秘密
知らない家の中、たった一人、シンとして何の音も聞こえない。
商業区にあるのだ、もう少し人の行き交う音が聞こえてもおかしくないのに、不思議な事だと窓を見つめた。
本日はとても天気が良い。
やわらかな日差しが室内を照らし、庭に植えられた木々の影をソファーに落としている。
私は、コンソラータ様が慣れない手つきで入れてくれたお茶を手に取り、一口飲んだ。
バニラの香りがするお茶で、少し苦味もあった。
私は少し首を傾げ、砂糖を2さじ入れる。
そしてもう一度飲んで、納得の笑顔を浮かべた。
「おいしいわ、このお茶」
どこで求めたのか、聞きたくなる味だった。
知らずに笑顔になり、ぽかぽかと日差しを浴びていると、ガタン!と大きな音が家の奥から聞こえてきた。
驚いて、びくりと体が震え、お茶をこぼしそうになったが、静かにティーカップをテーブルに戻すと、そっと立ち上がった。
怖いけれど、この音の正体はもしかして、コンソラータ様の身に何かが起こった音かもしれない。
そう思い至り、勇気を出してドアを押す。
ゆっくりと開いたドアの隙間から顔を出して、廊下を伺う。
真っすぐに伸びるその先から、お湯の香りがするのがわかった。
音は確かに、この方角からだった。
やっぱり、コンソラータ様に何か……
一瞬、頭にロゼが浮かんだが、ここから菓子店まで少し離れている。
お菓子を持ち帰るまではまだかかると踏んだ。
こんな時、一人は不安だ、ロゼがいてくれたらと、そう思った。
「お声がけしてみるだけなら、失礼じゃないわ、きっと…… 何か、物を落としただけかもしれないし……」
そう小さく呟いて、自分を励まし、うなずく。
そろりと廊下を歩き、風呂場らしきドアを見つけた。
コンコンとノックし、コンソラータ様を呼んでみる。
「コンソラータ様、大丈夫ですか? なにか音が聞えました。もしや具合でもお悪いのでは?」
私の声に応えはない。
嫌な予感で、胸が締め付けられるような思いになって、もう一度呼びかけた。
「コンソラータ様……あの」
「うぅ……」
確かに苦しそうな声が耳に届き、慌ててドアを開ける。
脱衣所には先ほど着ていた黒いドレスと、やわらかなタオル、そして着替えなどが丁寧にたたまれて用意されていた。
「失礼いたします! 体調がよくないのでしょうか? お助けいたしますので、入室をお許しくださいね」
少し大きな声で呼びかけてから、浴室のドアを開け、中をうかがう。
「コンソラータ様!」
湯気の中、胸に手を置いて、湯船に倒れこむように座る姿が見えて慌てて駆け寄った。
白い背中は細かく震えていた、その背に手をやり、語り掛けた。
「大丈夫ですか?」
「少し……魔力酔いが出てしまって……こんな風になることは……まず……普通ではないのだが……」
「どこか痛みますの?」
「いや……じっとしていれば、治る……はず……すまないが……タオルを取って……」
苦し気にそう言われ、ハッとして脱衣所から大きなタオルを持ってきて、広げると肩にかけてやった。
「気づかずにご無礼をいたしました……」
コンソラータ様は肩にかかるタオルを手で引き寄せ、体を守るように包み込んだ。
「お水をお持ちいたしますね」
「……」
小さくうなずいた姿を見て、私は再び廊下に出て、キッチンを探した。
廊下の右側にキッチンを見つけ、遠慮なく入る。
生活感のまるでない、何もない台所を唖然として見ながらも、棚にガラスのコップを見つけ、それに水を満たした。
こぼさないようにそれを両手で持って、風呂場に戻った。
相変わらず湯船の中でうつむくコンソラータ様にそれを差し出した。
「はい……お水ですよ、ゆっくりとお飲みになってくださいね」
震える手はおぼつかない、こぼしてしまいそうだったため、私は、手は引かずに添えたままコンソラータ様に水を飲んでもらった。
「はぁ……」
ようやく人心地がついたのか、息を吐くと、湯船に背を預け、私をじっと見つめてきた。
「あなたは……怖くないのですか?」
「何をです?」
問われた意味が全く理解できず、聞き返すと、コンソラータ様は形のよい唇を少しだけ開いてじっと私を見つめてきた。
「私は、男ですよ」
いつもよりも少し低めに響いたその声は、確かに少年の声だった。
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