屋根の上でお昼寝したい
お久しぶりです。今年も亀更新ですがよろしくお願いいたします。
ぽかぽかお日さまが、さあ昼寝しなさい、と言わんばかりの長閑な昼下がり。
にゃぁ、と猫の鳴き声がした。
「うん、そうだな」
それに応えるような返事が返る。少し高めの、少女特有の可愛らしい声だ。
にゃあ
「うん。だがな考え方は人それぞれ違うだろ?」
にゃー
「なんで自分たちのことに首を突っ込むのか? そらお願いされちゃったし、仕方なかろ」
にゃにゃー
「論点をずらしたらダメだろ。今はお前さんの話だ」
にゃーにゃにゃー
「願掛けは正式な依頼だからな? 私にしたら仕事だ仕事」
ガチの御百度参りだぞ? 叶えんわけにいかんだろ。その声は少しお疲れ気味だ。
微笑ましく聞き耳を立てていた人々が、あ、お仕事ねとそれぞれの場所に戻って行く。耳は戻れないみたいだが。
にゃー!
「堅苦しいのはなしにしようか。お前さん、ウチの玉ちゃんの旦那だろ?」
にゃ、にゃー?
「なぜそれを? いや、だからウチの子だから。玉ちゃん」
にゃーにゃ
「その玉ちゃんがな、お前さんとの縁切りを望んどる」
シャー!
「正式にウチの子になったし、子供たちも巣立ったから、あとはお前さんと別れるだけなんだと」
シャシャー!
「お前さん、玉ちゃんの話聞こうともしなかったらしいな? そもそも発情期にしか擦り寄らなかった阿呆だそうじゃないか。情もなくなったと言ってたぞ?」
にゃシャー!
「あー、駄々こねても無理だろ。玉ちゃんの決意は硬かったぞ? なんせ神頼みだからなぁ」
に、にゃー
「素直に別れに応じた方がいいぞ? あれはマジだ」
シャー!
「悪あがきは悪手だぞ?」
フシャー!
なかなか話し合いに応じようとしない鳴き声に、少女の声がため息をついた。
「……喫茶店の看板猫、ミケちゃん」
シャ!?
「お前さんの彼女なんだってな?」
にゃ、にゃー
「自分の旦那に彼女がいるって、知った時の玉ちゃんの顔、見たいか?」
にゃー……
「だろうな。猫って般若顔できるんだ、って思ったわ。すげぇよ、玉ちゃん」
そらすげぇな、玉ちゃん。
……
「しかもミケちゃん、子供産まれたんだろ?」
にゃ?
「あー。お前さん、雄は種付けだけって思ってる口か? こないだウチの社に挨拶に来たぞ? 寿ぎはしたがなー」
にゃ……
「だろうなー」
玉ちゃんが知ったのはその時さー。と呑気な声。眠そうだ。ああ、そろそろお昼寝の時間だものな、と周りは微笑ましく続きを待つ。
なにせ、小さいとはいえ町のど真ん中、民家の屋根の上での話し合いだ。聞こえる声につい、耳をすませたとしても、そらしゃーないな、なのである。
屋根の上の一匹とひとり、いや一柱。少女は、この町を護る神様だ。町民からは親しみを込めて姫神さまと呼ばれている。
巫女装束の白単に緋袴、千早を羽織る推定十歳ほどの少女の頭には、ぴこぴこと動く猫耳。後ろからはしっぽがゆらゆら。本物である。
猫神様なので。
親神様は白虎様だが、姫神様は末端の神様なので、白虎様の任されている県の小さな町が縄張りである。
神様は基本、お社にて人々を見守り、お参りに来た者を言祝ぐのがお仕事である。
力のある神様なら、知事達に頼られることもあるらしいが、姫神様はこのまったりが好きだと、町のためには働いてくれるが、名声が広がるのは好まない。
ハッキリ言ってしまえば、ダラダラするのが大好きなのである。だって猫だもの。
そんな姫神様が、町の人々は大好きなのである。だって猫だもの。
ゆっくり連載していきたいと思います。よろしくお付き合い下さいませ。