4.決闘申請、そして四面楚歌
近づいてきた三人組は身なりや所有物の質感から、おそらく貴族かそれに近い身分の子息なのだろうとレイコルトは推測する。
リーダー格の男は、眉間にしわを寄せ、いかにも傲慢な態度でレイコルトを見下しており、後ろに控えた残りの二人もニヤニヤと口元を弓なりに歪ませていた。
正直彼らに絡まれる理由など見当もつかないレイコルトだったが、既に大勢のクラスメイトがこちらに注目している状況だ。
とりあえず彼らの癪に触れないように、なるべく下手に出ることにした。
「えっと‥‥‥何か用でしょうか、レクス・オルグレン様?」
確か先の自己紹介でリーダー格の男はそう名乗っていた。
「ふん、どうやら上の者に対する最低限の礼儀は弁えているようだな。では、単刀直入に問う。貴様が理事長──セリーナ・フレイムハートの弟子だというのは事実か?」
「え? まぁそうですね‥‥‥‥‥‥」
何の脈絡もない問いかけに多少困惑しながらも、レイコルトが答えると、後ろの取り巻き二人がさらに口角を上げたのが見えた。
(ん?)
「そうか、では貴様が推薦入学者というのも真か?」
「‥‥‥‥‥‥えぇ」
レクスの言葉に、レイコルトは頷く。
途端──
「‥‥‥‥‥‥くくくっ」
「‥‥‥‥‥‥?」
「フハハハハハハハァッ!!!」
レクスは、額に手の平を当て、天を仰ぐように体をのけぞらすと、盛大に笑いだした。
レイコルトは怪訝そうに眉を寄せると、後ろに控えている取り巻き達にも視線を向ける。だが、彼らもレイコルトを馬鹿にしたようににニヤニヤとした笑みを浮かべているだけだ。
レクスはひとしきり笑い終えると鋭い眼光でレイコルトを睨みつけ── ────ダンッ!! と机を強く叩きつける。そして教室全体に行き渡る怒声を張り上げた。
「そうかぁ、そうかぁ、ではこれも事実のようだな! 貴様が魔法も使えぬ《忌み子》だというのはぁ!!」
「ッ──!」
レイコルトは目を見開き、小さく息を吞む。
(なぜこいつがそれを‥‥‥?)
そんなレイコルトの思考を見破ったレクスは、ニヤリと口元をゆがめると続ける。
「フンッ‥‥‥何も驚くことはないだろ? どうやら貴様は入学試験の際、自ら《忌み子》だと明かしたそうではないか。ならばその場にいた誰かがその事実を私に伝えた。決しておかしくはないだろう?」
レクスの指摘にレイコルトは、僅かに顔をしかめる。
確かにレイコルトは入学試験の際、必要があったとはいえ、自分が忌み子だと公言している。だが、あの時の決断は間違っていないと思っているし、後悔もしていない。
それに、入学した後もいずれは自分で忌み子だと明かすつもりだったのだが──
(まさか、こんな形になるなんてね‥‥‥‥‥‥)
不本意な形での公言にレイコルトは内心で毒づくと、
「えぇ、たしかに僕は忌み子です」
と、あくまで冷静に淡々と答えた。
「フンッ‥‥‥やはりそうだったか」
それを聞いたレクスは鼻で笑うと顔には嘲笑を浮かべる。そして今度は教室全体に視線を向けると──
「聞いたか貴様ら! 忌み子とは、魔法も固有能力も使えぬ惨めな存在! そんな卑しい者をこのエリートが集まる士官学校に置いておくことなど言語道断!!」
大げさに両腕を広げそう告げると、レクスはさらに続ける。
「ましてや、貴様のような存在が、あのセリーナ・フレイムハートの弟子とは‥‥‥まったくもって嘆かわしい。同じ学び舎にいるだけで、我がオルグレン家の名に傷がつくわ!」
レクスはそう吐き捨てると、レイコルトを睨みつける。さらには──
「あぁ! そうだ! そんな奴をこの士官学校に置いておくわけにはいかねぇな!!」
「それに、《忌み子》のレッテルが貼られている貴様などと一緒に居れば、同じクラスで学ぶ我々までもが後ろ指さされることになる! 私たちはそんなのはごめんだ!」
