第2話「旅立ちの日」
あのあと、なんやかんやあって
世界樹の入口付近にある宿に泊まった。
なんと、この国はタケノコであれば生活に一切の金銭が発生しないらしい。
タケノコにとっては間違いなくパラダイスだ。
かくいう俺もタケノコなんだが。。。
ちなみにこの世界の通貨は「円」ではなく、「バンブ」と呼ばれている。
つまり、お金はタケノコじゃなく竹らしい。
「おはようございます。」
「おう、おはよう。」
キノコが挨拶してきた。
こいつはなんで自宅に帰ってないんだ?
まぁ、いいけど。
俺は朝ごはんを食べながら今日の予定を考えていた。
今日は何しようかな〜。
「よし、散歩するか。」
俺は部屋を出て、宿屋を出た。
「この辺りって何があるんだ?」
俺は特に行くあてもなく適当に歩いていた。
すると、目の前に大きな建物が見えた。
「あれは、奴隷商ですねぇ。」
シレッとついてきてるな。こいつ。
「奴隷か。どんな感じなんだろ?」
「私は行ったことないので分かりませんが、大体の人が奴隷は嫌だと言っていますね。」
「そうなのか?」
「はい。」
「ふーん。」
正直、あまり興味がなかった。
その時はそう思っていた。
あんな事が起きるまでは…。
俺はまた歩き出した。
しばらく歩いていると、
「おい、そこのお前。」
後ろから声をかけられた。振り返るとそこにはガタイの良いタケノコが立っていた。
「俺ですか?」
「お前以外に誰がいるんだよ。」
そう言うとその男はいきなり殴りかかってきた。
当然俺は転生チートなのでこんなもの避けれ…
「るわけねぇだろ!」俺は殴られてしまった。
こちとらただのタケノコだぞ…。
「痛てぇ!」
俺は吹っ飛ばされて倒れた。
「何しやがんだよ!」
「何ってお前が悪いんじゃねぇか。」
「俺が何をしたんだよ!」
「お前はなぁ……俺様のシマに入ってきてんだよ!」
「シマってなんだよ!シマウマかよ!」
「やめた方がいいですよ。この方は魔剤軍のタケノコです。逆らったら危険です。」
「どこぞのモンスターみたいな名前しやがって!」
「うるせぇな。黙ってろ。」
そう言ってそいつはキノコを殴った。
「ぐあっ……。」
「お前……よくもやりやがったな……。」
俺は怒りに任せて、そいつをぶん投げた。
「っ!?」
俺が投げたと思っていたものは魔剤タケノコではなく、貧相なタケノコだった。
「どうだ?これが俺様の能力。位置転換だ。お前も奴隷なんだから俺の役に立てて嬉しいよなぁ?そうだろ?」
「はいっ…嬉しいです…。」
盾にされたであろう貧相なタケノコは弱々しく答えた。
なんだ…これは?
同じタケノコじゃないか。
魔剤だって。胡散臭いキノコだって。貧相なタケノコだって
皆同じタケノコじゃないかっ!!
「おい、お前。」
俺はそのタケノコに声をかけた。
「ひっ……」
「助けて欲しいか?」
「え?どういう……」
「だから、今すぐここから逃げたいのかって聞いてるんだ。」
「そりゃ……もちろん……でも、無理だよ……」
「てめぇ。俺様の奴隷なに吹き込んでやがる?…良いこと考えたぞ!てめぇもぶちのめして俺様の奴隷にしてやるよ!」
「俺が勝ったら、俺の言うことを聞け。いいか?」
「は?調子乗ってんなよ?雑魚が。」
「いいか?」
「ああ、いいぜ。その代わり、負けた時は俺の奴隷になってもらうぞ?」
「分かった。」
かつての記憶が蘇る。
まだ俺が人間だった頃の記憶。
「やめておけ、勝てるはずがない。」
「そんな事はないさ。俺はあいつに勝ってみせる。」
「君は一体何を言っているんだ?」
「俺は勇者になる男だ。」
「勇者?なんのことだ。それに、相手はあの魔剤軍だ。この世界を武力とエナジーで支配している奴らだぞ。とても勝てないよ。」
キノコが言っていることは至極真っ当だ。
それは俺が"ただのタケノコだったら"の話だが。
「そういえば自己紹介がまだだったな?まぁ、俺もさっきまで忘れてたんだが…」
力がみなぎる。
蘇った記憶が俺に使命を告げる。
