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ロゼの風邪

 昨日、ヴァルベルからプレゼントされたブレスレットを早速つけてみた。

赤い宝石は小粒で、金のチェーンには小さな花の形の細工も組み込まれている。

控えめで、さりげない。

普段使いに適していて、なおかつ、若い女性にぴったりな、そんな意匠だ。


 私はうっとりとそれをしばらく眺め、そして袖の下に隠した。


 自室のドアを開け、廊下に出る。

しばらく歩き、台所に到着すると、朝のやわらかい日差しの中、メイドがスープを作っていた。


「おはようございます、リリアーネ様」


私に気づき、優しい笑顔でそう声をかけてくれた。


「おはよう」


私も挨拶をして、彼女の横に立つ。

メイドはさりげなく場所をあけてくれて、私は彼女のかわりに鍋をかきまぜた。

隣を見ると、サラダの準備にとりかかっているので、私は皿を取り出す。


勝手口のドアがトントンと叩かれた。

元気な少年の声がする。

対応したメイドに、季節の野菜と卵を渡す少年に、私も微笑みかける。


「ありがとう、今日も立派なお野菜ね」

「こちらこそ、毎度ありがとうございます!」


少年の元気な声に、私もメイドも笑顔になった。


「これ、朝のサラダに加えましょうか」


メイドは新鮮なルッコラを手に取り、洗い出す。


「おはよう」


声が聞え振り向くと、マダムだった。

手にいくつかの書類をもっている。


「お届けですか?」

「ええ、食事前に社に持っていくわ」

「まさか、夜通し執筆を?」


私は少し疲れが見えるマダムに気づき、驚いた。


「少し眠りが浅かったけれど、これのために起きていたわけではないのよ、気にしないで」


マダムは微笑んで、メイドに声をかけた。


「野菜が届いたのね、そのカボチャを使って粥を作ってくれないかしら?」

「はい、かしこまりました。どなたがお召し上がりに?」


メイドの問いかけに、マダムはため息をついた。


「ロゼよ、部屋に顔を出したらまだベッドの中にいたから、具合を聞いてきたわ。昨夜から熱を出していたらしくてね、念のためにお医者様も呼ぶわ」

「ロゼが?」


不安になった私が勢いよくそう聞くと、マダムは私の手を取った。


「単なる風邪だと思うわ、そんなに心配しないで。じゃあ私は社にこれを届けて来るわね、後はよろしくね」





 トントンと扉をノックし、中からの応えを待った。


「はぁい」


可愛らしい声が聞こえ、私はそっと開ける。


「ロゼ、大丈夫?」

「まあ、リリアーネ、食事を持ってきてくれたの?」

「ええ、カボチャの粥よ、食べられるかしら?」

「食欲はあるわ!」

「まあ、その様子なら大丈夫そうね」


寝込むという事態にそぐわない元気な声に、思わず二人で笑いあった。


「じゃあ、ベッドを出るわ」

「無理しないで」

「大丈夫、少し熱があるだけなの」


寝間着姿のロゼはベッドから出て、窓際にある椅子に腰かけた。

私はティーテーブルの上に粥を置き、彼女の肩にそばにあったカーデガンをかけてやる。


「ありがとうリリアーネ」

「ええ、いいのよ気にしないで。それよりも、昨夜から具合が悪かっただなんて」

「一晩寝れば治ると思っていたのよ、まさか熱が出ちゃうなんてね」

「昨日、外にいたからかしら?」


私たちは昨日、二人で庭師と共に中庭の手入れをしていたのだ。

土いじりは、初めてのことだらけでとても楽しかった。


「きっと、体が冷えたんだわ」

「違う違う、それなら私よりあなたの方が先に風邪をひいてるはずよ、私は外での仕事に慣れてるもの」


そういって、ちいさなくしゃみをした。


「いけない! ひざ掛けを持ってきましょう」


私はベッドのサイドテーブルからやわらかなキルトのひざ掛けを取った。


「ありがとう、リリアーネ、ああ、のどの痛みに、くしゃみに、鼻水、熱って、典型的な風邪ね」


ロゼは少し赤くなった顔を真顔にしてそう、つぶやいた。


「ちゃんと休んでね、あなたは貴族の令嬢なのに働きすぎだわ」


私は真剣に彼女にそう伝えたが、ロゼはおもしろそうに笑うだけだった。


「しょせん子爵家の令嬢なんて、貴族の末端にすぎないし、私は貴族に嫁ぎたいわけでもないのよ、だから、ちゃんと労働ができる人になりたいのよ」

「でも……社長やマダムは違うんじゃないかしら? あなたの嫁ぎ先を探したり、心を砕いているはずよ」

「そうね、爵位のあるお宅だとそれが普通でしょうけど……うちは違うわ。私は幼いころから貴族には嫁ぐ気がないとずっと言ってるし、本当にそのつもりなの。それに、父も私を商売の道具のように、どこかに嫁がせようとはしないはずよ」

「そう……」

「これからどこかで働くとしても、令嬢ではなく一人の人間として生きていけるよう、母は私に色々厳しく教えてくれているわ」


私には自分の行く先を見据えているロゼが輝いて見えた。


ロゼはスプーンを取り、そっと粥を口に運んだ。

にっこりと笑顔になって左手を頬に添えた。

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