共鳴
昼間だというのに少し薄暗い森、秋の湿った匂いが辺りに漂っている。
そこにある瀟洒な館には人が住んでいない。
それなのに、手入れされているのが表から見てもわかる。
近寄れば、その壁にも、窓にも、美しい文様があるのが見えるだろう。
そしてその文様の一つが、何代か前の王の印に似ていることも、今となってはそれを見極められる人はいない。
かつて閉じ込められるように暮らしたその館を、俺はじっと見つめた。
どうしてだか胸騒ぎがして、今朝は早くからオヤジがスティアのために用意した逃走先を確認していた。
ここを使うことは避けたかったが、王都からもほど近く、しかも森深くのこの場所なら、ひとまず身を置く場所として、第一候補になるだろう。
嫌な思い出が胸に広がるが、その気持ちに蓋をして、俺は門扉に手をかけた。
ーーその瞬間、ゾクリと悪寒がした。
なぜなのかわからず体の動きを止め、周りを見回し、そしてハッとする。
……スティア……
彼女に送ったブレスレットに込められた俺の魔力が、反応している。
そう理解すると俺は即座に走り出し、森を全速力で抜けた。
奥まったところにあるため、走れど走れど森から抜けることができない、そうであるからこそ、隠れ家にもなるわけなのだが、もどかしかった。
ようやく見えた小道で、待たせていた馬に勢いよく乗ると、馬の腹を足で叩く。
よく訓練された馬は勢いよく走り出し、一気に風が俺に吹き付けてきた。
「なぜだ……この反応は……」
ブレスレットに込めた魔力の種類は、ある程度持ち主の危機を知らせてくれるだけだ。
実際に何が起こったかなどはわからない。
野菜庫で固まっていたスティアを助けた時も、なんとなくの胸騒ぎ程度を覚えたため、念のため自分の魔力を追ったのだ。
あの時は実害はなく、ただ彼女が不安に思っただけ、それでも自分の魔力は俺に異変を伝えてきた。
ブレスレット自体は魔道具ではない、単なるクズ魔石を加工した手ごろなアクセサリーにすぎない。
しかし、俺はそれに魔力を込める時、簡単な細工をした。
持ち主の心拍が上がる時、俺にその異変を伝えてくれるよう、魔術を施したのだ。
それは、本当に簡単なもので、高位貴族が幼い子に守りとして持たせる時に使うもの。
魔術自体もむつかしい技術ではないが、扱える者は少ない、適正に光属性が必要だからだ。
それは高位魔術とはいえない。ただ単純に、心拍数が上がったことを伝えるのみだ。
それなのに、ここまで持ち主の危機を伝えてくるとは、どういうことか。
俺は馬の背で必死に思考を巡らせる。
「共鳴……」
俺の口から小さくその言葉が出て来る。
魔術学園で教えてもらったことの一つ……まれに非常によく似た性質の魔力を持つ者同士がいる。
親子であっても傾向は似るものの、全く同じ性質というわけではない。
しかし、運命のつがいのように、ほぼ違わぬ魔力を持つ者同士がいる場合がある。それらは共鳴しあい、その魔力で互いを呼ぶことが出来る。
ーーそんなのいたら、ほんとうに文字通りの運命だな
そう言って俺たち生徒は笑った。
教授は優し気な目をさらに細め、俺たちを見渡し、静かに言った。
『だがもしも、会えたならば、その相手を離していけませんよ、運命なのですからね』
俺は前を見据え、もう一度馬の腹を蹴った。
お読みくださってありがとうございました。
このお話は、週一更新です。
もう少し続きますが最後までお付き合いください。