この理不尽をぶち壊せと。
「俺の名は"あああああ"とある世界を救った勇者だ。まぁ今はタケノコだがな!」
「こいつなにいってんだ!お前たち!こいつを殺せ!」
魔剤タケノコの部下達が俺に向かって突き進んでくる。
しかし、今の俺には関係ない。
「"縮地"」
俺は一瞬で敵の懐に入り込んだ。
「は?どこに消えやがった?」
「ここだよ。」
俺は背後に回り込みながら蹴りを入れた。
「グハッ!」
魔剤タケノコの部下はその場で倒れ、動かぬタケノコとなった。
「まず1人。いや、1本?わからん。」
「なんなんだ!お前は!」
魔剤タケノコは動揺していた。
「俺はタケノコだ。」
「ふざけんな!」
「お前が聞いたんじゃないか。」
「クソッ……こうなったら仕方ねぇ。奥の手を使うしかねぇようだな。お前ら"アレ"を持ってこい。」
「何をしようとしてんのか知らねぇが。無駄だぜ?お前は弱い。」
「こいつを見ても同じことが言えるかな…?」
「なっ!?」
そこに居たのは"人間"だった。
かつての自分と同じ種族。
何重にも拘束された少女がそこに居た。
今までタケノコしか見てこなかったから
タケノコしか居ないと思い込んでいた。
でも、まさか"人間"が居るとは…。
「その子を…どうするつもりだ。」
「この世にも珍しい古代種はなぁ。特殊な力を持ってやがるんだ。ほら、行け。」
魔剤タケノコはその少女のことを蹴り上げた。
「━━━━━━━━━━━━」
声にならない叫び。
少女の拘束は解かれ、ボロボロの身体で立ち上がる。
そして。
「ボリボリボリ…ゴクン」
おもむろに倒れていた部下タケノコを食べ始めたのだ。
すると
「ぐっ…うっ…はぁはぁ。」
苦しげな声を上げた少女の体は
先程までのボロボロなモノではなく。
健康的で力の宿った肉体になっていた。
「なるほど。タケノコを食って力に変える能力か。極めて健全だな。」
「いつまでぼーっとしてやがる!早くアイツを殺せ!」
「がぁっ…うっ…」
そいつはまた少女を蹴り飛ばす。
「やめろ!仲間じゃないのか!?」
「仲間だぁ?奴隷だよ。ド、レ、イ。俺様のためのただの道具だ。まぁ今は借りもんだがそのうち正式に俺のものになる予定だ。俺は今にでかい功績あげて魔剤将軍に成るんだからなぁ!」
「そうか……。」
俺は静かに言った。
「あ?なんか文句あんのか?」
「お前はもう喋るな。」
「んだと?」
「"縮地"」
「なっ!?」
「あばよ。ドクズ。ちったぁあの世で反省するんだな。」
瞬間。
魔剤タケノコの頭が飛ぶ。何処が頭か分からんが。多分頭飛ばした。え?大丈夫だよね?
背後には倒れ伏す魔剤の屍と怯える奴隷2人。あとキノコ。
魔剤の部下はほとんどが逃げてしまったらしい。
人望は欠片もなかったらしい。
まぁクズだしな。
「さて。お前らはどうする?」
「えっと……」
「奴隷をやめたいか?」
「はい。」
俺の中の勇者が許さなかった。
この世界の現状を。
理不尽を受ける人々が居ることを。
「なら、俺と来るか?」
「え?…」
「俺はこれから魔剤軍を潰す旅に出る。危険はあるが奴隷商に戻るよりはマシだろう。どうする?」
「お願いします!」
2人は同時に答えた。
「よし。決まりだな。」
こうして俺は旅に出ることを決めた。
「お前の名前は?」
「私ですか?私は……その……"ああ"です。」
「ああ?どういう意味なんだ?」
「分かりません。生まれた時からずっとこの名前なので。」
「そうなのか……じゃあ、俺と一緒だな。」
「え?」
「俺の名前も"あああああ"なんだ。」
「どういう…意味なんですか?」
「勇者って意味さ。」
こうして旅に出ることを決めた俺と少女と奴隷タケノコ。
キノコどこいった?
まぁいいか。
魔剤軍。正直どんだけでかい敵なのかはわかんねぇ。
だが俺がここに呼ばれた理由はそういうことなんだろう。
なんせ俺は勇者なんだから。
転生したらタケノコってまじで!?
第2話「旅立ちの日」~完~