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ドレス

 ハイスロリア王国の王まだ若い、今年38になったばかりの王は温和な人で、古い歴史あるこの国の王としてふさわしくないと言われることさえある。

その優しい王と愛する王妃の間には、一人の王子と一人の姫がいる。

姫はまだ5歳の幼子、しかし王子は18歳、私やロゼと同い年だった。


 そして、我が国のデビュタントの舞踏会は、今年、成人となった王子が主催する、はじめての社交の場となる。

つまり、注目されているわけだ。


 アロイス王子は銀色の癖のない輝く髪に、茶色の瞳は、優しげな光を讃えている。

私は一度、礼拝で見かけたことがあった。

遠くから一度しかないのだけど、「あなたと同い年ね」という母のうれしそうな声が耳に残っている。





 まだ日の高い時間、私とロゼは客間に広げられた道具に囲まれ、ドレスの着付けをしていた。

マダムはきびきびと化粧係と髪結いに指示を送る。

私とロゼは目を閉じろと言われたり開けろと言われたり、口を開けたり閉じたり半開きにしたり、とにかく指示通りになすがままだ。


「それにしてもリリアーネ、素敵なドレスね」


私は鏡越しにボディーに着せられている白いドレスを見た。

母と『ミテア服飾』で作ったもの、それをマダムは受け取りに行ってくれたのだ。

まさか、このドレスを着ることが出来るなんて、思いもしなかった。


ドレスは前払いで料金は支払われていたとマダムは言ったが、定かではない。

きっと、私のことを思って、本当のことは言えないのだろう。


心の底から感謝し、どうすればお返しできるのかと、受けた恩の大きさに胸が震えた。


「ええ、とても趣味がいいわ。とくに胸元のレース!」


ロゼも一緒に喜んでくれる。

あのレースは母のウエディングドレスの余りを使ったもの、娘の幸せを願い、母のドレスに使ったものを取り入れるのは伝統だ。


「ありがとう、ロゼ、だけどあなたのも素敵よ」


おしろいの粉にむせるロゼにそう伝えると、ロゼはにやりと笑った。


「そうでしょう! ほんとにとっても気に入ってるの!」


同じく白いドレスのそれは胸元に薄いラベンダーの刺繍が入っている。

その刺繍はマダムが入れたという、母の愛がここにもたくさん詰まっているのだ。


「はいはい、無駄口をたたかないの。どちらのドレスも美しいわよ、だからあなたたちも美しくなりましょうね」


マダムの言葉に私もロゼも肩をあげて舌を出した。


扉がコンコンとなる。


「どうかなさって?」


マダムが扉の向こうに開けずに答える。


「ああ、迎えの馬車が到着しているよ、支度ができたら出ておいで」


ビュフェ子爵の声が響く。


「まあ、もうそんな時間なの? 急いでちょうだい!」

「はい!」


ぎゅうっとこめかみの髪がひっぱられ、高く結われる。

コテで巻かれた髪が美しいウェーブを描き、優しく顔にかかり、あらわになったうなじまでゆるやかなカーブを描いた。


顔には紅がさされ、ぱっと花開いたように艶やかになった。

私は魔法にかかったような気分で鏡をじっと眺める。

お化粧はほとんどしない私には、ほとんどはじめての経験だ。


「さあ、立ち上がってくださいな」


着付けのために立ち上がると、3人がかりでドレスを着せられた。

最近のドレスはあまりコルセットを用いない、それは舞踏会も同じだ、胸のすぐしたで絞まり、そこから広がるエンパイアスタイルのはやりの形は、ロゼも私も同じで、鏡の中の二人は対のようになった。


「まあ、すてきよ、ふたりとも」


マダムはうれしそうに両手を合わせた。


「ありがとうございます」


私は泣かないように頑張ってお礼を告げる。

涙なんて厳禁だ、お化粧が落ちてしまうもの。


「さあ、では行ってらっしゃい!」

「はい!!」


私たちはマダムが開けたドアの向こうに、それぞれのパートナーを見つけた。


ロゼのパートナーは、彼女のいとこのホセ。

私のパートナーは……黒い髪で深紅の瞳の美しいヴァルベル。


白いシャツに黒いタイ、そしてタキシードのフォーマルスタイルの彼は、王子様のようだった。


お読みいただき、ありがとうございました。

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