夢のような夜
デビュタントたちが係の人に従い一列に並んだ。
私もヴァルベルに手を引かれ、その列に加わる、すぐ後ろにはロゼとホセもいる。
二人は私たちにほがらかに微笑みかけてくれた、それがとてもうれしい、旧友を見つけても話しかけることすらできない私には、このホールの中で知り合いはこの人たちだけなのだ。
やがて、白い薔薇がメイドたちにより配られてきた、私もヴァルベルもそれを一輪取った。
私はヴァルベルの胸ポケットにそれを入れた、ヴァルベルは私の髪に挿してくれた。
思わず右手でその薔薇をそっと触った私に、ヴァルベルは照れくさそうに微笑んだ。
「似合ってるよ、今日はとてもきれいだ」
その言葉を聞いた途端、周りの喧噪が嘘のように消えて、一瞬息が止まった。
こんな美しくて素敵な人に……きれいなんて、そんな言葉を……
「だから……そんな顔しないでくれるかな? 自覚ないの?」
ヴァルベルの次の言葉に正気に戻った私は思わず両手で両頬を押さえる。
そんな顔って……そんな顔にさせたのはあなたじゃないですか! と問いただしたくなる。
「お化粧がとれるよ、さあ、お手を、リリアーネ」
私は軽く深呼吸してもう一度ヴァルベルの左手に右手をそっとのせた。
この手がつながれているだけで、ドキドキするし、安心もする。
なんて不思議な感覚なんだろう、不安定すぎて心臓に悪いけども……。
オーケストラの音楽が鳴り出した。
それを合図に列が動き出す。
歩き出したデビュタントたちに、見守るそれぞれの家族が大きな拍手を送ってくれる、私はそっと周りを見渡した。
本当なら、私は兄の手にひかれ、華やかに社交会デビューをして、そしてお父様もお母様も笑顔で拍手をしてくれたのにと、そう思わずにはいられない。
だけど、ビュフェ子爵夫妻の温かな優しさの中私は生かされ、そして母と作ったドレスに袖を通し『リリアーネ』としてではあるけれど、今こうやって列に加わっている。
こんなの……奇跡のようだわ……
皆の愛がうれしくて、涙があふれそうになって、私の顔は少しゆがんだ。
そっとヴァルベルが耳打ちする。
「リリアーネ、深呼吸」
「はい、ヴァルベル様」
私は背を伸ばし、そして笑顔を作った。
……どうせなら、最高に美しい夢のような一夜を……ここから先は貴族としていきる人生ではない、私はもはや伯爵令嬢ではないのだから。
これは、最後の思い出となるんだわ。
ホールの中央まで列が進むと、ぴたりと音楽が止まった。
そして、ダンスの音楽が奏でられる。
デビュタントたちはパートナーに向き合い、手に手を取り、ステップを踏んだ。
皆が同じダンスをして同じ動きだ、一斉に動き出すデビュタントたちを見守るギャラリーたちは喜んで拍手をし、盛り上がった。
ヴァルベルを見上げる、シャンデリアの光が反射して、美しい闇色の髪が輝いていて、そして深紅の瞳は優しげだった。
しっかりとリードしてくれる彼のおかげで久しぶりのダンスも危なげない、本当に、夢のような……こんなに私だけが幸せで良いのだろうか?と、そう思えるほどに、私は今幸せだ。
私の顔には、貼り付けたのではない自然な笑みがあふれた。
ターンをして一瞬手が離れる、その一瞬さえもどこか心細い、再び手を取った時にどれほど安堵したことか。
ほんの一瞬でも、この人と離れたくない、そう思っている自分に私は酔いしれた。
コンソラータは言った、燃えるような恋をするだろうと……
そう、私は今、きっと初恋をしている。
この恋は叶わないかもしれない、けれど、この瞬間を私は忘れない。
お父様お母様、見ていてください、私は強く生きていきます。
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