レクスに便乗するように取り巻き二人も口々にレイコルトを罵り始める。その様子はさながら裁判のようだった。
罪人は忌み子という咎を背負ったレイコルト。レクス達はその罪を裁く裁判官といったところか。
ならば、傍聴人はクラスメイト達だろう。さきほどからレイコルトたちを遠巻きに眺めるだけで、止めようとする者は誰一人いない。
彼らのことをチラリと横目で見てみたところ、いっそ清々しいまでの嫌悪の表情を浮かべていた。
(はぁ、どうしよう、この状況‥‥‥‥‥‥)
レイコルトは内心嘆息すると、どうやってこの状況を鎮められるか思考を巡らせる。
だが、ここでレイコルトが何をしても、何を言っても、事態は悪い方向にしか転がらないだろう。
つまり、今必要なのはレクスでもレイコルトでもない第三者の介入。
そしてそれに適した人物には心当たりがあり、ちょうどその二人の顔を思い浮かべた瞬間──
ガタッ! と椅子を勢いよく引く音が教室内に響きわたる。
レクスたちの罵詈雑言も、クラスメイト達のざわめきも同時に止んだことで、その場にいた全員が音のした方向に視線を向ける。
するとそこには、エレナが今にも爆発寸前といった剣幕で立ち上がっており、その隣にいるシラリアも無表情ではあるがバイオレット色の瞳には静かな怒りをたたえていた。
そして──
「先ほどから静かに聞いていれば、随分と好き勝手言ってくれますね」
「うん、さすがに私もちょ~っとムカついてきたかな‥‥‥‥‥‥」
肩を震わせながらシラリアとエレナはそう告げると、レクス達に向かって歩き出す。
そしてレイコルトの前まで来ると、二人はまるでレクス達からレイコルトを守るかのように立ちふさがった。
そんな二人に対してレクスは鼻を鳴らすと──、
「これはこれは、ソングレイブ家のご令嬢様に、セルネスト家の使用人ではありませんか。何か御用ですかな? まるでそこの忌み子を庇うようにされていますが」
レクスはニヤニヤと嫌らしい笑みを張り付けながら問いかける。
「用も何もないわ。ただ、貴方達がレイに散々言ってくれたから文句の一つでも言ってやろうと思っただけ」
対してエレナは鋭い目つきでレクスを見据えながらそう答える。
「それはなんともおかしなことをおっしゃいますねエレナ様は。私どもはただこのクラスの、延いてはこの学園の未来のために異物を排除しようとしているだけですが?」
「お言葉ですが、オルグレン様。排除と申し上げられましたが、ご主人様は正式な手続きを得て、こちらに入学されています。いくらご主人様が魔法が使えないとはいえ、一生徒に退学させるようなことは出来ないと思いますが」
シラリアはレクスの発言の上げ足を取るようにそう指摘する。
「ふんっ! それを私が考えていないとでも? ──【決闘】だよ」
「「ッ!!」」
レクスの発言に、レイコルト含むその場にいた全員が驚いたように目を見開く。
決闘──それはレヴァリオン王国に古くから伝わる伝統の一つだ。昔は村同士の抗争や、貴族間の小規模な争い事があった際、双方の代表者一名同士が戦うことで紛争を治めるというものであり、その名残が現在でも残っているのだ。
決闘は立会人の元どちらかが戦闘不能、もしくは降参することで決着がつき、勝者は敗者に対してなんでも一つだけ命令を下すことが出来る。
この命令は絶対であり、平民だろうと貴族だろうと王族であっても反故にすることは許されない。
もちろん、命令にもある程度の限度があり、実行不可能なもの、命に関わるものなどは禁止。事前に下す命令は申告せねばならず、立会人の了承が得られて初めて決闘は成立する。
つまりレクスはレイコルトに決闘を申し込み、それに勝利することで退学させるつもりらしいのだが──
