舞踏会にて2
「そうではない……彼らの結婚は策略だ」
私はヴァルベルの言ったことに驚いた、策略とは?
「どのような?」
その時、そばを一組のカップルが横切った、私たちは口をつぐみ彼らを見送る。
「あまりペラペラとは話せないよ、さすがにね」
ヴァルベルは苦笑した。
「では、次にあの夫妻は」
私はランドスー商会の会長夫婦の隣に立つカップルを見た。
そして、あまりのことに腰が抜けそうになる、とっさにヴァルベルが私を支えた。
「大丈夫か?」
「……はい、でもあの人は……」
「見覚えあるよな?」
「ええ、ありますとも」
彼女はオベール家のメイドの一人だった。。
なぜ、彼女がここで優雅に……いまここは貴族しか入れないはず。
そもそも、伯爵家のメイドが貴族であるわけない、侍女は爵位のある家のお嬢さんがなることもあるが……メイドは単なる使用人なのだ。
「彼女のことで何か思い出すことは?」
「……」
考えてみるが、特に印象に残ることなど無かった、彼女はあまりにも、普通のメイドだったのだ。
しかし、こうしてみると、衣装をドレスに着替えただけで、不思議とちゃんと貴族の夫人に見える。
オベール家に勤めるうちに、基本的な動作などが自然と身に付いたのかもしれない。
「彼女は一体、何者でしょうか」
「……それは後で……その隣の男は?」
ヴァルベルに言われ、その横を見る。
やはり見覚えがあった……だが、はっきりと思い出せない。
「見覚えはありますが……どこで見たのかは思い出せません」
「そうか……他に、会場にオベール家の元使用人はいやしないか?」
私は会場内を見渡した。
「他には……今は見つけられません」
「そうか、では、終わるまで、その仕事を忘れないように。これは大事なことだ」
「はい、わかりました」
私はきつく口を引き結んだ。
「ところで、君はダンスは練習してあるのか?」
ふいな質問に、思わず思考が停止する。
この後デビュタントたちのダンスがある、舞踏会なのだから当たり前だが、そのダンスは基本のダンスを皆でそろえて踊るのだ。
デビュタントを迎える娘たちはそれぞれパートナーと共に、半年はその練習にいそしむのが普通で、私も兄と練習していた。
「ええ、兄と」
「そうか……じゃあ、大丈夫だな」
「ヴァルベル様は?」
「俺は大丈夫……」
自信なさげにそうつぶやいたヴァルベルを思わず見上げる。
そういえば私たちは一度も手合わせしていない、ほんとうに踊れるのか心配しかない……
「ここで軽く踊ってみます?」
「ここでか?」
周りを見渡すと、本日デビュタントの娘の晴れ姿を見るために、親世代の入場が増えてきて、ますます会場は混んできていた。
「隙間がありませんわね」
「そこなら……」
ヴァルベルは後ろのバルコニーを見た。
私も確認すると、今は誰もいないバルコニー、かなり広さもあった。
私もうなずき、ヴァルベルのエスコートでそこに出る、爽やかな夕暮れの風が吹いてきた。
もうすぐ日が沈むのだ。
私たちはお互いに向かい合い、手と手を重ねる。
見上げた彼の顔は夕暮れの光で燃えるようだった、胸がきゅっと痛んだ。
呼吸を合わせ、私が引いた右足に彼の左足がついてくる、そしてくるりと向きを変えてそのまま優雅にステップを踏む、彼のリードでまるで空を飛んでいるように体が軽く感じて、思わず笑顔になった。
「うまいじゃないか」
ヴァルベルの一言に私も返す。
「そのままその言葉を私も返しますわ」
お互い見つめ合ってそして微笑み合った。
その時、会場でファンファーレが鳴り響いた。
「そろそろだね」
「ええ、行きましょう」
お読みいただき、ありがとうございました。
応援よろしくお願いします☆




