占い コンソラータ視点
その夜も街は寝静まろうとしていた、だが、ここは違う。
呼ばれた室内には猫足に花のジャガード織りが張られた椅子が2脚。
揃いの小さなティーテーブルには、豪華に盛られた果物と花、そして、飲みかけのワイン。
カーテンを開け放ち、そこから街を見下ろしていたのはマリアという高級娼婦。
この花街の誰よりも身分が高い、客として訪れる貴族よりも、ここでは彼女の方が上とされている。
そんな独自の決まりがある閉鎖された空間。
私の助手は、テーブルに水晶玉を置き、部屋を出て行った。
それが合図だったように、彼女は振り向いて、にこりと微笑んだ。
周りの空気をとたんに変えてしまう、まるでここが草原の中の花畑であるかのような、軽やかで清らかな風を感じるような。
「ようこそコンソラータ」
占いの値段は人によって変えている。
私は今や、王家からもお呼びがかかる占い人、決して安くはない、誰もが様付けで呼ぶほどに。
だが、彼女は一国の主のように私を気軽に呼び捨てで呼んだ。
しかしその声色に偉そうなそぶりはない、旧友にあえたかのような、親しげな情を感じる。
私は一礼し、彼女の顔を真っ正面から見た。
……ああ、今日も顔に嘘を貼り付けて。
私に見せた親しげな情すら、この者の持つ技術だ。
実際に私にそんな感情があるわけではない、しかしそれを見抜けるのは私が彼女を愛していないから。
ここに通ってくる男どもは皆、彼女のこの演技にだまされ、我こそ彼女の一番であると錯覚しているのだろう。
「マリア、元気そうね」
「ええ、体調管理はバッチリよ」
そして、2脚しかない椅子の片方へ美しい所作で誘われる。
ここはそう、男女が二人になる部屋、何もかもが二人分だけしかない。
彼女の個人的な生活の場ではないのだから、これで当たり前なのだ。
私は先ほどまでどこかの紳士が座っていた椅子に座る。
「時間作るのに手間取ったわ、今回、来る前に連絡くれないんだもの」
マリアはすねたように口をとがらせた。
そんな少女のような仕草さえ、彼女がすると一流の技術となる。
私は思わず視線をそらして、果物を見、ブドウを一粒取った。
それを口に入れ、甘い果汁で心を満たした。
そういえば今日はまだ、食事をしていない。
私は占いをするとき、空腹でいるのだ、その方がより研ぎ澄まされるからという理由で。
「今夜はどうする?」
私の問いに、マリアは窓辺に座ったまま足を組んだ。
「ん……そうね、今、二人の男が私を身請けしようとしているの。そのどちらを選べばいいか悩んでいるわ」
「マリアの気持ちはどうなの?」
「……私の気持ちは……なるべく、運のよい殿方とのご縁になれば良いと、そう思ってるわ」
「それだけ? つまりどちらにも愛はないということ?」
「ええ、だって愛なんて意味ないじゃない。お金がすべてよ」
私は手を合わせて魔力を捻出する。
美しいバラ色の炎が指先にともり、そしてそれはふわふわと浮いて、水晶玉に入っていく。
炎の色はその者が持つ能力の色、彼女は『魅了』の力を持っているのだ。
他の人の目には見えないが、私には水晶に浮かんだ映像が見える。
その中でマリアは、ある男性の手を取っていた。
「マリア、あなたの好きな人は、とても派手ね」
「あら」
そう言ってかわいらしい笑い声を出した。
「隠せないわね、コンソラータ」
「どうして、隠そうとするのかしら、何が見えても私は何も言わないわ、正確な答えを探しているのなら、むしろ、私には嘘をついては駄目よ」
「……あの方は、そう、私のような立場の人間が夢見てはいけないの」
「……」
「私はここから出たら単なる平民、あの方に直接話すことさえ遠慮しなきゃいけない、下の下よ」
「マリア」
「さあ、選んでちょうだいコンソラータ、私はどちらを選べばいいの?」
私はマリアの何の感情も浮かんでいない白塗りの顔を見つめた。
「どちらを選んでも、生活は保障されるでしょう、でも、きっとあなたは満足できない」
マリアは困ったように微笑んだ。
「そう……わかったわ、ありがとう」
「何がわかったの?」
「つまり、どちらでもいいってことよね。それだけわかれば良いわ」
「本当に?」
「ええ、あなたがそういったんだから、どちらも大きな問題はないということね。ならばより裕福な方を選ぶまで」
マリアは微笑んだ。
「ありがとう、コンソラータ。次に会う時はきっともう、ここではないわね」
私はマリアの手を取って、甲に口づけた。
私の口づけは祝福を与える意味がある、人々はこれがほしくて大金を積むのだ。
「いつか、きっと。あなたも本当の笑顔で笑える日が来るわ」
「ふふ……おかしなことを言うのね」
「マリア、私はいつでも本音よ」
マリアも手を握り返してきた。
二人で窓辺に立ち、路地を歩く人々を眺めた。
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