姫神さまがお昼寝する前のこと よん
白虎さまのお社、その庭。
玉砂利の上に正座する猫神と恋人。仁王立ちの白虎さま。扇で顔を隠して欠伸する白蓮さま。面倒とか思ってる姫神さま。おいおいと泣き崩れる猫神さまの元側近。猫の身体なのに、器用に正座している。スゲェな、と姫神さまの注目の的である。
「カオスやなー」
のほほん、と姫神さまが呟いた。当事者の意識? ないね!!
側近の話を中心に、猫神さまのフォローを入れてまとめてみたところ。
始まりは姫神さまが猫神さま(猫バージョン)を助けたところから。
「助けたくてやったわけじゃないんだけど。てか、助けなきゃよかった」
まあまあ。しかし、姫神さまに恩ができた。恩は返さなくてはいけない。猫神さまに相談した側近は、すげなくあしらわれた。
曰く「勝手にしろ」と。
側近は、あっちの女にふらふら、こっちの女にふらふらと、遊びの激しい主に落ち着いて欲しかった。
主の手網を握ってくれる奥方を探していた。自身の恩人なら無下にできまい、話も聞くだろうと求婚した。
「え、そんなチャラ男に嫁ぐわけないじゃん」
「主にも言いました許可もとりました! 好きにしろとのお言葉も頂いての求婚です! 署名も本人から頂きましたし!」
しかし本人は覚えてないわけで。
「そんな!?」
「覚えてないものはない!」
ぎゃーぎゃー責任転嫁する主従に、キレたのは姫神さまだった。
「……ふっざけんなやこの阿呆共が!! なんで恩返しが求婚なんだ! そんなの喜ぶ女がどこにいるのさ!! しかも求婚と言いつつ拒否権なしとかなんなんだ! もらってやるから感謝しろってか!? なんだその上から目線どんだけ偉いんだよ!! 無理強いして当たり前なほど偉いのか! 下々の気持ちなんて考える必要ないのか!!」
「耳が痛いな」
「驕りは我が身を滅ぼすからのぅ」
「なんでそっちの都合ばっかりなんだ! しかも隠しておくあたりヤバいのわかって押し付けようとしたってことじゃん! こっちの都合も聞けよ! 打診くらいしたらこんなことにならなかったんだよ! 断るんだから!! こんのアホンダラがっ!!」
この苦労の原因がこんなくだらん理由とかさぁ、ないわー。もうホントバカじゃね?
ぜぃはぁ肩で息をする姫神さまを、白蓮さまが慰める。美女と美少女、眼福ー。
「しかし、ならばなぜ署名が入った誓約書が二枚あるのだ?」
先に書いたものを破棄しない限り、二枚は存在しないらしい。名前を書こうとすると弾かれるそうだ。
「ああ、親が勝手に書いたそうじゃ」
さらりと爆弾投下。白蓮さま、狙ってましたね?
「この者は婚姻を望んではおらなんだ。金と権力に目が眩んだ親に売られたのじゃと」
「……ならば、この誓約書は無効ではないか」
ぽそりと白虎さま。ほんとそれなー。これが数年前にわかってたらなー。ほんとそれなー。
「疲れた」
ごもっとも。