白い光
もうすぐ夕暮れの時間、空は美しかった。
窓から見上げていると、涙が出そうになる。
家族を殺した誰かが私を探しているーーそのことは知っていた。
だが、肌で感じていたわけではない。
逃げ切れたと思い込んでいた。
私は、あまりにも、世間知らずだ。
あの夜、必死に逃げ、この家に身を寄せてから、明日でちょうど3ヵ月。
悲しく寂しい時間だった。
両親はもはやこの世にはいない、そして行方不明の兄。
目の前が真っ暗で、生きていくのがつらいとさえ思った、泣き暮らす日々。
でも、ようやく泣いてばかりではなくなって、少しは前を向いてきた。
この家の人たちが、みんなで支えてくれるから……忘れさせてくれていた。
でも、何一つ、解決はしていないのだ。
私は追われてる。
当然のことだ。
せっかく社に働きに行くことになったのに、またもや、屋敷の中から出ることができなくなってしまった、残念で仕方ない。
しかし、家の中でできることを私に用意してくれた。
ティーテーブルの上にある資料を一枚めくった。
「ふう」
集中できないまま、目をつむった。
思わずため息が出て、そして、無意識に手首を触る。
ーーヴァルベル様の魔力の込められたブレスレット、今の私にはこれが唯一の宝物に感じた。
少し笑顔を浮かべ、赤く輝く水晶を見つめた。
ぽわっと一瞬暖かくなった。
ーー熱?
私は不思議に思って水晶を指で触る。
やはり暖かさを感じる。
「もしかして、ヴァルベル様の魔力の暖かさなのかしら? 今まで気づかなかった……」
嬉しくなってじっと見つめていると、部屋の中が一瞬光った。
「え?」
そろそろ夕暮れではあるけれど、暗くなっているわけではなく、灯りが必要というわけでもない時間帯、廊下から差し込んだ光ではない。
何事か?と振り向き、きょろきょろと光源を探す。
しかし、光るような物は何もなかった。
「おかしいわね」
私は立ち上がり、何気なくベッドに近寄る。
ふと、その横にあるクローゼットから光が薄く漏れているのに気が付いた。
「え……どうしてここから?」
私は不思議に思い、クローゼットを開けた。
ゆっくりと音もなく開いた扉、掛けてあるドレスの下あたりから光がゆるく漏れていた。
「え?」
ひざまずいて、ドレスの裾をかき分ける。
「あ……カバンだわ」
そこには、逃げる時、母が持たせてくれたカバンがあった。
光はそれから漏れていた、驚きつつも取っ手を持ち、引き寄せた。
そして、ゆっくりとカバンを開ける。
白く淡い光は、カバンの中でゆらゆらとしていた。
「なにこれ……どうして?」
そして、その中にキラキラとその光に反射するものが見えた。
何度か瞬きをして考える……しかし、何も浮かばない。
思い当たる節がない。
仕方なく手を入れ、その反射するものに手をやった。
冷たい感触がして、それが金属だとわかる。
もしかして、ブローチかしら? と思い当たる。
それか、幼いころに買ってもらった、兄とお揃いのペンダント?
しかし、指で触るそれは、それらよりもはるかに大きい。
光の反射でよく見えないけれど、私は思い切ってカバンから出した。
「えっと……え? これは何?」
私の手の中に、緻密な意匠の見事な首飾りがあった。白銀の地金には繊細で細かい透かし模様があり、大小様々な美しい白い宝石が散らばっているが、特に中央の大きな雫型の宝石が素晴らしかった。
見る角度により、色を変えるその宝石は、見る者をとらえて離さない美しさだ。
思わず、先日見たコンソラータ様の冠を思い起こす。
「こんなの、入ってたかしら?……いえ、なかったはずよ」
私は思わず、そう、独り言ち、慌ててカバンにそれをしまい込み、パタンと締め具を止めた。
「これは……お伝えするべきね……」
私はカバンをしっかりと持ち直し、立ち上がり、部屋を出た。




