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コスメティック・ハンター  作者: Tsuyoshi&松山亮太
第一話『赤髪の美容ハンター』
2/10

#2

 栄國の巣では、臼木と千寿が話を続けていた。


「僕には三年付き合っている彼女がいます。慶子さんは可愛くて、年下の女性です。僕はこんな老け顔だし、今年で三十路(みそじ)・・・・・・どうしても、彼女と、慶子さんと結婚がしたいんです」


 切実な眼差しを千寿に向ける。


「ええ・・・・・・」


 千寿も真剣な面持ちで静かに頷く。臼木は深刻そうな表情を浮かべ、両手で頭を抱える。


「でも、この頭を見るたびに・・・・・・プロポーズする勇気が出なくって」

「・・・・・・臼木さん。このことを彼女は気にしてるんですか?」


 臼木は首を横に振った。


「彼女は、知らないんです・・・・・・いつも、こうやって会っているから」


 臼木は背後からカツラを取り出して頭に被せてみせる。


「あ・・・・・・‼」


 臼木のビフォーアフターの姿に千寿は目を見開いて口が開いた。


「ずっとコンプレックスだったんです・・・・・・初めてできた彼女で嫌われたくなかった。僕には、

こうするしか……」

「・・・・・・臼木さん、確かに現代はカツラ一つでも本物そっくりに精巧なものが有り触れていま

す。でも、偽物はいずれバレるもの―――」


 暗い表情で話す臼木に千寿は真理を伝える。メッキはいつか剥がれる、と。

 その言葉に臼木は深く頭を下げる。


「そうですよね……だから、どんな容姿のコンプレックスも解決できるウデをもつと噂の、神多先生、あなたに頼んでいるんです! お願いします。私を助けて下さい」

「・・・・・・わかりました。私に任せて下さい。それでは、施術プランと料金の方ですが・・・・・・」


 千寿は自身のスマホを取り出し、育毛・増毛専門店のサイトを開き、料金や術後メンテナンスの期間を臼木に見せる。どれも五十万円を超える高額なプランが提示されていた。


「他社ではこのぐらいの費用がかかります。しかし、臼木さんには植毛と術後の永久メンテナンスの保障込みで、私なら三十万でお引き受けできます」

「ほ、本当ですか! ほ、本当にその値段で引き受けてくれるんですか!」


 必死な臼木はパアッと表情を明るくして、千寿に食い気味で前のめりになった。


「施術の前に一つ、私の質問に答えていただけますか? あなたは、この事実を隠し通す事で、

本当の至福を得られますか?」


 千寿の核心をついた問い掛けに、臼木はハッとして表情が固まる。

 突然、入り口の扉がバタンと開く。乱暴に開けられた音に、千寿と臼木は入口に注目した。


「おいーっす! 飲んでますかぁ~」


 右手を突き出した千鶴が景気良い声を店内に響き渡らせた。そして、そのままフラフラとした足取りで店内に入って来て、彼女は中を見回す。


「あっれぇ・・・・・・ガーラガラ」


 そこにはマスターと千寿、臼木以外に人は居なかった。

 スン・・・・・・と急に静かになった千鶴はつまらなそうに、店の奥に向かってカウンターの前を歩いていく。そんな少女にマスターが一瞥して、


「お嬢さん、ここは未成年者出入り禁止ですよ」


 と、声を掛ける。千鶴はムッとした表情を浮かべ、カウンターに片肘をついてマスターを睨みつけた。サングラスで見えないが、その目は据わっている。


「はぁ~? これでも立派な二十歳なんだからね。童顔だからってナメんなぁ~」


 千鶴の酒臭い息に眉一つ動かさず、マスターは淡々とグラスを拭き続けていた。


「うんもぉ・・・・・・私、今、すっ、ごーく、レッドな気分なんだからぁ」


 千鶴は頬を膨らませて不貞腐れたような表情で、マスターに絡み続ける。


「レッド?」

「そ、ブルーな気分を通り越して、もう最悪のレッド!」


 ふと彼女の視界にソファーに座っている千寿の赤髪が映る。


「あんな感じに、マッカッカー、のね!」


 千鶴が千寿の頭に掴みかかろうとするが、千寿はハッとして咄嗟に千鶴の手を避けた。


「あら?」


 そして千鶴の勢いのついた手が臼木の頭に命中する。

 その拍子にハラリと宙を舞うカツラ。一瞬、時が止まった。

 ファサッ・・・・・・とカツラが千鶴の頭に落ちた時、臼木は我に返って頭を押さえた。


「なぁーーーーっ⁉」

「きゃははははは・・・・・・おじさん、カツラだったんだ」

「な、なんなんだ、キミは!」


 千鶴の態度に臼木が顔を真っ赤にしながら激昂した。

 千鶴はカツラを手に取り、彼の頭にカツラを無造作に乗せて、


「そう怒らないの。誰にだって、隠したい物は一つや二つあるわよぉ・・・・・・ひっく」


 臼木はカツラを整えながらそそくさと身支度を整え、千寿に向き直す。


「先生、こ、この話はまた後日……」

「・・・・・・そうですね」

「え~、何ぃ? 私が相談に乗ってあげるのにぃ。この恋愛スペシャリストの―――」

「結構です!」


 少しも悪びれる様子のない千鶴を睨みつけ、臼木は扉をバタンと閉め店を出て行った。

 千鶴はキョトンとした表情で、


「・・・・・・怒っちった。全く、人がせっかく親切に、ねー」

 

 と振り返るが、そこに千寿の姿もなかった。


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