スティーグ
「なんだスティーグか」
「なんだはないだろう、なんだは」
片手にワイングラスを持っているが、少しも酔った気配のないスティーグは、警備隊の制服のままカジノに興じているようで、俺はあきれた目を向けた。
「お前、また父上にどやされるぞ」
「ふん、私たちはもう大人だ、何をしようと勝手だろう、それよりお前、しばらく留守だったな、忙しかったのか?」
「ああ、オヤジを手伝っていたんだ」
「オヤジさんの手伝いか、また情報集めか?」
「ああ、新聞屋だからな」
スティーグはふと真面目な顔になって俺の耳にひそひそと言葉を落とした。
「なあ、オベール伯爵の嫡男がどうなったか知っているか?」
俺は無表情のまま前を見据え、スティーグを見ずに答えた。
「どうしてお前がそれを気にする」
「情報があったんだ」
そこでスティーグを見る、鼻と鼻がくっつきそうなほど間近にある、派手な顔をじっと見つめ、俺は言った。
「その情報、買う」
「よし来た、上にいこう」
「自分の家のように言うな」
俺たちはカジノ客から見ても不審に思われないよう、話しながら何気ない様子でカジノの裏口から階段の踊り場に出た。
そのままコツコツと階段を上がり、自宅の階まできて、短く詠唱をした。
キンと金属音が微かに鳴って、結界を解く。
「相変わらず結界まで張ってるの?」
「お前みたいなのが勝手に上がりこまないようにな」
「言ってくれるよな」
そのあと鍵を使って開け、扉を開いた。
俺よりも先にスティーグは室内に滑りこみ、勝手知ったる我が家のように、のびのびとソファーに体を投げ出した。
「ふぁああ!」
大きな声であくびをしたスティーグに、俺はため息をつきながら、酔い覚ましの水を渡した。
「結構飲んだんだな」
「いや?私は素面だが?」
そう言いながらも水を受け取り、ゴクリと飲んだ。
「で、どんな情報だ、確かなんだろな」
「確かも何も。私は警備隊なんだから、あの日のオベール家のことは知っている、あの後街の交通整理も安全確認もしたんだから」
全く面倒なことを……とぶつくさ言いながらスティーグはガラスコップを机に置いた。
確かに、夜盗のような奴らにオベール家を襲わせた借金取りたちは、警備隊にしてみれば『余計な騒ぎ』を起こした面倒な奴らだろう。
「じゃ、お前たちの中でオベールの長男を見た者がいたということか?」
「そうだ、あの騒ぎで足の骨を折った同僚がいるのだが、その者が救護班に救出されて手当を受けている時、袋のように肩に担がれたオベールの息子を見たっていうんだよ」
「袋のように?」
「ああ、最初、見間違いだと思ったらしいが、夜目にも質の良い服に確かに顔がそうだったと」
「その者は、オベールの息子の顔を知っていたというのか?」
「ああ、オベールの息子は騎士の訓練を受けていたらしい、私の同僚は同じ師匠を持つ弟子仲間で子供のころからの付き合いだったらしいぞ」
「ならば、見間違えることはほぼないな」
「ない」
「で、その先は?」
「ああ、気になって目で追ったらしいが、治療されている途中だったため、後を追うことまではできなかったらしい。担いでいた男の装束は道化姿、走り去った方角は東だそうだ」
スティーグはそこまで言うと、目を細めて俺に微笑んだ。
「なあ」
「……わかったよ」
俺はため息をついて引き出しを開け、金貨を5枚取り出し渡した。
スティーグはそれを見て、にんまりと微笑んだ。
「これで繰り出そうかな」
「どこへだ」
「マリアちゃんのところだよ」
この頃お気に入りの娼婦の名を告げて、スティーグは俺に片目を瞑った。
「お前も来るか?おごるぞ」
「行かない、興味ないって」
「ふうん」
そしてスティーグは立ち上がり、鏡を見て身だしなみを整えた。
美しく輝くド派手な紫の髪も丁寧になでつける。
「じゃあ、いってくるね、また遊ぼうぜ」
俺は苦笑して送り出した。
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