クウちゃんは姫神様のお昼寝を止めない
お久しぶりです、よろしくお願いします
姫神様のサラサラの髪を櫛で梳くクウちゃん。
気持ち良さげに目を閉じている姫神様は、今にも寝てしまいそう。まあ猫だしな。
「本当に、姫神様の御髪はキレイな茶色でございますねー」
茶髪の姫神様は、猫になると茶トラになる。かっんわいいんだぞー。
「クウちゃんの黒毛もキレイだよ?」
「人それぞれですねー」
「みんな違うからいいのにね」
クウちゃんは、とある神様の神守をしている母から産まれた。一匹だけ黒だった。黒は忌色だと、信じるおバカさんがまだそれなりにいた。
産まれた時からずっと神守である母のそばにいた。母は子供達に平等だった。黒だからとクウちゃんを差別したことなど一度もない。
そんな尊敬する母のように、と神守を目指したのは当たり前の気持ちだった。
優秀だったクウちゃんに、周りの神守候補は嫉妬した。
「黒のくせに」
「だから黒は」
「これだから黒は」
「やっぱり黒は」
負け犬の遠吠えは遠くから。努力の子のクウちゃんはそんなおバカさん達に負けなかった。
とうとう、実力行使に出たおバカさん達の前に立ちはだかったのが、我らが姫神様であった。
「実力で勝てないからって数で押さえようとか、バカじゃね?」
神聖なお社でなにやらかしてんだこの阿呆共が。とかなりお怒りでもあった。
「なにが忌色だ、阿呆。神に仕える身なら黒は常に身近だろうが。自分達の努力が足りないのを人のせいにすんなたわけが」
ビリビリと神力が圧となって神守候補達を襲うが、手加減はしない。する必要はなかろ、と姫神様は後ろを見ずに言った。
そこには、このお社の神様がいた。なったばかりの新人神様だもんで、たまに姫神様のチェックが入っていたのである。
「お前さんもだ。なりたてとはいえ、神と呼ばれる存在になったというのに、こともあろうに己が黒を忌避していたとは何事かこのド阿呆が」
「あ、え、あ、の?」
オロオロと、え、なにが悪いの? とばかりの態度の神様に、姫神様の怒りが雷となって襲う。
「ひぃっ」
「ないわー、マジないわー」
「え?」
ケロリと軽い口調に戻った姫神様は、ひょいとクウちゃんを抱き上げた。
「母御、この子はもらってく。ここにおいとくことはできんわ」
「……どうぞ、よろしくお願い致します」
クウちゃんのお母さんは、ただ、頭を下げた。これが、クウちゃんが姫神様の元に来ることになった経緯である。
「本当は、母に頼まれたんじゃありませんー?」
「なんの話ー」
「ふふっ」
ちなみに、あの神様は親神さまである白虎さまにもんのすごく怒られて、独り立ちを取り消された。今はまた修行中である。
「神に名を連ねた途端に欲に溺れる阿呆に鉄拳制裁しただけのことさ」
今はまともな思考の神が治めている、あの地域がクウちゃんの地元であることに変わりは無い。
姫神様が気にかけるのも当然なのである。
「お昼寝したーい」
「ふふっ、起きたばかりですよ?」
玉ちゃんに怒られるまで、あと少し。
ようやく花粉症が落ち着きましたねー。