茨の冠
湯船の中でタオルを体に巻き付けて、私の顔をじっと見るコンソラータ様。
確かに今、自分のことを男だと言ったけれど……
タオルの端を握る手を見て、そして首筋を見た。
少しも無駄な肉のない細い体。
……初対面では少女のように細いと思ったけれど、男性だからふくよかさが無かったのだと気づいて、思わず顔に熱が集まってきた。
「す……すみません! 無作法にも、と、殿方の浴室に入るなど」
「いえ……あなたは私を女だと思っていただろうし、それに、助けようとしてくれたのでしょう。現に助けられましたしね」
私はその言葉に首を振って否定し、目をつむって立ち上がり、浴室を出ていこうとしたが、後ろから声がかかった。
「初めて、自分から招き入れたお客様だったのに、とんだことになりました。申し訳ありません」
私は背を向けたまま答えた。
「そんな……謝罪などやめてください。体調が悪くなられたことは、コンソラータ様の責任ではありません」
小さな笑い声が聞こえてきた。
「そうでもないかもしれませんよ。占い業は、嫌な客でも断れない事があるのです、気の進まない仕事のあとは必ずこうなることを、私は知っていたのに、あなたたちを招き入れた。これは私の落ち度です。つい、年の近いあなた方と話してみたくなったのです」
その言葉の裏に、私の知らない色々な世界があることを感じ取った。
私は本当に無知だ……そう思わされた。
「もう少し湯につかって、水で清めれば、元に戻ります……今回はちょっと手ごわかったけれど……ですので、応接間にお戻りになって、待っていてください……もし、お嫌でなければ、ですけど」
「嫌だなんて、そんなことありません。ロゼもまだお菓子の受け取りから戻っていませんし、このまま待たせていただきますね」
「ええ、そうしていただけると、私はうれしいです」
嬉しいといったその声が、本当に嬉しそうに思えたので、少しほっとして、浴室を出た。
そして、額に汗が滲んでいることに気づく。
ワンピースドレスのポケットからハンカチを出し、額と首筋の汗をぬぐった。
この汗は、浴室の蒸気に当たったからではなくて、緊張からだろう。
◇
少し経って、ロゼが戻ってきた。
菓子店の包みは意外にも大きく、両手で抱えていた。
「クリームたっぷりのフルーツケーキなんですって! コンソラータ様ったら甘党なのね!」
ロゼの屈託のない笑顔に救われた思いで見つめ、私も思わず笑顔になった。
「……あれ?コンソラータ様はどちらに?」
「えっと……」
「ああ、ロゼ嬢、すみません。あなたに小間使いのように用事をしてもらうなど」
ドアが開き、すっかり身なりを整えたコンソラータ様が入室してきた。
占いの時とは違う、紺色のゆったりとしたチュニックを象牙色の美しいサッシュで結んでいて、その上に白いガウンを羽織っていた。
長く美しい黒髪は後ろで一つに結わえ、右肩に回されていた。
その姿はやはり中性的で、男性に見えなくもないが、女性にも見える。
本当に不思議な方……
「いえ、私から申し出たのです、お気になさらず! それよりも、服装をおくつろぎになったのですね」
ロゼは目を細めて頬を赤らめた。
「ええ、あの黒いドレスと赤いショールは、占いの仕事着ですからね」
そう言って余裕のある微笑みをロゼに返す。
ロゼは果たして、コンソラータ様の性別を知っているのだろうか……私が勝手に女性だと思っていただけなのか……
「あのお姿以外のコンソラータ様なんて、他の方はめったに見られないでしょう? 役得ですわ!」
「そうですね、外出時はいつもあの姿ですからね」
ロゼは、テーブルに置かれたままの茨の冠をじっと見つめた。
「これは、見れば見るほど見事な細工ですのね」
「そうですね、先々代王妃から、私の曾祖母への贈り物だったそうですから、王家の装飾品を作る職人の手によるものでしょうね」
「そうなのですね! 素晴らしいわ」
コンソラータ様は微笑みながら、菓子店の箱を開けた。
「お二人とも、一緒にこれをいかがです? 疲れの取れるおいしさですから」
「はい! 特に疲れていませんが、いただきたいと思います!」
ロゼの元気な声は部屋に響き、私も笑顔でうなずいた。
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