英雄2 ヴァルベル視点
汗が滲む拳を握りしめていると、ふとイザークは笑った。
声を出して豪快に笑う姿は、俺が思い描く英雄の姿そのもので、しばし見惚れた。
「なあ、ゴルジュ、これは困ったね」
「いや、特に困ってはないぞ?」
「ふ……まあ、いいさ。でだ、俺はこれを報告せねばならん。無かったのならどこに行ったのかを調べねばならんということだ」
俺とオヤジは同時にうなずく。
「行方不明の長男を探せ、そして娘は……」
イザークは柔らかい視線で俺を見た。
「……ゴルジュ、お前に任せよう」
「了解いた」
「では、これで用はおしまいだ」
イザークのその言葉で、奥の扉が開き、片目を眼帯で隠した男が俺たちを誘う。
そのままその部屋を退出し、眼帯の男についていくと、下の飲み屋に到着した。
「ここから外へ」
眼帯の男はそれだけ言うと、後は腕を組み、監視するようにじっと俺たちを見つめた。
「では失礼する」
オヤジは足取り軽く飲み屋を横切っていく、俺もそのあとを追った、狭い店だ、すぐに外に出て、俺たちは同時に上を見上げる。
「あの方は、ずっとこんなところにいらしたのか?」
「いや、そうじゃない。いつも違うところだ、常に動いているんだよ」
「……へえ」
「あの娘のこと、彼は当然知っている。私の家にいるから詮索しなかっただけだ、ごまかせはしないぞ」
「ああ、そうなんだろうな」
「あの子の疑いを晴らさないといけない」
「あの子が持っているとでも?」
「そうではないかと誰もが思うだろう、この状況だと」
俺とオヤジは足早に歩き、貴族街と商業地に面するハイスリー広場にたどり着いた。
まだ宵の口、多くの人が行き交う広場は、活気にあふれていた。
石造りのモザイクが足元に美しく、真ん中にある噴水の中央には銅像が平和な夜を見守るようにあるーーーあの銅像のモデルは、英雄イザークだ。
「伝説の人に会えるとはな」
「お前が感激のあまり泣き出さずにいてくれてよかった」
「あのなあ……俺はもう子供じゃないぞ」
「ふふ……似たようなものだ」
噴水の周りの花々がそよ風に揺れた。
「オヤジは彼女の兄がどうなったのか知らないのか?」
「ああ」
俺は屋根の上から見た彼女の兄の姿を思い起こす。
よく似た兄妹だった、美しく成長した妹を慈しむ優しい兄、その兄を慕う妹。
「とにかく、お前は情報屋なんだ、働けよ」
「頑張るさ」
オヤジは楽しそうに笑った。
「アンドルーと二人で無理なら、他も使え、何を置いてもこれが最優先だ、わかったな」
「了解した」
俺はオヤジと別れ、闇夜に紛れた。
行く先は、アジト、俺たちのような情報屋やお上からの指示で動く裏稼業の者は、人々の目に触れずに暮らす必要がある。
だが、完全に身を隠すのではなく、わざと多くの人が集まる場所に身を置くのだ。
俺は先ほどとはまた違う路地に入る。
建物と建物の隙間の小道は、排水とゴミで少々荒れていた。
チュウチュウとネズミも這いまわるそんな道だが、俺はかまわず歩いた。
そして、ある建物の裏口を勝手知ったる動作で開け、入る。
とたんに喧噪が押し寄せ、俺は少し顔を顰める。
そこは、俺とアンドルーのアジトのある建物で、一階はカジノ、二階は水たばこのバー、三階は俺の家、兼アジトというわけだ。
「やあ、ヴァル」
陽気な声で呼び止められる、振り向くと、恐ろしく派手な紫の長髪を靡かせた美男子が立っていた。
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