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ロゼ

 叫びながら飛び起きて、必死に母と父と……そして兄の名を叫んだ。

必死に手を伸ばし、私を一人にしないでと。


ドアがバンと開き、入ってきた細い女性が私を強く抱きしめた。


「大丈夫だから……ね、スティア、落ち着いて」


背中を優しく撫でられて、今自分がどこにいるのかをようやく思い出した。

迷惑をかけてしまっている、泣きやまねばと、そう思えば思うほど、涙は流れていく。


私の嗚咽だけが響く室内は、カーテンの隙間から太陽の光が入っていた。


あの時は夜だった、時間の経過が気になった……


「あぁ……どうしよう……どうしよう……」


よろよろとベッドから出た私の横に立ち、マダムはそっと静かに教えてくれた。


「あなたは、ショックのあまり二日も寝込んでいたのよ」

「二日!」


あまりのことに目を見開き、不躾にもマダムを睨むように見つめてしまった。


「ええ、あまりにも目を覚まさないから、それはもう心配したのよ」

「では……では、もう、私の家は」


最後は言葉にならなかった。

へなへなと床に座り込んだ私の肩に、細くて美しい手がそっと添えられた。


「スティア、街では今、あなたの家の話題でもちきりよ。隠していても仕方がないこと、はっきりと伝えるわね……オベール家はもう無く、あなたのご両親はお亡くなりに……お兄様は行方不明よ」


あぁと胸が張り裂ける思いで、私は父と母を呼んだ。

そんな私をただ、そばにいて抱きしめてくれるマダムは、なすすべもなく、悲しむ私をただ見つめてくれた。









 何日経ったのか……起きていられる間中、私の目からは涙が落ちた。

こんなにも、泣き続けていられるものなのかと、そう、自分でも思うくらいに。


「こんなに腫れて……」


マダムは悲し気に寝込む私の横に座り、冷水に浸し絞った布で目の周りを抑えてくれた。


「お母様……あの」


ドアが控えめに開き、薄い水色のおさげが見えた。

私はボウとする頭で考えた、この家の人だろうか?

何日もお世話になっておきながら、私はこの家のことをまるで知らない。


「ロゼ……今は……」

「はい」


ロゼと呼ばれた少女はそっとドアを閉めようとした。


「お待ちになって……あなたは……この家の?」


ドアは半開きのまま、もう一度おさげの少女が見えた。

丸い眼鏡をかけていて、細く小柄だが、私と同年代に見えた。


「はい……えっと……」


戸惑う少女を手招きしたマダムは、そばにあった椅子に彼女を座らせた。


「私の娘ですわ。ロゼと申します、年はあなたと同じ、18歳ですのよ」

「私はロゼと申します、スティア様」


ロゼは一度立ち上がり、美しいカーテシーをした。

背筋がぴんと伸び、ぐらつきもない。

やり慣れていないとできない仕草だ、むろん伯爵令嬢であった自分にはできることだが、失礼ながらこの家の娘がここまで美しいそれをすることに、少々驚いた。


「……様だなんて、付けないでくださいませ、私はもう、伯爵令嬢ではありません……あなたもその……噂をご存じでは……」


彼女を前に少し冷静さを取り戻した私は、久しぶりに涙を流さずにそう聞いた。


「はい……噂は、そうですね。その……かなり出回っているかと……お父様の新聞でも取り扱っておりますし」

「お父様の新聞?」


私は訳がわからずに、マダムを見つめた。


「ええ、私の主人はこの街で一番大きな新聞社の経営者ですわ」

「……」


知らなかったことだ。

だが……知らせようにも私は寝込み、泣いてばかりで。

こんなにも迷惑をかけてしまっていることが、今更ながら恥ずかしく思った。

お読みくださってありがとうございます。

今日は二度目の更新をいたします。

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