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【悪逆の翼-road dark-】  作者: 渦目のらりく
第六話 黄金の瞳
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第六話 黄金の瞳(3/7)


「隊長!」

「ダルフ! 無事かっ!?」


 ガリオンが兵を押し退けて大木に背を預けた姿のダルフに走り寄っていく。

 白目を剥いていたダルフが血を吐きながら意識を取り戻していくのが見えた。そしてクレイモアを地に着いてよろよろと体を引き起こしていく。その満身創痍の姿を見た騎士達は狼狽していた。

 血に塗れながらも、不屈の黄金は何度も現世に立ち上がる……。


「倒れる訳には、いかない! 両親の敵を取るまでッ!! 奴を殺すまではっ!!」


 ダルフは苛烈な表情を衰えさせる事無く、歩み寄って行く俺を半分閉じた瞼で見上げてクレイモアを握り締めていた。


「ちっ……」俺は思わず俺は舌打ちをする。


 弱いくせに、何も叶えられないくせに、力無いくせに、一端に正義を振りかざす愚劣な奴め。

 対立した正義に決着を着けるのは力だ。力以外には無い。勝った者が正義となり、劣った者は悪と断ぜられる。

 正義だ悪だという問答に着地点は無い。いつだって、力ある者の行く先が覇道となる。

 俺はそれを身に沁みて理解している。

 だから力は弱めない。いかなる場合も!


 しかしなんだ? コイツを眺めていると、胸の奥にザワワと鬱陶しい靄がかかる感じがする。弱いくせに、何度だって敗北するくせに、亡霊のように蘇って何度でも絡み付いて来る。

 ――黙れ。強い者が正義。それが全てだ。それが摂理だ。

 貴様を見ていると胸がむしゃくしゃとして堪らないのは何故だ?


 ……そうか、コイツがまるで現実を知らぬ子供の様だからだ。

 世の中を知らず。でかい夢を語り、強情に駄々をこねる。

 そんな有様を見下ろしているかの様な気になって来るから、俺は苛ついているんだ。


 子供の様な理想を語る哀れな亡者が。貴様が蘇るというのなら、俺は何度だって捻り潰し、その心を破壊してやろう。

 貴様は弱いのだから、いつだって喰われる側なんだ。


 膝に手をつきながら立ち上がって来たダルフが、血の滴る口元を食い縛って俺を睨み付ける。


「殺す殺してヤルッアモンッッ!」


 何度引きずり倒しても、この男は立ち上がり続ける。しかしその体には着々と、確かなダメージが刻み込まれているのが見て取れた。  

 肩を激しく上下して呼吸に喘ぎながら、砕けた顎から滝の様な血を足元に落としている。気道に入った血液にむせ返り、呂律の回らない口調で奴は激情したその顔を持ち上げていく。

 その不屈の意思には感服する。だが結果は何度やっても同じ事だ。

 弱いお前は何もする事が出来ない。いくら喚いてもその声は届かずに、大切な者も全て破壊し尽くされる。

 弱い事は罪だ。正義とは強くある事だ。守るとは力で捩じ伏せる事だ。

 ――お前の様な奴には何も叶えられない。


 燃え盛る灼熱の憎悪をこちらに向けながらクレイモアを持ち上げ始めたダルフの前に出て、俺と奴との視線が交わるのを遮る者があった。


「悪意に悪意で応えるなダルフ」


 ガリオンと呼ばれていた口髭の騎士は、兜の上の装飾の毛を風になびかせながらこの俺に完全に背を向ける形でダルフと向かい合っていた。


 何やら二人で言葉を交わし合っているが、どうでもいい。この俺という脅威を前にしながら無防備な背中を晒した無謀を死の淵で後悔するがいい。

 俺は弱き人間に向かって歩み始める。

 ガリオンという巨漢の背中を挟んだ形で、怒りに囚われていたダルフの表情が徐々に落ち着きを取り戻していくのが見えた。奴もまた俺が歩み寄って来ている事には気が付いている様子で、未だ語る事をやめようとしないガリオンと俺の方とを交互に窺う様にしている。


「忘れるな……我々は騎士だ。この世界の民を守る正義の騎士。悪意に向ける激情に、自らも悪意を混じり込ませてどうする」

「ガリオン……」


 近付くにつれて二人がぐだぐだ語っているのが聞こえて来たがどうでもいい。これから八つ裂きにする奴等の言葉など聞く必要も無いと思って耳も貸さなかった。

 奴等の問答は未だ続いていた。


「悪意に相対した時こそ、我を忘れてしまいそうな激情に飲まれた時こそ、何時如何なる時も、騎士として正義を携えろ。……もっともこれは、ヴェルト隊長からの受け売りの言葉だけどな」

「父さんの?」


「……ハッ」

 奴等の会話が聞こえて来て、唾棄する様に俺は笑ってやる。

 人生間際の感動の会話だな……いつまでもやっているがいい、そして死ね。


 いよいよその背を殺戮の範囲に捉えた瞬間、俺は地に手を着いて強烈は推進力を得ながら急接近し、腕を振り上げた――。

 すると刹那に、騎士達が面頬を下ろしていく物音と、ガリオンの放つ声を聞く。


「……そして時に……誇り高き騎士は、その高潔なるプライドをも捨てる。それは――」


 ――次の瞬間に俺は、タイミングを見計らっていたかの様な騎士の無数の盾に覆い被さられていた。


「――何ッッ!」


 手出し無用とされていた筈の周囲の騎士が、そんな素振りなど一切なかったのにも関わらず、示し合わせたかの様に一斉に反旗をひるがえして来たのだ。

 破顔しながら俺へと振り返って来たガリオンが、その背で唖然としたダルフへと語るのが聞こえた。


「――正義の執行の為に」

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