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先見  (ラーシュ視点)

 首都を見下ろす東の高台に、荘厳な神殿がある。

現在の神殿長は、大司教オルランド・カニャール様が兼任されている。


 代々騎士の家系であるカニャール家は、時折聖なる力を持つ男子が生まれる。

オルランド様は、カニャール家の長男。

ちなみに末の4男で、騎士であるスティーグは、私と同い年だ。


 幻惑魔術の使い手である彼は、派手な紫の長い髪を今だに長く垂らし、結ぶこともまれだ。

子供時代から女性好きで、困ったやつであった。

当然のごとく幼き頃より共に過ごした仲であるが、彼の口から年の離れた兄のことが語られたことは一度もなかった。


 オルランド様の母は身ごもると同時に、腹の中の子が普通ではないと気づいたそうだ。

それほどに力が強いと言われる方なのだが、それゆえ家族でも特別扱いされたことだろう。

スティーグからすれば、それは面白くなかったかもしれない。





 私は今、夏の祝祭の儀の準備に勤しんでいる。

助手たちはあれこれと私の指示通りに動いてくれはするが、自発的に動くまでは成長していない。

いちいち指示が必要なのだ。

そのことに少しのいら立ちを覚えていて、この程度で心に小波が立つようではいけない。

自分の課題は大きいとため息をつく毎日だ。


祝祭の儀には、オルランド様もいらっしゃる。

今は、北の渓谷にある祠で祈りを捧げていらっしゃるのだが、間もなく戻られることだろう。


 オルランド様が余計な思考をせずとも良いよう、計らうのが私の役目。

まっとうせねば……と、気を引き締めた。


 廊下を歩いていると、今年入ったばかりの見習いが、私に礼をする。

私は軽く微笑み、短い言葉でねぎらった。

彼らはまだ何もできない子供だが、これから長い修行がはじまる。

どうか、それを乗り越え、よき神官になってほしいものだ。


 やがて、渡り廊下に出ると、眼下に広がるハイスロリアの首都が一望できる。

しかし、私はそれを楽しむ余裕なく先へと急いだ。


そして、ヴァルベルが問うてきたことを今一度考える。


『オベール家の長男をかくまってはいないか?』


かつての同級生にそう問われたとしても、こればかりは真実を告げるわけにはいかなかった。

しかし、ヴァルベルには、遠回しにではあったが、神殿は無関係とは言わなかった。


 私の腹心に道化の恰好をさせ、長男を救ったのは確かに私だからだ。

それもこれも、オルランド様の先見による。

あの家の子息と令嬢を助けるようにと、そう言われたのだ。


その伯爵家の長男をなぜヴァルベルが探すのか?そのわけはわからないし、知る必要はないだろう。


 オルランド様が時折、「なぜそれを今……」という指令を私に下されるようになって、早4年。

私が神殿に入った次の年からだ。

大抜擢の末、首都の神官をまとめる役割をいただいた、そしてその日から、私はオルランド様のあれこれを手伝うことになったのだが。


 小さなため息をつく。


 神殿に入るまで、オルランド様が祈りの末、予言めいた先見をみられることなど、知らずにいた。

いや、この神殿にいる者でさえ、知らない者が多いはずだ。

誰でも知っていることではない。


 下された指令の結果が何をもたらすかは、私にはまだわからない。

若いうちに人をまとめる位に付いたというだけで、私などは、オルランド様に比べれば、その他大勢の単なる神官の一人にすぎないのだ。


私が訳を知らねばならぬ事ならば、きちんと説明がなされるはず、それがないというのであれば、知らなくてもよいことであろう。


 図書室の大きな扉をギイと開け、他の神官たちが忙しく資料集めしている中を遠慮なく入っていく。

私を認めると手を止め、深く礼をする者がいたが、私は小さく微笑むだけにした。

他の者の邪魔はしてはならない。


 神官長のみ入室できる扉の鍵を開け、一番奥の書架の前に立つ。

チェーンを引き、上にある棚を下すと、目当ての書を探す。

ふと、先々代王妃の精霊王との記録が目についた。


これは、世に出回る『精霊物語』とは違う。


本物の記録……とされている。


しかし今、王家に精霊の影はないという。

ならば、なぜそれをきちんと引き継げなかったのか。

血統で引き継げなかったというのならば、能力、人格、そういったものが必要であったということなのか。

ということは、現在の王家とは……


ここまで思考し、唇を引き結んだ。


そして、そこから目を離し、目的の書を手に取ると、またチェーンで棚を元に戻した。


「精霊か……」


その影はもはや王家にはないとすれば、この国は祝福されていないということになるのか。

いや、先見を行うオルランド様がいるではないか。

オルランド様の能力は山の女神様から授かるものであり、精霊の力とは違うもの。


だが、この国の民の中で、そのような力のある者がいるというのならば、国自体が見放されたということではあるまい。


しかし、そうであれば……いや、そうであればこそ、では、今の王家とは、何のためにあるのか?と、どうしてもそう考えざるをえない。


「どちらにしても、危険な思想だ」


小さな声でそうつぶやくと、私は図書室を後にした。

お読みくださりありがとうございました。 

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