第〇話 これは復讐の物語なのだ。
第一章 この世界の全てが悪だ
【画:久賀フーナ様 Twitter:@hu_na_ 】
そこが四度目のエデンである事はわかっていた。
降りしきる冷たい雨の中で、頭から闇を被った様な男が慟哭していた。
その咆哮は激しい怒りに満ち溢れていたが、同時に海よりも深く、闇夜の様に暗澹とした悲しみが同居している事が俺にはわかった。
終末世界の惨状を俯瞰している俺のこの胸に、極魔の慟哭が流れ込んで来る。
大罪を司りしケダモノ。
人に原罪を背負わせし蛇。
かつての星。失墜した明けの明星。
悪と定義された、人間の敵。
……何故俺はそんな事を知っている?
――そして毒の様な怨嗟が、悶え苦しむ男の口より垂れ溢されるのを聞く。
「この世界の全てが悪だ」
輪郭を伝う血の涙を顎先から垂れ落とし、男は深淵とも知れぬ怒りの汚泥に呑み込まれながら、足元に現れた奈落に堕ちていく。
「堕ちろ悪魔、愛しき魔王よ」
そんな聞き覚えのある声を耳にしながら、男は次元の狭間に投げ出された体を捩って、小さくなっていく将の影を見上げ続けた。
烈火の如く燃え上がった視線の中に、果てしのない大火を逆巻かせながら。
「俺の家族を生きたまま焼き続けた貴様達の非道を忘れない……!」
――必ず戻る。待っていろ、ミハイル。
そこまで聞いて、俺は思い至る。
これが復讐の物語であるのだという事に。