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穢れ

「あなたは、ロゼ様のところの……」


コンソラータ様は一瞬目を見開いたが、面白そうに薄く微笑むと、コインを渡してくれた。


「あなたのような人が、よもやこんな小銭を追いかけ走るとはね」


そう言われ、頬が赤らむ。


「いえ……私、ビュフェ家の親戚ではありますが、身分は高くありませんの」


そう聞いて、一瞬コンソラータ様の目が光った気がした。


「へぇ……」


思わずといった感じでそれだけ言うと、黙り込み、じっと私を見つめて来る。


「リリアーネ! リリアーネ!」


後ろから駆けて来る軽やかな足音と共に、ロゼの声が聞こえて、振り返ると、真っ赤な焦った顔でロゼが追い付いてきた。


「何してるのよ! 離れちゃダメでしょ! どれだけ焦ったことか! って、え? コ、コンソラータ様!」


ロゼは口をあんぐりと開け、驚愕のあまり手に持っていたかごを落としそうになった。


「ロゼ、落ちちゃうわ」

「ああ!」


慌てて手を添えた私の行動で、我に返ったロゼは、私の顔を凝視した。


「ねえ、なぜこんなことに」


真剣な顔であった。


「えと、お金を落としてしまったのよ、それで追いかけていたら、偶然拾ってくださったのが、コンソラータ様で……」

「お二人、ここで会ったのも何かの縁、よろしければ、家におはいりください」


コンソラータ様は、私たちと同じくらいで、まだ10代であると思われるのだけど、威厳たっぷりにそう告げた。

中性的な声には張りがあり、美しく響き、そして、この声で命令されれば何者も言うことを聞いてしまいそうな、そんな魅力があった。


「ま、まさか! このあたりにお住まいなのですか!」


ロゼは驚きながらも聞き返す。

コンソラータ様は苦笑しながら答える。


「まあ、家はいくつか持っていますが、首都ではここですね」

「こんな商業区に……」

「いろんな客に呼ばれていくものですからね、どこへ行くのもここに拠点を置くと便利なもので」





 室内は落ち着いた設えだった。

10代後半の女性が住まうならば、もう少し飾り付けがあったっておかしくない。

そう感じるほどには、地味だ。

しかし、ここは数ある彼女の拠点の一つ、周辺の仕事の時のみ使用するということならば、こんなものかもしれない。


 私とロゼは通された客間でキョロキョロしてしまって、ついお互いの顔を見合わせて苦笑しあった。


「はしたないわね、よそのおうちをこんな風に観察するだなんて」

「しかたないわ、気になってしょうがないんだもの」


扉がすっと開き、コンソラータ様はワゴンを引いてきた。


「とりあえず、お茶を入れてみたのだが……」


少々困り顔のコンソラータ様は戸惑い気味にティーポットを手にした。


「まあ! わたくしがしましたのに!」

「いやいや、ロゼ様、ここは一応私の家ですからね」

「ですが、おつきの方はどちらへ? 普段こんなことはご自分でなさらないのでしょう?」


ロゼの当然の疑問に、困ったように微笑んだコンソラータ様はポットをテーブルに置き、ワゴンにあったカップを私たちの前に出した。


「ここには、誰も入らないのです、お客人も、あなたたちが初めてです」

「「ええ!」」


思わず私たちの声は揃ってしまった。


「光栄です!」


ロゼは喜び、「あとは私が」と、ポットからお茶を注いだ。


「いつも、仕事が一段落したら用意する好きな菓子がありましてね、今日も予約をしているので、取りに行こうかと、よろしければご一緒にどうでしょう」


コンソラータ様はそう言って私たちを見つめた。


「まあ……そのお菓子はどこの?」

「この先の角にある、ミスロラール菓子店です」


菓子店の名を聞いて、ロゼは目を輝かす。


「でしたら、私が取ってまいりましょう。お疲れなのでしょう? コンソラータ様」

「ですが、子爵家の令嬢を用事に使うなど」

「いえいえ、そんな、むしろ光栄ですわ」


ロゼはそうと決まればと早速立ち上がり、私に待っていてと言うと、颯爽と出かけて行った。


「ビュフェ家のお嬢様は本当に、活動的で、好ましい方ですね」

「私もそう思いますわ」


二人きりになってしまって少し緊張しながら、二人でお茶を一口飲んだ。


「申し訳ないのだが……私は仕事終わりに帰宅すると、必ず湯を使うのです、お湯は沸いているので、少し失礼してよろしいでしょうか?」


そう言いながら、コンソラータ様は被っていた茨の冠を取り、赤い布を取った。

黒い艶やかな髪が現われ、ついそれに見惚れる。


「ええ、もちろんです」

「占いとは、どうしても、人の心をのぞくようなところがありましてね、穢れがたまるのです」

「なるほど……」

「お客人がいるのに、失礼なことなのですが、どうにも、落ち着かず……」


よくわからないが、そうなのかもと思ってうなずく。


「元々約束があったわけでもありませんのに、そんな風に遠慮なさらないでくださいませ……私はここでロゼを待たせていただきます。コンソラータ様はどうぞいつものようになさってください」

「そうですが、では、なにもありませんが、ごゆっくり」


コンソラータ様はそう言い残し、客間を出て行った。

ありがとうございました、まだまだ続きます。

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