光の正体
「リリアーネ、正直に話してくれてうれしいよ」
ビュフェ子爵は複雑な表情でくしゃりと微笑んだ。
私は光る首飾りを押し込めたカバンを持って、ビュフェ子爵の書斎を訪ねていた。
きっちりと締めているはずなのに、漏れ出ているその光は、聖なるものであると、なぜか私は確信していた。
だから恐怖は無かった。
しかし、自分はこの家に助けられているのだ。
変な隠し事をしていたくなかった。
それにきっと、これは今回の騒動に関係のあることだと、直感があったのだ。
「だが、困ったね」
そう言ってお茶を一口飲んだ。
「まさか、これに手を触れることができないとは、想像もしなかった。こうやって目の前にあるのに、まるで幻のように手をすり抜けるとは」
そう呟いて、考え込むように押し黙った。
それというのも、首飾りを手のひらに置き差し出すも、ビュフェ子爵はそれに触ることができなかった。
手を伸ばせば、光が強くなり、ピリリとした痛みすら走るというのだ。
「どうしてでしょうか……」
私も困り果て、何の良い案も浮かばないまま、二人で顔を見合わせるしかなかった。
「……最初、これはカバンにはなかったといってたね」
「はい、ここに来た当初、ヴァルベル様と一緒にあらためました。はじめはこのようなものは入っておりませんでした」
私はうなずく。
「で、あるとするなら、誰かが忍び込み、この首飾りをわざわざこのカバンに入れたか、さもなくば、急に現れたか、そのどちらかということになるね」
私はその言葉にゴクリとつばを飲み込んだ。
「あの……急に現れるとは……いったい」
「そうだね……これが出てきたとなっては、君にも話しておく方がいいだろう。聞いてくれるね」
「ええ、もちろんです」
ビュフェ子爵は立ち上がり、一冊の本を手にし、テーブルの上に置いた。
「これは知っているね」
「精霊物語ですね、この国に住む者なら、誰でも知っているはずですわ」
「そうだ、先々代の王妃が偉大な精霊使いで……という、おなじみのあれだ」
「はい」
私は話が読めずに、困った。
うっすらと汗がにじむ思いがする。
「子供のころから親しみましたもの、絵本にも童話にもなっておりますから」
実際に、テーブルに置かれたその本は、小さい子用のかわいらしい挿絵付きの本だ。
「この中で、王妃はあるものを精霊王から譲り受けるね」
「はい、王妃は、精霊王から竜の涙を譲り受け、戦を鎮め、その竜の涙を首飾りに……って、え?」
私は常識のようにこの国に語り継がれる物語を話し、ハッとした。
「まさか……これが? そうだとでもおっしゃるんですか?」
ビュフェ子爵はため息をつき、そして神妙な顔でうなずいた。
「恐らくそうだろう、実物を知っているわけではないので、確かなのか?と言われれば、私も保証できないのだがね……」
「はい」
私は身震いをした、そして、首飾りを落とすまいとしっかりと持ち直す。
「先々代の王妃が身罷った時、ご遺体は精霊王が精霊界にお連れになったとされているね」
「ああ、はい、物語にはそう描かれていますね」
「その時、竜の涙の首飾りがどこへ行ったのか、そこには物語には描かれていないだろう」
「そういえば、首飾りの行方のことは知りませんね、私はてっきり、王城にあるものだと思い込んでおりました」
「うむ、多くの国民はそう思っているだろうね。しかし実際には、こうだ。王妃亡きあと、首飾りは行方不明になった。誰かが持ち出したのでは?と大騒ぎになったそうだが、厳重に保管されていたものがそう簡単に無くなるはずもない。多くの目があったのだからね」
「ええ、そうでしょうね」
「しかし、国として、護りとも言える竜の涙だ、とにかく全力で探し続けたわけだよ。で、3年後見つかったのだ」
「見つかった? そうなのですか? どこにあったのでしょう」
私は話の落ちる先がまるで見えず、不安な気持ちでビュフェ子爵を見つめる。
「先々代の王妃の妹がある朝目覚めるとね、枕元に突然現れたんだそうだ」
「妹って……」
ビュフェ子爵はうなずいた。
「そうだ。王妃の妹はオベール家に嫁いでいたね。君の曾祖母にあたるはずだ」
「まさか……首飾りは、我が家にずっとあったというのですか?」
「このことはね、公にはされていなかったが、一部の者は知っていたんだ」
「でも、どうしてですか? 国宝ではありませんか? なぜそれが我が家に」
「私もそれがわからなかった……しかしね、今わかったよ。王妃の血筋で、なおかつ選ばれた者にしか、これには触れられない。そういうことなのかもしれないね」
驚きのあまり、うまく息ができない。落ち着くためにゆっくりと深呼吸をした。
「でも、精霊使いの王妃様にはお子様が3人もおられたはず。どのお子様も触れなかったんでしょうか?」
「それどころか、見ることさえ叶わなかったと、記録が残されているんだよ、だから、城に持ち帰ることが出来なかったと……私は当初、その意味がわからなかった。オベール家が欲をかき、隠匿したのか?とも思っていたんだよ。だが……これを目の前にして、そんな理由ではなかったと今なら言える」
私はもう一度、手のひらの首飾りをじっと見つめた。
優しげな光を放つ、美しい涙型の宝石は、まるで私に語り掛けてくるかのようだ。
「はい……オベール家は隠していたのではなく、護っていたのですね」
「そうだ。そしておそらく、その首飾り自体に意思がある。触れる者と触れない者がいること。そして、消えたり現れたりと自在なことを見ても、あきらかだね」
ボウと白い光が一瞬大きくなった。
書斎全体が明るくなった。
「まるで返事をしているかのようじゃないか」
ビュフェ子爵は愉快そうに微笑んだ。




