表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪逆の翼-road dark-】  作者: 渦目のらりく
第四話 天使の子
23/53

第四話 天使の子(4/9)


「ん?」


 俺の耳が自分達の立てるのとは違う物音を聞き取った。何処か近くで、まるで枝を擦り合わせるかの様な軋んだ物音が確かにしている。フロンスとセイルもその異変に気付いた様子だった。


「アモン。こっちからも」

「あちらからもです。囲まれました」


 森の至るところから唐突に湧き上がる不可解な物音。しかし一介の兵であれば、もっと素直な足音などが聞こえる筈だ。

 一つに固まって背中を会わせた俺達。セイルは怖がって俺の背中を強く握っていた。

 やがて闇の木立の向こうから、覚えのある声が聞こえて来る


「貴様……許さんぞぉ、俺をこの俺をロチアートなんかに喰わせやがって」

「メルトか? しかしメルトは……」


 そしてまた別の声が背後の闇から続いて来る。


「我のみならず弟の命まで奪った罪、償わせてくれようぞ」

「アモン。あの時の騎士様の声だよ」

「ドルト・メニラか、しかし何故だ、奴も確かにこの手で……」

「アモンさん、まだです、至るところから」


 鬱蒼と茂る暗い森の奥から、(せき)を切った様に亡霊の声が俺達に語り掛ける。


「痛い……まだ痛む。お前に裂かれた腹が」

「やっと都の騎士になったばかりなのに、お前さえ来なければ!」

「家畜に喰われるなど、屈辱の極み。この恨み貴様の末代まで祟って……」

「父さん母さんごめん。あいつに殺されたんだ。あの悪魔に!」

「殺してやる」


 何時しか俺は死人の声に囲まれていた。訳が分からずに額から冷たい汗が垂れて視界を遮って来る。


「どういう事だフロンス」

「わかりません。わかりませんが人間の出来る芸当ではありません。私の『死人使い(ネクロマンス)』でも、生前の声や意識は再現出来ません」

「つまり……」


 ――その瞬間、とてつもない豪風に襲い掛かられた。辺りの草木までもが飛び散って、勢い良く空に流されていくのが見える。

 俺は咄嗟に黒くなった腕を地面に深く突き刺して、下半身が浮き上がる程の猛烈な突風を堪え忍んだが、セイルとフロンスは共に後方に吹き飛ばされていった。


「セイル! フロンス!」


 フロンスはセイルを抱いて防御魔法で身を包んだ。しかしその突風の勢いのままに、大木に背中を打ち付けて血を吐いた。


「くっ……セイルさんは、無事です」


 フロンスが苦悶の表情で腕を開くと、そこからセイルが顔を出して辺りを見回していくのが見えた。


「逃げて……ください。天使の子とは決して闘わない……でくだ……私は置いて」


 意識を失ったフロンスに駆け寄ろうとすると、背後から強烈な気配を感じて俺は振り返らざるをえなかった。


「二匹の家畜は後でどうとでもしましょうか」


 余りの風に地形が変わり、そこにあった木々が折れて視界が開けていた。そしてその先から、月光に照らされながら、緑色の翼で空を漂う存在が降りて来る。

挿絵(By みてみん)


 エメラルドグリーンのローブを身に纏い、金の長髪をひるがえすその女は、背に生えた()を羽ばたかせながら地に足を着ける。


「翼……っ!」


 緑色の澄んだ瞳が俺を正面に見据える。まるで伝承にある天使の様な姿形をした女は、手元の小さなハープを一撫でして、ポロンと音を立てた。


「天使の子……か?」

「私を知らないのです? はぁ、よもや私が名乗らねばいけないとは……」


 さも面倒そうに子首を傾げながら、その女は名乗り始めた。月光に白くその身を輝かせながら、左の顎にほくろのある印象的な口元で。


「第七の都ネツァクを守護するマニエル・ラーサイトペント。アナタの言う所の天使の子です」


 フロンスがあれ程危惧していた存在が、気付いた時には目前に佇んでいた。確かに何か尋常では無い気配、ただ事では無いそういった風格が、この女からは滲み出している気がする。


「仲間毎吹き飛ばしたみたいだが、良かったのか」

「私は一人で来ましたよ? 騎士達をこれ以上減らされるのは困りますので。あはは、凄く止められましたけど、無視して来てしまいました」


 口元を隠して上品に微笑するマニエル。肉感的な容姿とは裏腹に、その女から迸る凄まじい力を肌に感じる。


「一人だと? では先程の無数の声は何なんだ?」

「あぁ、あれですか。うぷぷ……アナタはその異能力の腕で沢山の人を殺したのでしょう? ならば沢山の人達の怨念では無くて?」

「怨念?」

「それで、どうするのです? 怪我もしている様です。アナタのお仲間は逃げろと申していたようですが……」

「ふん」


 ――すまんフロンス。


 俺は大股を開いて拳を構えていく。この拳に滾る張り裂けんばかりの怒りが、逃走という選択を自失させている事にも気付かずに……。


「そうですか、罪深いお人」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ、評価、レビュー、感想よろしくお願いします。 ↑の☆☆☆☆☆を★★★★★に塗ってくれたら投稿頻度が上がります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