夜の街1
ヴァルベル様は私の手を取り、窓の外に引き上げてくれた。
そこは一段平たくなった場所があり、狭いバルコニーのような造りになっていた。
遮るものがなくなって、目の前に広がる夜の街に圧倒されて、思わず息をのんだ。
屋根の上から見える景色がとても幻想的なのだ。
あちこちに見える灯りが、暖かな色で、とても美しかった。
私は暗くなって外に出ることがあまりないので、夜の街をほとんど知らなかったのだと、気づかされた。
キョロキョロする私に、彼は黒いマントを差し出した。さらに、それをふわりと着せられると、前のリボンを結んでくれた。
私は私の首元にある彼の長い指をじっと見つめ、近すぎる距離感にドキドキするだけの木偶の棒になってしまっている。
かいがいしく私の世話をしてくれる彼の顔をまともに見返せず困っていると、笑いを含んだ声が落ちてきた。
「君のことをスティアと呼んであげたいのだけど、一応、外では用心して、リリアーネと呼ぶよ」
「はい」
ヴァルベル様の囁くような小声が耳元で聞こえて、ドキッとした。
落ち着かない私は質問をする。
「あの、ここから道にどうやって降りるのですか?」
こうやって窓伝いに外へ出なければならないということは、今夜のお出かけは、ビュフェ子爵夫婦には内緒なのだろう。
堂々と玄関から出れたのなら、悩まなくても良い普通のことも、ここは2階だ、思わず下を覗き込む。
「私、ここを降りられるでしょうか……」
胸元を抑えて下を見る私に、ヴァルベル様は手を差し出した。
「今夜はこのまま、屋根の上を行こう。こちらへ」
「え、でも……」
私は、彼と出会った時のことを思い出して、一瞬躊躇した。
あの時私は……彼に横抱きされていた。
ーーあまりにも恥ずかしすぎるのは!
あのような非常事態だったからこそ耐えられたけれど、今のような雰囲気で、『ではお願いします』とはいかない! いくらなんでも!
「ちょ……ちょっとまってください……もしやまた、私は横抱きにされるのですか?」
ヴァルベル様はこてりと首を傾げ、不思議そうな顔をした。
「そうだな……そのつもりだったが……」
「いえ……でも……あの」
「俺に身をゆだねるのは、不安だろうか?」
「そ、そうではないのです、そうではなくて……は、恥ずかしいのです!」
小さく叫ぶようにそう伝えると、ヴァルベル様は意外そうに目を見開き、そしておもしろそうに笑いだした。
私は思わずにらむと「いや……すまない」と右手をこちらに向け、落ち着くようにとその手を肩において、ポンポンとされた。
「しかし、このまま君が最上階の屋根まで上がれるとは思えないし、ましてや、下の街道まで降りられるとも思えない。嫌かもしれないが、任せてもらえないか?」
私が返事をためらっていると、ヴァルベル様はするっと私を抱き上げた。
顔が近くなり、息をのんだ。
「あの……あの……」
「大丈夫だ、少しだけ我慢してくれ」
私はぎゅっと目をつむって、身を縮めた。
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