街角のいざこざ ロミー視点
ビュウタイムズ社の女性記者、ロミー視点での街の様子です。
御者に通じる小さな窓がコンコンと叩かれた。
「ロミーさん、どうしましょう……」
御者の困った声でふと目線を窓の外へやる。
つい資料を読み込んでしまい、外への警戒を怠っていた。
「なにか、事件でもあったようね」
人々が集まってざわめいている、その中心は一件の何の変哲もない食事処だ、庶民に愛されていそうな素朴な外観で、小さな看板だけが唯一何であるかを示している。
私はしばらく観察した。
どうせこの騒ぎで馬車はしばらく動かせない、ならばと視線を巡らす。
前後に連なぬ馬車の中には、高位ではなさそうだが、貴族がいるのが見て取れた。
しかし、それらの御者は知らん顔で、前を向くばかりであるし、中の者も馬車から顔をのぞかせて辺りを伺うような者もいない。
近くに行けば、カーテンを引き、外から中を見えないようにしていることだろう、と、予想ができた。
貴族たちは、自分がこういう騒ぎに巻き込まれるのを好まない、事件があれば吸い寄せられるように集まってくる庶民とは、正反対だ。
それに、ここにまだ、店を襲った荒くれ者達がまだいる可能性もある、馬車の中にいたほうがいくらか安全であると、皆わかっているからだろう。
もちろん護衛も同乗しているはずだ。
しかし、貴族が読むビュウタイムズ新聞の購読者たちは、あらゆる事件に興味津々であるのもまた事実、身の上に火の粉が降りかかるのはごめんだが、やはり興味はあるということ。
高みの見物で済ませられるのなら、見たいという心理は、庶民も貴族も大した違いはないと、私はいつも思う。
「そのあたりの者に、聞いてきましょうか?」
取材の度に使う、なじみの御者は女性であるロミーをいつも淑女のように扱ってくれる。
だが、ロミーはその言葉に居心地の悪さを感じ、ため息をついた。
「いえ、必要なら自分で行くわ、私は記者ですからね」
「それはそうでしょうが……」
御者はそれ以降口をつぐんだ。
ーーいつからこんな風に治安が悪くなったのか。
ハイスロリア王国は、悪い方へと変わろうとしている……。
今すぐにでも取材をしたいという、焦れた思いで、窓から民衆を眺めていると、馬に乗った一人の騎士が人々をかき分けて到着した。
ーー兵士ではなく、騎士……
騎士に気づいた者たちは、言葉もなくすっと場所を開けていく。
私は違和感を感じ、じっと観察した。
騎士は馬を降りずに言葉を発し、なおも店を覗く人々を散らせた。
いつまでも集まって、通りを塞ぐことを良しとしなかったのはわかるが。なぜ、騎士がここに。
それに、深紅のマントに、金の羽の生えた黒い龍……
王妃直属の近衛ではないか。
なるほどと、先ほど目を通していた報告書をもう一度読む。
暗黒の森深くにある、美しい布を生産する一族が住む村、エルフの血を継いでいるとされる小さな集落を、王妃の騎士たちが踏み込んだという、これだ。
襲われたのは本当かもしれないが、近衛だったというのは誤報ではないかと社でも言い合いになった。
しかし、取材した者は、長老の言葉を元に裏付けを取っている。
私はもう一度顔を上げ、人々が散ったことにより現れた店を窓越しに見た。
入口の扉が壊されていて、テーブルや椅子も倒れているのが、ここからでも見える。
おそらく最近多発している強盗団の仕業だろう、こうなれば、降りて取材をするべきだろうと御者に声をかけようとした時、馬上の騎士がコンコンと馬車の窓を叩いた。
驚きを隠し、少し窓を開くと礼儀正しく女性に対する対応で騎士は微笑んだ。
「レディ、あなたにも怖い思いをさせましたね、路上の安全は確保されましたので、まもなく馬車は動きますよ」
「わざわざ、ありがとうございます」
騎士は礼儀正しくはあるが、素早く馬車内を探るように目線をやり、そしてもう一度にこりと微笑むと後ろの馬車の方へ去って行った。
「わざわざ声をかけ、ここに止まらないようにした……か」
私はもう一度よく店を観察し、そのまま背もたれに背を預けた。
取材したいからと言って、今ここで馬車を降りれば、目立ってしまう。
男性記者ならば、それも押し通せるだろうが……
馬車はゆっくりと動き出した、本来の行先は、つい2日前に襲われたばかりの店で、ここからもほど近い。
とりあえずそこまで馬車で赴き、この現場に徒歩で戻っても差支えないだろう。
目の前で事件が起こっていたのだ、それを見逃すなど記者としては出来ない相談だ。
私はそうすることに決め、広げた資料をまとめ、カバンにしまいこんだ。
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