#10
千寿は自宅に戻っていた。性懲りもなくついてきた千鶴が両手を上に背を伸ばす。
「ふぁ~、一時はどうなるかと思ったわ。ま、チャンスを掴むには隠し事をせず正直になるのが一番ね! 良かった、良かった」
終わり良ければ全て良しと言わんばかりに安堵する千鶴の後ろで、千寿は不機嫌な表情を浮かべていた。
「何が良かった、だ・・・・・・てか、お前の帰る場所はっ!」
「好きな時に出て行けって言ったじゃん。ま、これからもあの二人は上手くいくって」
あっけらかんと答える千鶴に、千寿はやれやれといった様子で首を振る。
「第一、もう私には関係ないもーん。それに、私には都会あーんど大学デビュー前にまだやる
事が残ってるんだから」
そう言って千鶴は千寿に脂肪燃焼術の本を背中越しに見せる。
「お前、その本!」
驚いた千寿は本棚を見るが、南京錠と鎖が見事に外されていた。
「ケヘ、この本でスーパーモデル並みのスタイルを手に入れちゃうんだから。白紙なんて嘘、きっと、すんごい効果的で楽チン魔法が書いてあるんだわ」
頭にピースサインをかざしてポーズする千鶴に、
「やめろ! それを開くな!」
千寿は慌てて手を伸ばす。千鶴は澄ました顔で、千寿にクルっと背を向けて本を開く。
「自分だけそんな魔法みたいな力持っててズルいのよねー。独り占めは良くないわぁ・・・・・・ほ
いっとぉ。あ、本当に真っ白・・・・・・ん!?」
突如、本が光を放った。何の前触れもなしに放たれた強い光に千鶴は思わす目を閉じる。
「う、うわぁっ!!」
千鶴は眩い光に包まれた。それと同時にボンッと煙が辺りに広がり千寿も堪らず瞼を瞑る。
「くっ・・・・・・」
千寿が薄く目を開ける。徐々に煙が晴れていく。薄れる煙から覗く太い手足、ぬいぐるみと見紛うような大きな頭に、はち切れんばかりに肉が詰まり飛び出る腹。
千寿はギョッとした眼差しで千鶴を見つめる。
「・・・・・・うぐっ」
「・・・・・・ぽへ?」
そこには三頭身のまん丸に太った千鶴が振り返り、千寿の驚く顔を見つめていた。彼女は千寿の視線を追って、自身の腹を見る。風船のような腹をプニプニ摘まみ、
「あ、あたしのくびれ・・・・・・て、ええーーー!! なんなのよ、これはぁ!」
同時に鏡に映った自分の姿を見て愕然とする。
「ちょ、ちょっとぉ~、どうなってんのよ! コレ・・・・・・」
「そいつは自らが肥満体となって、脂肪燃焼方法を『身をもって』研究するための本だ・・・・・・だから、白紙なんだ」
「そんなの聞いてないわよぉ! あ、ほらぁ、先生の力でパアッと・・・・・・」
千鶴は千寿にしがみ付いて、自分の体をどうにかしてくれと涙目で縋る。
「本の呪いを喰らった人間には無理だ」
「そ、そんなぁ~」
千鶴はショックのあまりゴロンと転がり、そのままダウンした。
「こんな姿でどうやって大学通えばいいのよ~‼ 入学式は⁉ 学生証だってまだ作ってない
のにぃ~。こんな姿で証明写真撮れっていうのぉ~~~!!」
「大学側も、これじゃあ本人と見分けるのも難しいかもな・・・・・・」
「んもぉ~~~~~~、ありえなーい!!」
やれやれと溜め息をつく千寿の足元で、肉マン顔を両手でサンドして絶叫する千鶴であった。
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