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窓の中の君 ヴァルベル視点

時は一週間ほどさかのぼりまして、ヴァルベルの仕事の様子です。

 月の美しい夜、そろそろ冬が来ようとする季節、ますます空気が冴えてきていた。


俺は黒一色の装束で屋根の上に闇夜に紛れ、夜目の利く俺はじっと大きな屋敷を見つめていた。


……来週、この豪奢な屋敷はひと騒動ある。


その騒動に紛れ、この家にある王家に由来のある首飾りを取ってくるよう、依頼を受けている。


幾度も重ねてきたの偵察、もはや見知った屋敷となった。

俺は、見張り役のアンドルーに目で合図する、同じく屋根の上のアンドルーは小さくうなずき、マントで体を隠した。


勝手知ったる屋敷の裏側、離れの小屋の後ろに俺は舞い降りた。

そのまま低い体勢で上を見上げる。


 二階の窓から明かりが漏れていた。


俺はその光りをしばし見つめた。


 あの部屋にいるのは亜麻色の髪の少女だ、小柄な彼女のほっそりとした姿を胸に思い起こす。

彼女はまだ知らないだろう、明日、この屋敷が他の者の手に渡ることを、自分はもう伯爵家の娘ではいられないことを。


小さなため息をついて、俺は闇夜を纏って音もなく歩き出す。


 目的の首飾りがあるのは、地下の宝物庫、掃除の行き届いたその場所は使用人の中でも数名しか出入りできない、もちろん厳重に守られているというわけだ。


鍵をあけるには二人必要、扉の両側にある仕掛けを同時に起こすのだ、そうしなければ開かないどころか、ベルが鳴る。そんな仕掛けをわざわざ作るほど、その宝物庫には素晴らしいものがあるというわけだ。


「ねえ、お母様、来週のお茶会のドレス、合わせるのはこれでいいかしら?」


遠くから、小さくかわいらしい声がふいに耳に届いた。


声の主は、この屋敷の娘、二階の窓の住人だ。

ドレスに合わせる小物を母娘で選んでいるのだろう。


……むなしいことだ、そのドレスを身にまとうことは無いのだから。


なおも続く母娘の会話、俺はそっとマントの襟を立て、心からその声を追い出した。


 俺はいつものように裏口から屋敷に侵入し、使用人の使う部屋まで来た。

この時間は使用人の自由時間で、ここには誰も来ないことは確認済みだ。

 彼らのうち二人は、この屋敷に古くから務める者で、執事のハルネンと共に、宝物庫の鍵を所有している。

紐を通し首にかけ、シャツの下に隠していることも知っている、だが、この自由時間で彼らは風呂に入る。

その間はこの部屋にある鍵のかかる箱に揃っていれてあることを俺は知っている。


 そっと足音を立てずに歩き、目的のずっしりとした鉄製の箱を手にした俺は、懐から出した鍵開け専用の針で開錠をした。


 蓋を開けると、並んで置いてある二つの鍵が確かにそこにあった。

俺は素早く懐から出した箱を開け、それを押し込み型を取る。

用事が済むと、俺は鉄製の箱の鍵をかけ元の場所に慎重に置いた。


そして、使用人部屋の窓を開け、そのまま闇夜に紛れた。









 偵察がてら屋根の上から、屋敷を見る。

偶然見つけたこの場所は、実は彼女の部屋と同じ高さなのだ。


大きく張り出したバルコニーに、寝る前に必ず現れる彼女。

夜風にあたって気持ちよさそうに星空を見上げる仕草、柔らかな亜麻色の髪に、水色の瞳。

穢れのない白い肌に、ほんのりと色づいた頬。


俺は彼女を遠くからそっと眺め、そしてどうすれば彼女を助けられるのかを必死で考えていた。


 アンドルーが音も無く横に座った。


「お前、あの子のこと、そんなに気になるのか?」


それには答えず、俺はなおも、彼女を見つめた。


……名はスティア、年齢は18歳。


今はまだ伯爵家令嬢、一方俺は……彼女の家から首飾りを盗もうとしている者。


「助けたって、どうにかなるわけではないだろう。彼女にとって俺は、敵だ」

「そうかな……」


アンドルーの声は屋根の上の強い風で、かき消された。


お読みいただき、ありがとうございます。

イイネやブックマークなど、励みになりますので、よろしくお願いいたします。

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