解禁
ブルゴー社長はビュフェ子爵との対談が終わると、記事を楽しみにしていると一言残し、次の予定地へ馬車で移動していった。
「リリアーネ。君は何かを聞いてるみたいだね」
一息つくためにお茶を入れていると、後ろからビュフェ子爵に呼ばれた。
私は振り向いて、それから遠慮がちにヴァルベルを見る。
「オヤジ、俺だ」
「そうか、いつ聞いたのかはしらんが、君の兄のことはまだ確定じゃない、余計なことで心配せずに……まあつまりあれだ、あまり考えすぎないようにな」
ビュフェ子爵は、口元のひげを触りながら優しげに微笑んだ。
彼は私と同い年の娘がいるのだ、きっと私のことも娘のように思い、放っておけないのだろう。
「そうそう、君は社交会ではどの程度顔が売れているかね?」
「私、デビュタントもまだでしたし、時折母のサロンのお手伝いに出る程度で」
「すると、舞踏会は?」
「王子殿下主催の舞踏会なら、ありますわ」
アロイス王子は、18を迎えたばかりだ、来春、王太子になると聞いている。
未成年の少年少女が集まる舞踏会はアロイス王子主催で、年に一度行われていた。
私は友達とともに、出席していたのだ。
ドレスで着飾ることも楽しくて、そしてお料理がおいしくて……なつかしい……心からそう感じた。
「なるほど、伯爵家ならば出席するだろうね」
「ええ、ご招待をお受けしておりましたので……」
「では、君の顔を知るものは、学園でも上位の貴族の子女のみ……かな?」
「ええ、そうですね、私の顔はそれほど広くはありません」
「では、外出を少し解禁するか」
にやりと笑ったビュフェ子爵にヴァルベルは反論した。
「オヤジ、それはまだ危険では」
「そうか? お前が一緒にいればいいのではないか?」
「え?」
その言葉に固まってゆっくりと私に視線を移したヴァルベルは、コホンと咳払いをした。
「……どういう意味だ」
「ああ、来週、デビュタントがあるだろう?」
それを聞いて胸がチクリとした。
ロゼは今日、デビュタントに着るドレスの仕上げ、最終のサイズ調整に出かけていた。
私のデビュタントのドレスも、当然母が発注済みで、街で一番のミテア服飾で仮縫いまで済ませてある。
あれは、どうなったのだろうか……
「そうなのか?」
間の抜けたヴァルベルの声に、現実に引き戻された私は思わず彼の顔を見る。
「ヴァルベル様はロゼのパートナーとしてご出席では?」
「はあ? おれが?」
心の底から驚いた様子のヴァルベルにこちらが驚く。
「だって、婚約者がいない場合は、兄やいとこが……あ、も、もしかしてロゼには婚約者が?」
コンソラータの占いのことを思い出した私は両手で口を覆い、天井を見上げた。
ああ、そうなんだわ……ロゼは恋してるんだった!
そのお相手とデビュタントに行くのね……
なんてロマンチックなのかしら……
「その……勝手に想像に浸っているところ悪いんだが、ロゼにはまだ婚約者はいない」
「え?」
「そうだよ、ロゼの相手は私の甥だ」
「え、お兄様がいらっしゃるのに、なぜ」
ヴァルベルはくるりと背を向け窓を見つめた。
「ヴァルベルが嫌がったからだ」
「えええ」
「だがね、ヴァルベル、今度は嫌がっても駄目だ、お前はリリアーネのパートナーとしてデビュタントに出席してもらうよ。リリアーネ・ビュフェ令嬢のね」
ビュフェ子爵は片目をつむって微笑んだ。
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