穢れ
「あなたは、ロゼ様のところの……」
コンソラータ様は一瞬目を見開いたが、面白そうに薄く微笑むと、コインを渡してくれた。
「あなたのような人が、よもやこんな小銭を追いかけ走るとはね」
そう言われ、頬が赤らむ。
「いえ……私、ビュフェ家の親戚ではありますが、身分は高くありませんの」
そう聞いて、一瞬コンソラータ様の目が光った気がした。
「へぇ……」
思わずといった感じでそれだけ言うと、黙り込み、じっと私を見つめて来る。
「リリアーネ! リリアーネ!」
後ろから駆けて来る軽やかな足音と共に、ロゼの声が聞こえて、振り返ると、真っ赤な焦った顔でロゼが追い付いてきた。
「何してるのよ! 離れちゃダメでしょ! どれだけ焦ったことか! って、え? コ、コンソラータ様!」
ロゼは口をあんぐりと開け、驚愕のあまり手に持っていたかごを落としそうになった。
「ロゼ、落ちちゃうわ」
「ああ!」
慌てて手を添えた私の行動で、我に返ったロゼは、私の顔を凝視した。
「ねえ、なぜこんなことに」
真剣な顔であった。
「えと、お金を落としてしまったのよ、それで追いかけていたら、偶然拾ってくださったのが、コンソラータ様で……」
「お二人、ここで会ったのも何かの縁、よろしければ、家におはいりください」
コンソラータ様は、私たちと同じくらいで、まだ10代であると思われるのだけど、威厳たっぷりにそう告げた。
中性的な声には張りがあり、美しく響き、そして、この声で命令されれば何者も言うことを聞いてしまいそうな、そんな魅力があった。
「ま、まさか! このあたりにお住まいなのですか!」
ロゼは驚きながらも聞き返す。
コンソラータ様は苦笑しながら答える。
「まあ、家はいくつか持っていますが、首都ではここですね」
「こんな商業区に……」
「いろんな客に呼ばれていくものですからね、どこへ行くのもここに拠点を置くと便利なもので」
◇
室内は落ち着いた設えだった。
10代後半の女性が住まうならば、もう少し飾り付けがあったっておかしくない。
そう感じるほどには、地味だ。
しかし、ここは数ある彼女の拠点の一つ、周辺の仕事の時のみ使用するということならば、こんなものかもしれない。
私とロゼは通された客間でキョロキョロしてしまって、ついお互いの顔を見合わせて苦笑しあった。
「はしたないわね、よそのおうちをこんな風に観察するだなんて」
「しかたないわ、気になってしょうがないんだもの」
扉がすっと開き、コンソラータ様はワゴンを引いてきた。
「とりあえず、お茶を入れてみたのだが……」
少々困り顔のコンソラータ様は戸惑い気味にティーポットを手にした。
「まあ! わたくしがしましたのに!」
「いやいや、ロゼ様、ここは一応私の家ですからね」
「ですが、おつきの方はどちらへ? 普段こんなことはご自分でなさらないのでしょう?」
ロゼの当然の疑問に、困ったように微笑んだコンソラータ様はポットをテーブルに置き、ワゴンにあったカップを私たちの前に出した。
「ここには、誰も入らないのです、お客人も、あなたたちが初めてです」
「「ええ!」」
思わず私たちの声は揃ってしまった。
「光栄です!」
ロゼは喜び、「あとは私が」と、ポットからお茶を注いだ。
「いつも、仕事が一段落したら用意する好きな菓子がありましてね、今日も予約をしているので、取りに行こうかと、よろしければご一緒にどうでしょう」
コンソラータ様はそう言って私たちを見つめた。
「まあ……そのお菓子はどこの?」
「この先の角にある、ミスロラール菓子店です」
菓子店の名を聞いて、ロゼは目を輝かす。
「でしたら、私が取ってまいりましょう。お疲れなのでしょう? コンソラータ様」
「ですが、子爵家の令嬢を用事に使うなど」
「いえいえ、そんな、むしろ光栄ですわ」
ロゼはそうと決まればと早速立ち上がり、私に待っていてと言うと、颯爽と出かけて行った。
「ビュフェ家のお嬢様は本当に、活動的で、好ましい方ですね」
「私もそう思いますわ」
二人きりになってしまって少し緊張しながら、二人でお茶を一口飲んだ。
「申し訳ないのだが……私は仕事終わりに帰宅すると、必ず湯を使うのです、お湯は沸いているので、少し失礼してよろしいでしょうか?」
そう言いながら、コンソラータ様は被っていた茨の冠を取り、赤い布を取った。
黒い艶やかな髪が現われ、ついそれに見惚れる。
「ええ、もちろんです」
「占いとは、どうしても、人の心をのぞくようなところがありましてね、穢れがたまるのです」
「なるほど……」
「お客人がいるのに、失礼なことなのですが、どうにも、落ち着かず……」
よくわからないが、そうなのかもと思ってうなずく。
「元々約束があったわけでもありませんのに、そんな風に遠慮なさらないでくださいませ……私はここでロゼを待たせていただきます。コンソラータ様はどうぞいつものようになさってください」
「そうですが、では、なにもありませんが、ごゆっくり」
コンソラータ様はそう言い残し、客間を出て行った。
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