玉砂利の上ではお昼寝したくない
お久しぶりです。よろしくお願いいたします。
ポカポカ陽気の日はお昼寝日和。
どんより曇り空もぬくぬく毛布にくるまって、お昼寝日和。
しとしと雨の日も、ざぁざぁ雨の日も、なんだかんだ全部お昼寝日和である。
だってネコだもの。
そんな訳で、姫神さまもお昼寝を満喫していた時のこと。
玉砂利がじゃりじゃりうるさく鳴って、人の声もする。穏やかじゃない声音に、姫神さまの耳がぴくりと動いた。
「……うるさい」
騒がしい声の主たちは、近所の高校生だった。四人いるが、三対一に分かれている。三人が一方的に喚いているようだ。
あらあら、ケンカですかねぇ。とのほほんと笑うクウちゃんに緊張感はない。
「神聖なるお社でなんたること」
と玉ちゃんはプリプリ怒ってるが、多分姫神さまのお昼寝を邪魔された方に激おこなんじゃなかろうか。
若者たちの言い分は、クールぶってんじゃねぇよとか、せっかく話しかけてやってんのに無視されたとか、なんなんお前ら子供かよと。
それでもスルーを貫くひとりに、とうとう手がでそうになった時。
「やかましぃわアホンダラ。ケンカなら他所でやんな」
ガラ悪な姫神さまがパチンと指を鳴らした。
「「「っ!?」」」
ぼふん! と音がしたと思ったら、彼らは猫になっていた。
「「「!? っにゃー!」」」
「わぉ」
黒ブチにシャム系に茶のハチワレ。お互いを見てはぎにゃー! と悲鳴? を上げ、ひとり人のままの少年を見てはズルいぞとばかりに鳴く。
「どっちにしろうるさいな」
神力使って疲れたのか、くわ、とあくびをひとつ。さて、寝直しますかと言わんばかりである。
ぎにゃーきしゃーうにゃーうるさい猫たちを、姫神さまはギロリと睨みつけた。
「ウチの社で一方的なケンカを許すと思うのか? 神の前で正当性を証明できるんだろうな?」
君たち姫神さまが神様だってこと、忘れてたね?
可愛い猫耳とゆらゆらしっぽが超愛らしい姫神さまは、由緒正しい神様なんだけども。
ぎにゃー! (じゃあなんであいつは猫にしないんだよ!?)
「そらー毎日マメにお参りに来るヤツは大事にするだろ」
にゃー (お参り? 毎日?)
「そう、毎日」
姫神さまの後ろでは、玉ちゃんとクウちゃんがそうそう、と頷いてる。
「ほぼ御百度参りですよねーあれって」
「真剣な祈りは私たちにも届きますし」
神守にも神力があるからね。てか、朝夜毎日お参りしてくる、しかも若者は目立つよ? みんな優しく見守ってたのさ。
「神にも出来ないことはある。が、毎日あんなマジな願いを聞かされりゃ、絆されもするさ」
「え?」
うわ、見られてた? ヤバい恥ず! とかわたわたしてた少年は、姫神さまをポカンと見た。
「まあ、寿命はいじれんが、運気とか魔除けとか厄祓いとか、色々重ねといたから、どれか引っかかるだろ」
「え、あ、あの?」
「難病の妹さん、寿命はまだまだ先だ。辛いことは続くが、終わりは来る。一緒に頑張ってやれるかい?」
「……はい!」
ありがとうございます! と勢いよく頭を下げた少年は、へらりと気の抜けた顔で笑った。気を張りつめてたんだろうね。
……にゃー (あのー)
少年の事情をちょっと察した猫たちは、姫神さまに謝罪して相談して人に戻れた。
そして、おずおずと少年にも謝った。その中のひとりが、親が病院関係者で色々相談乗ってもらえるかも、と声をかけた。
中々治療費とかもバカにならんしな。
思わぬとこから開けた先に、少年は泣きそうになりながらお礼をし、さっきまでやんのかスタイルだった少年たちも和気あいあいと励まし。
みんなで謝罪と感謝をして帰って行ったとさ。
「さて、寝るか」
あ、途中でしたね。お昼寝。
「もう夕食の時間ですよ」
「え?」
……寝そびれましたね、残念。
昼寝したいですよね。寝たら起きれなさそうだけど。