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ジャガイモの皮むき

 その後、私とロゼはコンソラータ様の助手に送られ、無事帰宅した。

対応に出たメイドは慌てた様子で、待っていた。


「急にコンソラータ様からの知らせがありました、ほんとうに驚きました、何かあったのですか?」


メイドの問いかけに、ロゼはフフっと笑って「ええ、いろいろとあったわ」と、なぞかけのように言うと、鼻歌を歌いながら、さっさと奥へ入っていった。


残された私にメイドは視線をくれたが、私も笑うしかない。


「実は、コンソラータ様とたまたま道で会ったのですよ、それで、タウンハウスにお邪魔してきただけですわ」

「ええ! まさかほんとうに!!」


メイドも占いが好きなようで、「コンソラータのタウンハウス」というキーワードに大いに反応した。


「まあ、それだけですから、特に何かがあったわけではありません、大丈夫です」

「ええ、わかりました。本当によかったです。今、奥様も外出されてるのです、何事かあったのならば、お知らせをと思っていたものですから」

「それは必要ないわね」

「はい、そうでございますね」


ほっとした様子のメイドに上着を預け、手に下げたカゴを覗く。


コンソラータ様にいただいた、美しく色づいた大きなリンゴを見て苦笑する。


「なぜかしらね、最近リンゴと縁があるわ」





 大きなカボチャをロゼが手際よく切る。

先ほど私も挑戦したが、表面を傷つけることしかできなかった。


小気味よい音を立てて、食べやすい大きさに切られていくカボチャを感心して見ていたが

「手がお留守よ」

とロゼにかわいらしく軽くにらまれて、ハッとして手を動かした。

私は茄子の皮をむきはじめた。

トマト、レンコンをさらに切り、ロゼの渡されたカボチャと一緒に素揚げにしていく。


キノコ類は、オーブンでこんがりと焼き上げだ。


その間にロゼは、酢と砂糖、塩、にんにくを鍋にかけた、次に、私は揚げた材料をその鍋にどさどさと入れていく。


ロゼはそれらを馴染ませると、サイドテーブルに置いた。

おいしそうなマリネの出来上がりだ。


「夕食時には馴染んでおいしくなるはずよ!」

「マリネって、こんな風に作るのね、ほんとうにいつも勉強になるわ」

「リリアーネは伯爵令嬢だったのですもの、知らなくて当たり前よ」

「だけどこれからは、自分で作れるようにならないといけないし、教えてくれて本当に感謝しているの」

「フフ、リリアーネは素直ね」


ロゼは微笑みながら、棚から皿を取った。


「メインの鳥のローストは、メイド達が下準備してくれてるわ、食事前にオーブンで火を通すだけよ。本当は羽をむしって、さばいてという工程があるの、今のリリアーネにはちょっと無理かなって思って、頼んでおいたの」

「そうだったのね、私、無理なんてことないわ、それよりも教えてほしいの、次回はぜひ、見せてほしいわ」

「ええ、了解よ」


足音が廊下に響き、気軽な様子でヴァルベル様が顔をのぞかせた。


「お前たち、二人だけで料理をしていたのか」

「ええ、そうよ、今日はお兄様もご一緒なさるのでしょう?」

「ああ、そのつもりだ」


ロゼはメイドたちが用意してくれた、下処理の済んだ鴨をまな板の上に置いた。


「マッシュポテトを作ってくれる?」

「わかったわ」


何度もロゼと作って、完全に一人で作れる料理だ、私は張り切ってナイフを持ち、ジャガイモの皮をむきはじめた。


「俺も手伝おう」

「え?」


隣に立ったヴァルベル様を驚いて見上げると、美しい微笑みが帰ってきた。


ーーこんな王子様みたいな方がお料理を?


あっけにとられる私にお構いなしに、ナイフでするするとジャガイモの皮をむいていく。

私などよりはるかに手慣れたその様に、思わず体が固まった。


「お兄様はうまいわよ、お母様の直接指導だもの」


そういって笑う妹に、ヴァルベル様は兄の笑顔を浮かべる。

その様子がほほえましくて、そしてうらやましくて。

どこかで生きているはずの兄を思った。


「船を見に行ったのか?」

「いえ、行くはずだったんだけども」


そう言ってロゼは私を見て笑った。


「実は、私がコインを道で落としてしまって、それを追いかけていたら、拾ってくださったのが、コンソラータ様で」

「そのまま、お宅にお邪魔したってことなのよ」

「は? どうしたらそうなるんだ」


ヴァルベル様はあきれ顔でロゼと私の顔を交互に見た。


「偶然ってあるものね! もしかして運命かしら!」


うっとりとつぶやくロゼを眉間にしわを寄せて見つめるヴァルベル様は、ふうっと長いため息をつき、今度は私の顔を見つめた。


「誰でも失敗はある、コインを落とすなとは言わないが、それを追いかけるのは危険だ。君は街歩きに慣れていないからわからないだろうが、お金と見ると目の色を変える者が、豊かに見えるこの街にもいる。たとえそれがはした金であろうとだ。今度お金を落としても、それはもう追わないでくれ、心配でしかたない」


真剣な様子のヴァルベル様に私は気圧され、何も言えずに見つめ返した。


「お兄様! なにそれ! 私には一度もそんなこと言ったことないのに!」


むぅと頬を膨らませたロゼがあまりにも可愛くて私は思わず噴き出した。


「まあ、リリアーネ! 笑わないでよ!」

「その顔を見たら誰だって笑うよ」


ヴァルベル様も笑いだした。


もうすぐ日が暮れるという時間、茜色に染まる台所で、私は幸せだった。

あけましておめでとうございます。

今年は明けてすぐに大地震、そして飛行機の事故、火災など、いろいろと心が痛くなるようなことが続きました。

被災された方々に、心よりお見舞いを申し上げます。

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