで誰もいなかったはずの空間に突如として黒いローブを纏った者たちが現れた。


「ッ!?」


「ククッ、驚くのはまだ早いぞ」


 そう言ってレクスがニヤリと口元をゆがめた途端──


 ズドォオオンッ!!


「「!?」」


 どこか遠くで大きな爆発音が鳴り響いた。


「今のは‥‥‥!?」


 エレナが音の方角へ視線を向けると、そこには巨大な火柱が上がっているのが見て取れる。──魔法だ。


「どうやら、向こうでも始まったみたいだな」


「始まった‥‥‥? ──ッ!? まさか!?」


 レクスの言葉にレイコルトはハッと息を呑む。


「あぁ、そのまさかさ。今、この樹海(もり)にいる全士官学校の生徒をこいつら(黒装束)が襲撃している。既に他の生徒たちにも被害が出ていることだろう。まぁ、私の目的はそこの忌み子(フォールン)を抹殺することだけだがな」


「待って! それならどうしてあなたは他のみんなを襲わせてるの?」


 吐き捨てるようなレクスの言葉にエレナは疑問の声を上げる。


 確かにエレナの言う通り、狙いがレイコルトへの復讐ならわざわざ関係のないクラスメイトを襲わせる必要はない。だがその答えについても、レイコルトはある程度推測がついていた。


「多分、クラスのみんなを襲撃してるのはレクスとは無関係な、もしくは単なる利害の一致で手を組んだだけの第三者だからだよ。その目的までは分からないけど、レクスはその計画に乗っかっただけに過ぎないんじゃないかな」


「第三者‥‥‥ってことは、もしかして昼間の魔物たちも!?」


「うん、おそらくその人たちで間違いないと思う」

 

 レイコルトはエレナの問いかけに静かに首肯すると、レクスの後方で静かに佇んでいる黒装束たちを睨みつける。


「くくくッ、忌み子(フォールン)、貴様は本当に察しがいいな。その通りだよ。野外実習の初日、私は奴から接触を受け、取引を持ちかけられた。なんでも士官学校の生徒を何人か攫うことが目的らしくてな、その計画に乗じて忌み子(フォールン)──貴様への復讐を果たすのはどうか? となぁ」


 レクスはニタリと口元に笑みを浮かべる。


「それであなたは‥‥‥」


「あぁ、もちろん二つ返事で承諾したさ。なにせ私にとっては願ってもいない機会だからな!」


 エレナの言葉にレクスは心底愉快そうに声を張り上げた。


忌み子(フォールン)、私は貴様が憎くて憎くて仕方がなかったよ。あの時、私が受けた屈辱がわかるかァ? 父上からは失望され、母上からは罵倒される。学校の貴族どもからは嘲笑われ、挙句の果てには私が無能などという噂まで流れる始末!!  ふざけるなよッ!!  全ては貴様のせいだ!!  忌み子の分際でこの私の顔に泥を塗ったのだ!  貴様は誰よりも惨めに地べたを這いつくばり惨めに死んでいくべきなのだ!! そうでなければ私の気が済まないッ!!」


「そんなの、ただのやつあたりじゃ──」


「だまれぇぇぇ!! もう決めたのだ!!   貴様を殺し、そして貴様の大切なもの全てを奪ってやると!! ──【土の傀儡(ランドオブパペット)】ッ!!」

 

 レクスが怒りで吼えあがると共に地面から無数のパペットが這い上がってくる。その数はざっと六十体。前回のレクスが呼び出した数から考えるとちょうと倍の数である。


「エレナ、ここは僕に任せて他のみんなのところに行ってほしい」


「えっ、でも‥‥‥」


「大丈夫。レクスの狙いは僕一人だし、なによりここでエレナまで足止めされたら、それこそ敵の思うつぼだよ」


 レイコルトはエレナを庇うように前へ出ると、鞘から黒刀を抜き放った。


 夜空を彷彿とさせる刃が月光を反射し、闇夜に一条の光が駆け抜ける。


「‥‥‥わかった。でも絶対に無理しないでね」


「うん」


 レイコルトが力強く頷くと、エレナは心配そうな表情を浮かべながらも、レクスに背を向けて走り出す。


「あの女も逃がすな!!やれお前ら!!」


 レクスが後方に控えていた黒装束たちに指示を出すと、一斉にエレナへ魔法を打ち放つ。


 炎の球に水の刃、土の槍に風の矢など、多種多様な魔法がエレナの背中を貫かんと迫っていく。


 だが──


「させない!!」


 魔法の射線上に自ら躍り出たレイコルトは、迫り来る全ての魔法を一刀の下に斬り伏せた。


「チッ、忌み子風情が小賢しい真似を‥‥‥」


 レクスは不愉快そうに顔をしかめると、パペットに命令を下す。


「行けッ! 我が傀儡どもよ!!」


 レクスの命令に従い、パペットたちが一斉に襲い掛かってくる。

 

 対するレイコルトも、レクスを真っ直ぐに見据えると黒刀をグッと握り直し猛然と駆け出す。


 かくして、レクスとレイコルトによる戦いの幕が上がったのだった。

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