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砂糖細工の星一つ

作者: 猫喰窮鼠

 確か、もう十年も昔の事だっけ。

 夜半の空には花火が咲き乱れ、屋台の喧噪が辺りを満たしていて花火大会の夜。

 私は泣きじゃくりながら、折角着付けて貰った浴衣が汚れるのも構わず河川敷に座り込んでいた。

 迷子。今思えば、みんながいる辺りから歩いて五分もしない場所で座り込んでいたのはちょっとどころでなく恥ずかしいけど、当時の私は世界の全てが牙を剥いてるような気がして身をすくめていた。

 どーん。花火が上がる。ぱちぱちと小気味いい爆音と共に弾けるスターマインは、それでも私の不安を払拭するには程遠かった。

 大きな音がする度に肩が跳ねる。祭りの喧噪を遠くに聞きながら一人ぽつんと震えているのは、底無しに心細くて怖かった。

 目の前が真っ暗になった気がした。私以外の人なんて誰もいない気がした。


 ──そんな時だった。


日向(ひなた)!」


 不意に呼ばれた自分の名前に振り返れば、そこには汗びっしょりのまま肩で息をする君がいて。


「やっと見つけた」


 そう言って、私に小袋を握らせて隣に座った。

 中を見れば、金平糖。

 私が食べたいと言って、君が買いに行ってくれたものだ。

 端っこの方で待っていれば良かったのに人の波に流されて、はぐれてしまった私を、君は金平糖片手に探し回ってくれた。


「いなくなったかと思っちゃったよ。ちょっと休憩して、みんなのとこ戻ろうぜ?」


 少しずつ息を整えていた君がにこりと笑う。

 私のせいで花火も屋台も台無しなのに、怒ること一つせず笑ってくれる。

 だから私は、


「ありがとう」


 金平糖を一つ、君に差し出して泣き笑いした。






「…………何だよ?」

「ううん。もう高校も卒業なんだなあって」

「そりゃそうだろ。……大学、別になっちゃったな」

「アンタが第一志望落ちたからね」

「うるせぇ!」


 桜散る校門の喧噪を遠くに聞きながら、私と君は自転車を押していた。

 結局、高校に上がるときにそっちから告白してきて、両片想いは両想いに変わることが出来た。

 そして私と進路を揃えたくて、この一年はお互い勉強漬けで頑張ってきたのに。肝心なところでやらかすのは君の悪い癖だと思う。


「クソ、あと二問合ってればなぁ……」

「勉強、折角頑張ったのにねぇ」

「……ほんとゴメンな。俺がやらかしたばっかりにさ」


 私は隣の県の大学へ、君は地元の有名大学へ。小、中、高とずっと一緒だった私達の人生は、ついに分かれ道に辿り着いてしまった。

 がっくりと君が肩を落とす。基本ポジティブが取り柄な君がここまで落ち込むのは、ずっと見てきた私でも結構珍しいと思う。

 実は私的にはそこまで深刻な問題ではないと思ってる。別に会おうと思えば全然会えるのだから。

 でも、そんなに落ち込む君は見たくないと思っちゃったので、私は鞄から小袋を取り出した。


「あげる。元気出して」

「……お、いいの? さんきゅ」


 封を開けて差し出せば、君は手刀を切って一つまみ口に放り込んだ。私も同じように一粒。ころりと、いつもの歯ざわりが口の中で踊った。


 ──砂糖細工の星一つ。


「あのさ」

「ん、何?」

「好きだよ」


 十年経った今も、私を支えてくれる心の一等星は相変わらず甘かった。

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