コンソラータ
今話題の占い師『コンソラータ様』は、真っ赤な布を頭からかぶり、いばらのようなデザインの冠をその上からつけていた。
その冠は繊細な作りで、真ん中に大きな青いアメジストが輝いて、赤い布との対比が素晴らしかった。
そして、黒いドレスは光沢があり、赤い布の反射で濃いえんじ色にも見える。
ところどころに刺された刺繍のデザインもいばら……まるで、線の細い体が、いばらの枝に巻かれているようで、どこか痛々しかった。
「お待たせした」
響いてきた声は中性的で落ち着いた美しい声だった。
顔を上げた時、赤い布から大きな瞳が見える、緑色のそれは何もかもを見透かすようで、思わず体が震えた。
「ビュフェ夫人、またお会いできて光栄です」
「こちらこそ、コンソラータ様」
「ロゼ嬢、あなたも、お元気ですね、ますます美しくなった」
「コンソラータ様にそんなふうに言われますと……」
続きが言えなくなったロゼを見ると、顔が真っ赤だった。
「して、あなたは?」
コンソラータは緑の瞳で私をじっと見つめる。
「この子は夫の姪、リリアーネですわ」
マダムの紹介で私はカーテシーをする。
考えてみれば、この人は流浪の占い師、こんな風に貴族たちに『様』を付けて呼ばれていることに不思議な思いを抱いた。
「そう……姪御さん……」
「どうぞお座りになって」
マダムはメイドにお茶をお願いして、皆で着席した。
「どなたから見ましょうか」
コンソラータはマダムを見つめた、ロゼが軽く手を挙げて自分を指さす。
「私からお願いします、コンソラータ様」
「では、そうしましょう」
お付きの人のうちの一人が机の上にクッションを置き、その上に水晶の玉を置く。
磨き抜かれた大きな玉は、日差しを受けてきらきらと輝いた。
「ロゼ嬢、何を占いましょう?」
「ああ……ええっと!」
ロゼは両こぶしを握り締めて、腕を上下に振って、まるで幼子のように慌てていた、私は思わず笑って彼女の背をさする。
「ありがとうリリアーネ! では……では、恋占いを……」
そう小さな声で呟いてから下を向き、そっとマダムを見上げた。
マダムは笑いをこらえつつ優雅に微笑んでうなずいた。
「では、娘の恋の行方をお願いしようかしら?」
コンソラータは輝く水晶を見つめ、そして、右手から炎を出した。
ちいさな青い炎は彼女の手のひらで生き物のようにうごめき、やがて玉に吸い込まれていった。
私は初めて見るそれに度肝を抜かれ、思わず前のめりになった。
「そうですね、ロゼ嬢の恋……悪くありません、努力次第で認めてもらえるでしょう」
ロゼは両手で口を押え、小さく「うぁあ」とつぶやいた。
「ですが、お互いの努力は必須です、あなただけでなく、お相手も。とくに、お相手は何も持っていないようですね、今のままでは、いけない。あなたはよくお相手を支えていかなければなりませんよ」
「はい」
ロゼは真剣な顔でうなずいた。
「ですが、あなた方にはよい理解者がいるようだし……ねえ、ビュフェ夫人」
「ふふ……そうでございますね」
マダムは優し気な笑みで娘を見つめた。
ロゼには、好きな人がいて、結ばれようとしているのだと、その時はじめて知った。
話の成り行きからそれは、縁談ではない、恋愛なのだろう。
だけど、貴族の恋愛は……。
「では、お次は?」
「では私」
マダムは私を見て片目をつむった。
可愛らしい仕草に、ロゼとの血のつながりを感じる。
「ビュフェ夫人、何を占いましょう」
「ええ、私は、別宅の件をお願いしましょう」
「別宅」
「ええ、東の森の中に別荘地を購入いたしましたの。湖のほど近くですわ」
「よい景勝地ですね」
「とても美しいところですわ」
コンソラータはこくりとうなずいた。
「いつごろ工事をすればよろしいかしら」
「わかりました、占いましょう」
コンソラータは今度は額に手を当て、人差し指に青い小さな炎を出すと、ぽってりとしたかわいらしい小さな唇をとがらせて、ふうっと吹いた。
炎は風に乗り、水晶に吸い込まれる。
水晶は瞬間真っ青に変化した。
辺りが一瞬青く光った。
「方角も、場所も大変よろしい。工事の時期は来春がよろしいようですね」
「まあ、よかった」
「マダム、少し気になるのですが」
「なんでしょう?」
「マダムは水の力と親和性が高いようです。もしかして水魔法がお使いになれますか?」
「ええ、私はそれほど魔力は高くありませんが、少しなら」
「そうですか、水のそばにいると体も休まり力がみなぎるはず。ぜひ、折々にその別荘地へ足を運んでみられることをおすすめしますよ」
「まあ……ありがとう」
マダムは輝くような笑顔を浮かべた、その笑顔はロゼと似ていた。
「そして、あなたね」
コンソラータは私をじっと見つめた。
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