「あなたねぇ。そんな決闘、レイが受諾するわけないじゃない」
エレナは腰に手を当てると、呆れたように告げる。
そう、エレナの言う通りレイコルトにはこの決闘を受けるメリットが一つもないのだ。
決闘は両者の合意がなければ成立することはない。つまりレイコルトがここでレクスの申請を断るだけで、レクスの策は失敗に終わってしまう。
「確かに、非常に忌々しいことだが、そこの忌み子にも私の決闘申請を断ることは可能であり、そうなればこの決闘は不成立となる」
レクスはわざとらしく肩を竦める。
「えぇ、そうよ。だから──」
「だが──!!!」
エレナの言葉を遮り、レクスはさらに続ける。
「この学校には何十、何百と忌み子を毛嫌いしている者が在籍しているぞ! その者らから貴様の退学要請をかき集めれば、学校側としても目を逸らすことはできんだろう。そうすればどうなると思う? 貴様はほぼ間違いなく退学となり、貴様を庇ったそこの二人も無事では済まんだろうなぁ!!」
そう言うとレクスはエレナとシラリアに視線を向ける。
「‥‥‥くっ」
「───ッ」
エレナは悔しそうに唇を噛みしめ、シラリアも顔には嫌悪の表情を浮かべていた。
仮にレイコルトがここで決闘を断ったところで、この学校に在籍している人たちを扇動し、退学に追い込むつもりなのだろう。
しかもその場合、エレナとシラリア、そしておそらくセリーナも弾劾の対象になる。それだけは絶対に避けなければならない。
つまり──
(端から僕に断るという選択肢は与えられていないわけか‥‥‥‥‥‥)
レクスがなぜわざわざ決闘を選んだのか、その真意は分からない。
確実性を持たせるためなのかもしれないし、ただ単に忌み子であるレイコルトをいたぶりたかっただけなのかもしれない。もしくはその両方か。
だが、このままいけば確実にレイコルトは退学処分となり、エレナやシラリアも学校を追われる。
ならば、今自分がすべきことは────
レイコルトが向き直ると、レクスの口元は三日月のようにつり上がっており、その表情は愉悦に満ちていた。
「その決闘、お受けいたします」
そう言ってレイコルトは、手のひらを左胸に当てる。これは正式に決闘を受諾したポーズだ。
「レイ!?」「ご主人様!?」
レイコルトの言葉に、エレナとシラリアが驚いたように声を上げる。
「大丈夫だよ二人とも。結局のところ勝てば問題ないんだ」
そう、この決闘に勝てばレクスはレイコルトを退学にさせることは出来ず、下す命令として生徒への扇動も禁じればいいだけの話だ。
「‥‥‥‥‥‥本当に大丈夫なの?」
エレナが心配そうにのぞき込んでくる。その赤い瞳はわずかに不安に揺れており、彼女の動揺が伝わってくる。
それはシラリアも同じであり、いつも無表情の彼女にしては非常に珍しく、不安そうな面持ちをしていた。
そんな二人に、レイコルトは優しく微笑むと、レクスと取り巻きたちの方を向く。
「それで、決闘の日時はいつですか?」
「驕るなよ忌み子が。本来であれば貴様のような者に付き合う時間など、一秒たりともありはしない。それにも関わらず、こうして私の貴重な時間をくれてやるというのだ。今すぐ執り行うに決まっているだろう」
決闘を申し込んできたのはそっちだろうに。
レイコルトは内心そう毒づきながらも了承の意を伝える。
「そうですか、分かりました」
「ふん、では付いてこい」
レクスはそう吐き捨てると教室を後にし、それに付き従うように取り巻きたちも続いていく。
「ご主人様、どうかご武運を」
「うん、行ってくるよ」
シラリアの言葉に微笑んでそう返すと、レイコルトも教室を後にするのだった。
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