#8
喫茶店をトボトボと後にする臼木の背中を見つめ、
「ねぇ、どうして、あのおじさんにはすぐに『あのチカラ』を使わないの?」
千鶴は隣にいる千寿の顔を見上げる。
「・・・・・・さあな」
千鶴に視線を向けることなく、千寿は臼木の背中を眺めながら彼女の問いに答える。
「ふーん・・・・・・じゃあさ、私のはニキビ撃退を切に願う思いが届いたわけだ!」
「調子に乗るな」
「素直に私が可愛かったからって、白状すればいいのにぃ~もう。あ!」
何を思いついたのか、千鶴は呆れる千寿の前に立ち塞がるようにバッと立って構えた。
「でもさ! 恋を実らせるには時間制限があるんだよ? お互いの想いが強い時に勝負を賭けなきゃ!」
「勝負?」
「この際、仕方ないじゃん。知らない方が幸せだって事もあるんだし!」
首を傾げる千寿にクルっとと背を向けて走り出す千鶴。
唖然と彼女の背を見つめる千寿は嫌な予感がしていた。
「お、おい! ・・・・・・あいつ、まさか!」
溜め息をつきながら俯いて歩く臼木。
「おっじさ~~~ん!」
背後から聞こえる声に振り返る。そこには手を振りながら走って来る千鶴がいた。彼女は人込みをスイスイと縫うように走り抜けて臼木の前に辿り着く。
「いつまでも、悩んでたらダメだよぉ! 男なら、潔く告白しなきゃ!」
「い、潔く告白する?」
困惑する臼木の手を千鶴が掴む。
「ほらぁ、互いの想いは足を止めた分だけ遠くへ行っちゃうんだから。愛は飛び掴むものだよ!」
「と、飛び掴むって……愛はそんなものじゃ……て、お、おーい!」
千鶴は臼木の手を引っ張り、地下街を走り抜けて行く。




