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【悪逆の翼-road dark-】  作者: 渦目のらりく
第七話 醜悪たる最愛の贋物
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第七話 醜悪たる最愛の贋物(1/10)

   第七話 醜悪たる最愛の贋物


「アモン、すごい怪我だよ!」


 俺の腹にすがり付いてきたセイルの次に、雷に焼かれた黒焦げのローブを引きちぎりながらフロンスが歩んで来た。そして怪訝な表情をして俺の視線を追い、共に胴体を断裂させた男を見下ろしていく。


「アモンさん、その体ではもう……」

「そうだよ、逃げよう! マニエルを倒すのはまた今度にすればいいよ!」


 痛烈な痛みに悶えて黒焦げになった全身を見渡していくと、右の拳が半分まで裂かれ、ダルフに打たれた背からは夥しい出血があった。

 予想外だった。一笑に付したダルフという人間の秘めたる力が、よもやここまで俺に肉薄するとは。

 忌々しい。これが、こんなのが勝利などと呼べるのか。こんな醜態を晒して……俺は。


「逃げるからねアモン」


 苦虫を噛み潰した表情の俺をセイルの展開する転移魔法のサークルが俺達を包み始めたその時だった――。

 地中の深くから巨大な根が蠢きながら大地を這い出し、桃色の魔法陣をかき消しながらセイルを空へと連れ去った。

 俺の目に飛び込んで来たのは、大地より大木の幹が幾本も混じり捻り上がって創造されていった樹木の檻が、そう言った生物であるかの如く蠢動しながらセイルを収監していく光景だった。そして自在に蠢く周囲の根が、少女の手首に手枷を付けてそこに封じる。


「セイル――!!」


 そして頭上にそびえる大聖堂の尖塔より、冷たい雨と共に、とてつもない魔力を携えた存在が降りてきている事に気付く。


「あと一歩届かなかったのね、ダルフったら……うふふ。後でお仕置きしなくちゃあ」


 俺はよろめきながら丸めた腰を立ち上がらせ、乱れた髪をかき上げながら天を見上げる。


「マニエル……」

「こんな状態で天使の子と戦わなければならないのですか!?」


 片翼の小さくなった灰色の翼をひるがえし、エメラルドグリーンのローブが旋回しながら降りてきた。

 空に留まり嫌味な笑みを刻み付けたマニエルより、押し潰される様な重圧が放たれて来て俺を襲う。


「ご機嫌よう終夜鴉紋。アナタの大事な家畜を()()食べられたくなかったら。逃げないでよね。逃げないわよねぇ?」

挿絵(By みてみん)

 金髪を空に揺蕩わせ、マニエル・ラーサイトペントは冷酷を思わせる微笑と共に口元を緩めていた。

 するとセイルが籠の中で体を起こし始めたのに気付く。ハッとしたフロンスが、頭上に出来上がった檻へと向かって声を上げていた。


「セイルさん、転移魔法を!」 

「フロンス……駄目、魔力が練れないの。私はいいから逃げて」

「魔力が?」


 セイルに変わって言葉を返したのは、俺達とは声の調子の違うマニエルだった。奴は白々しい仕草で口元のほくろの辺りに指先を添えながら、ふざけた調子で片目を閉じて白い歯を見せて喜んでいる様だった。


「だぁーめーよ~。その手枷は私の能力で創り上げたベルンスポイア鉱石で出来ているの。それに触れている限り、魔力なんて練れないんだから〜」


 セイルの手元で魔力を封じると手枷が紫色に明滅しているのが見える。どうやらその鉱石が、セイルの練り上げようとしている魔力を吸い上げてしまっているという事らしい。

 マニエルのサディスティックな視線が、悶えるセイルを見下ろしながら歪んでいる。


「だからその可愛らしいお嬢さんの転移魔法はここでは使えませ~ん~。抵抗しようったって……めっ! アナタは私が満足するまで、傀儡の様に滑稽に踊り続けるの。ね〜終夜鴉紋」


 ふざけた調子で人差し指で小突くような仕草をして来るマニエルに向かって、俺は目一杯に侮蔑を込めた視線を上げていく。


「あっ、反抗的な目ですね、これはいけませんねーそんな怖い顔をする子には……こうですっ」

「痛いッ!!」

「セイル――!!」

「アッハハハハハ!」


 セイルを囲った樹木の格子の一部が变化して、鋭利となった棘が彼女の左の掌を貫いていた。


「いいのアモン……私のことはいい。だから……戦って」

「だって〜〜アモン。どうするのぉ?? ねぇどうすんのおおーー?? わあーははははっっ!!!」


 声を殺して痛みを堪えるセイルの横で、マニエルは身を乗り出して、悪戯をしている子供の様に俺の反応を観察していた。当然セイル顔の横には、再びに形成された突起物が突き付けられている。奴の魂胆はセイルを人質にして俺を一方的に痛ぶるという事らしい。


「マニエル……貴様、何処までッ!!」

「アハ! ……この私を愚弄しておいて、よもや普通に死ねると思っていないよな下等が」


 一瞬だけ迫真の面影を見せたマニエルだったが、すぐに様相は元の調子へと戻っている。

 そのまま奴は優雅に空を舞いながら手元のハープを一撫でしていった、するとその音色に合わせて大広間に生い茂る木々が音を立てて捻れ始める。


「ええと、どうだったかしら……確かまーるい大きなお鼻に、ちょび髭でしょ? それとー……あっ、そうだ! 大きくて可愛いお目目を忘れてたっ」


 木片や草花はその身を凝縮していって、醜い木偶となった。そこにガリオンの精巧な頭を乗せて。

 未だ周囲に残っていた騎士達もこの光景に声を震わせている。しかしガリオンの頭を乗せた木偶は、マニエルの鳴らすハープの音に合わせて次々に生み出されていった。


「そんな……ガリオンさん! マニエル様、どうして」

「ひどい、彼を弄ぶ様な、こんな……」


 非情を思わせるマニエルが、カッと目を剥きながら俺を見下ろしていた。

 

「……なぁマニエル」


 騎士の悲しみを掻き分けたのは俺の声だった。鳥肌の立つ位の重圧を前にしながら、俺は不敵な笑みを向けて一歩踏み出し、首の骨を鳴らす。


「ムキになって……余程癪に障ったみたいだな。その大仰な翼に傷を付け、地に叩きつけたこの俺が」

「……はい?」

「自慢の長髪はどうしたんだ? 前の方が似合ってたぜ? それとそのアンバランスな翼は? まるで誰かに焼かれたみたいにひどい有り様だ」


 マニエルは俺の言葉を受けてから、冷めた表情に直って口を結ぶ。

 するとベキベキと音を立てて現れるガリオンの木偶が生産速度を上げて、たちまちに俺達を取り囲み始める。


「っもう、挑発しないで下さいと言ったのにっ!」


 フロンスが困惑しながら紫色の魔方陣を起こして、手近に転がっていた十名ほどの騎士の骸を立ち上がらせる。

 本当にこの様な劣勢の中で戦うのかとフロンスに目で問われたが、深く考えるよりも前に、この苛立ちと怒りと、根拠の無い確信が俺を突き動かしていた。


「いまの発言……後悔するなよ終夜鴉紋……!」


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