姫神さまがお昼寝する前のこと に
「そなた、なぜ嫁入り時に暴れていたのかえ?」
初めて理由を聞かれた姫神さまは驚いた。神様はこっちの話を聞かん生きものと思ってたので。
忖度無しに、正直に話したよ。
両親のこと。求婚しに来た神の遣いのこと。一度も顔を見せなかった猫神さまのこと。
「は? 顔を知らぬとな?」
「見たのは猫の時だけだったなー」
声も知らんな! とハキハキ答える姫神さまに、白蓮さまは眩暈がしたよ。
「いや、それはおかしかろう? そなた、誓約書に署名したのであろう?」
「親がしたはず。私はしてない」
「は?」
神様も唖然とするこの事態。収集はつくのか。
「勝手に誓約書とかいうのに名前書いた親も、神様の遣いとかいう話も聞かないで結婚の話を進めた奴らも、未だに会ったことない神様も、人の事バカにしすぎじゃない?」
「そなたは自らの意思で嫁ぐのだと、思い込んでいたのじゃ。それ以外の婚姻を見たことがなかったゆえ」
すまぬことをした、と白蓮さまは頭を下げてくれた。
すでに神の花嫁になるためのあれこれは始まってるし、誓約書は取り消しが効かない。あれ、これ詰んだ?
「では、そなた。神の花嫁になりたいわけではないのじゃな?」
「なりたかったら暴れてないよね?」
「確かにな」
「断ったのに、無理矢理連れて来られたから逃げようとしただけだよ。誰も彼も人の話を聞きもしないし。どんだけ偉いのさ」
「すまぬの」
やってらんないわなー、けっ。毒づく姫神さまを白蓮さまは止めなかった。
「誰ぞ。誓約書を持ってまいれ」
誓約書は本人が書いたのなら反応を示す。自らの意思で同意したという証拠だから。けれど、白蓮さまの手にある誓約書を姫神さまに近づけても、なんの反応もない。わずかすらなにもない。
それをしらーっと眺める姫神さま。
「神様って、さぁ」
「……返す言葉もないのぅ」
ようやく、ようやく相互理解が成立した時の脱力感ときたら。思わずふたりで遠い目をしちゃったよね。
「娘よ、誠にすまなんだ。最初に話を聞こうとせなんだ我らの怠慢である。謝罪で済む問題ではないが、しない訳にもいかぬ。すまぬ」
それからは、花嫁修行はなくなった。しかし、すでに始まっていた神の眷属になるためのあれこれはリセットできないため、姫神さまの意思を確認の後、神になるための修行に切り替わったのだった。
姫神さまの神力の器の大きさに気づいた、白蓮さまの独断だったが、これで良かったのだと後々しみじみ思う白蓮さまなのである。
そうして何年かが過ぎ、神力を満たし終えた頃、後は白蓮さまの元で実施研修を残すだけになった頃。
茶トラの猫神さまの浮気(?)が発覚した。