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舞踏会にて

 馬車の扉が開き、ホセとヴァルベルが先に出て、それからロゼ、私の順番で降りる。

私の手はヴァルベルにエスコートされ、手袋越しに彼のぬくもりを感じて胸がドキドキしてきた。


 馬車を降りて少し歩くのだが、道は同じようにドレス姿のデビュタントたちでびっしりだった、どこかにかつての友人がいないかと、思わずキョロキョロしてしまう。


 実は今日、私の顔には魔術が施されている、今朝早く、ヴァルベルが連れてきた紫髪の男性が、私にその術をかけてくれたのだ。

万が一、私を知る誰かに見られたとしても、その人は私には気づかないらしい。


仲がよかった友人たちは、『スティア』は、もはや生きてはいないと思い込んでいる、だから、魔術をかけられた私には気づかないはずだと。


しかし、私を『リリアーネ』と認識している者には効かない。

ロゼもホセは目の前にいる私を『リリアーネ』と思っているので、魔術には気づいてすらいないはずだ。






「家名をお伺いします」


城のダンスホールに入る手前、誰もが呼び止められ、係に家名を聞かれている。


「ロゼ・ビュフェです」

「リリアーネ・ビュフェです」


少し声が裏返る、こんな状況で緊張するなと言う方が無理だ。

ヴァルベルはそんな私を気遣うように少し微笑んでくれた。


「ようこそおいでくださいました」


無事、そこをくぐり抜け、ヴァルベルの腕を頼りに10段の階段をあがる、一歩一歩踏みしめて上がると、大きな両開きの扉が開け放たれており、会場がそこから見通せた。


白亜の舞踏会場は、天井から下がるたくさんのシャンデリアに照らされ、琥珀色に輝いていた。

すでにかなりの人数が集まっていて、皆美しいドレス姿をまとっていて、それぞれのパートナーと共に仲良く話している姿が優雅だ。


「ロゼ、俺たちは離れるよ、ホセ、妹をよろしく」

「ああ、わかった」


ロゼは少し心配げに私を見つめたけど、後ろから友人に話しかけられて私から目を離した。

それを合図に私もヴァルベルと共にその場を離れ、バルコニー近くのソファー付近まで歩く、途中、何人か見知った顔とすれ違い、ドキリと心臓がはねた。


「あちらは君を認識できない、大丈夫だ」


静かな声が頭上から聞こえる、私は見上げてうなずいた。

そしてまたもや、目を奪われる、なんてきれいな人なんだろうと、見るたびに思ってしまう。


「オヤジの言ってたこと、覚えているよな」

「ええ、もちろんです」


私たちはビュフェ子爵から頼まれごとをしている、それはオベール家に関わることなのだ、私は二つ返事で引き受けた。


「あちらのソファーにいるのが、その夫婦だ、見覚えは?」


その夫婦を観察しながらバルコニーを背に立っていると、ボーイが飲み物を差し出した。

私たちは同時に紫色のお酒を手に取る、だが、ヴァルベルは私の手からそれを取って、代わりに琥珀色の細いグラスを私に持たせた。


「これは?」


飲みたかったものとは違うグラスに取り換えられ、困惑した私にヴァルベルは言った。


「酒は飲むんじゃない」

「……でも私、成人しましたし、本日デビュタントなのです」

「まだ成人としてひよっこということだろうが」

「そういうこと言ってたら、いつまでも大人の世界の味を知らないままじゃないですか?」

「知らないで良いことだってある」


私たちの会話を生ぬるい笑顔で見つめていたボーイに、ヴァルベルは「大丈夫だ」と言い、下がらせた。


「……で」


ヴァルベルの意味ありげな視線で、あの夫婦にもう一度視線を戻す。

あの夫婦は『ランドスー商会』のオーナーだ。

オベール家は商会の出資者だった、しかし父は経営には関与せず、もっぱら相談役みたいなもの。

月に一度、ランドスー商会のオーナーと理事の方々が集まって食事会を開き、報告会が行われるのだが、それはオベール家のバンケットルームで行うのが常だった。


「報告会にいらしてたので、私あの夫人も見たことがありますわ、とはいえ子供の私がそれに出席していたわけではありませんので、人となりは……」

「そうか、では、彼女の出自について、小耳に挟んだことは?」

「いえ、特にありませんが」


不思議に思い、ヴァルベルを見上げる。

ヴァルベルは顎を動かして目を細め、ランドスー夫人を見つめた。


「彼女は王妃の侍女だった」

「そうなのですか?」


私は少し驚く、王妃の侍女ともなればかなりの聡明さが求められる、それと同時に出自の良さも。

それに永年就職が普通で、途中退職して商会に嫁に入るというのも不思議に思われた。


「それだけ愛し合っておられたのでしょうか」


改めて仲のよさそうな夫婦を見て、おもわずほんわりとした気持ちになった。


お読みいただき、ありがとうございました。

引き続き応援よろしくお願いします☆

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