姫神さまがお昼寝する前のこと さん
お社内がザワついたのに気づいたのは、ふたり同時だった。
「?」
「何事じゃ」
白蓮さまが側近に問うと、それが……と言葉を濁された。
「例のお方が」
「ああ。ようやっと来たのかえ」
「はい。いえ、あの、はい……別の女性をお連れになっております」
「「は?」」
言葉がでなかったがとりあえず、と案内の元向かうと、お社の外の玉砂利の上に正座させられている男女ふたりと、仁王立ちする白虎さまがいた。
「へー、猫神ってあんな顔なんだー」
柱の影からこっそりと覗くふたり。
「好みかえ?」
「いや、全然」
この数年ですっかり仲良くなったふたりである。もはやタメ口。
「ようやく花嫁に会いにきたかと思えば、そこな女は何者か」
怒りを抑えてるので低い声の白虎さま。すってきーと姫神さまが言えば、そうであろう、と白蓮さまが頷く。謙遜なしに素敵なご夫婦なのだ。
「花嫁? 長さま、彼女はわたしの最愛の女性にございます。婚姻を結びましたので、ご挨拶にと」
「は?」
こえー。は? だけで殺気がぶわっと広がったよ? 寒いほどの怒りである。
「あの阿呆、そうとうなうつけであったのじゃろうか」
「てか、白虎さまの殺気に気づかない神様ってどうよ?」
「鈍感じゃの」
「ニブチンですむ話?」
神格が足りないのか、神力不足なのか、婚姻でお花畑なのか……どっちにしろ阿呆である。あろうことか白虎さまの元へ、浮気相手を連れて結婚を宣言しやがったのである。これを阿呆と言わずにどうする、と白虎さまのお社は上から下まで大騒ぎになったらしい。
まー、皆怒るよね。激おこだよね当然だよね。
ガチで姫神さまのこと忘れてたんだもの、この阿呆神。
「この愚か者共が!! そなたはとうに別の者と誓約書を交わしておるだろう! 神が重婚などと聞いたことがないわ! 阿呆が!!」
怒髪天ってこれを言うのかー、と姫神さまは思った。他人事にしてしまうくらい、白虎さまが怒ってくれたから。
「え、な、は? 誓約書?」
「だから言いましたのに言いましたよ念押しもしましたよ確認だって何度もしたのにわかったわかったわかってるって繰り返すから進めたのに今更知らないなんてなんですか知りませんよもう知りません!」
なんとまぁ、息継ぎなしで言い切った側近の疲れてはいるが、清々しい表情のこと。
その場で猫神さまの側近を辞退するとまで宣言しとる。今までの鬱憤大噴火ってところか。
「話きかない人っているよねー」
人ではないがな。
「……は?」
ポカンキョトンの猫神は、配下の側近達の反乱に唖然。いや、対処しろよ。
隣の女は、空気を読んでそっと消えようと、する前に白蓮さまの側近が捕まえていた。有能である。
渦中のふたりを拘束後、尋問は白虎さま自らなさった。心中お察ししますー。
側近の報告を踏まえた上なので、嘘も言い訳も通じない。
なのにさぁ。
「真実の愛を邪魔するその者が悪いのでは?」
なんなん、それ?