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チョコクッキー

「昨日うちに来た?」

「行ってない」


 打てば響くといった具合で、そっけなく返された。

 嘘つけ。と内心でぼやいて、俺はチョコクッキーを唇に運ぶ。サクサクとして美味しいけれど、うまいと正直に言ったら多分となりのこいつは不機嫌になる。

 そもそもとなりで食うんじゃなかった。と思うけれど、食べてるときに突然部屋に押し入って来たのだから、俺は悪くないと思う。


「それ、誰にもらったワケ」


 これまた不機嫌そうな声で聞かれた。


「誰って、知らない。同じ学年だと思うけど」

「は? 名前も知らない人からもらったものよく食べれるよね」

「お前そういうこというなよ。こんなときにもらうものなんだし、断るのかわいそうだろ」

「へぇ。ふぅん。優しいのね、似合わな」


 話していると、こいつどんどん不機嫌になっていく。

 俺も適当に同意していればいいのに、ついつい煽るような言い方をしてしまう。だって、俺だってちょっとは期待してたんだ。なのにこいつは俺には何も用意してないとか言いやがるから。そのくせ俺がもらったことを攻めるんだ。ひどいやつだ。


「お前、もう帰れよ」


 つい、そんなことをいってしまった。あ、しまった。と思ったときには、こいつすごい顔して振り返ってきた。泣きそうな顔。

 

「いいわよ。帰るわよ。さよなら」


 なんだか最後みたいな。もう会わないみたいな言い方をする。その言い方はひどいと思う。

 いや、俺の言葉も悪かった。


「うそ」

「何が」

「だから、帰らなくていいって……」

「…………食べるのやめたら、帰らないであげる」


 俺はすぐに食べるのをやめた。

 別に、帰らないでほしいとか、そういうんじゃないから。ただ、ここで食べ続けるのはさ、ほら、なんか良くない気がするじゃんか。だから、そんだけの理由だけど。


「……用意、したけど」


 何を?って聞くほど、俺は無粋じゃない。


「昨日、学校でも……でも、できなくて」

 

 うん。多分、なんかあって渡せなかったんだろうな。こいつ素直じゃないし。周りに秘密にしろってうるさいし。


「家……もいいかと思ったんだけど、あんた昨日、友達と帰ってきたから」


 みてたのかよ。とか言いそうになって、となりの家だから見えたんだな。と思う。そんで、ああうん。って簡単に返事。


「今日は、と思ったけど」


 うん。今日は渡そう。と思ったワケね。で?


「あんた。なんか、食べてるし」


 うんうん。俺が別のやつからもらったチョコクッキー食べてるから、渡しにくかったと。

 うん?


「じゃあ、今持ってるの?」


「………………もってないし」

「いや、持ってるだろ。今の話だと確実に」

「もってない」

「嘘つけ」

「嘘じゃないし」

「………じゃあ嘘でいいから」

「…………嘘でいいの?」


 こいつ、ときどき本当に面倒臭い。

 でもいいか。


「やだ。ちょうだい。お前からのがほしい」


 無言で、突き出されたのは、小さな袋。ラッピングが下手くそで、ホッチキスの芯がちょっと見えてる。ぶきっちょなこいつが、多分手作りしたんだろうってわかる見た目。

 受け取ったら、目の前でばっと立ち上がった。


「じゃ、帰る」

「え」


 引き止める間も無く、ドアを開けて、階段をダダダダ! と駆け下りる音。

 お邪魔しました〜。なんて声がして、はーい。っていう母さんの返事がして、ドアがバタンと閉まる音。


「えーーー」


 思わず俺は声を出していた。

 だって、えーーー。えーーー。

 わけわからん。


 唇歪めて、俺は手元の袋を開ける。

 中から出てきたのは、予想よりずっといい出来のクッキー

 チョコクッキーだ。


「あ、それで余計不機嫌だったわけ」


 机の上には、どこの誰からもらったのか、顔すらもうおぼろげな誰かがくれた、やけに形のいいクッキー。

 見た目はそっちの方がずっといいけど。

 

「こっちの方がうまそうな気がする」


 口に出して、俺は顔を歪めた。

 嘘。

 絶対こっちより、昨日もらったクッキーの方がうまそう。あいつからもらったのなんてそんなにうまそうじゃないし? 普通だし。別に。別に…………。

 

 俺は内心でいろいろ言いながらあいつからもらったクッキーを食べる。

 ちょっとパサパサしてるけど、まぁまぁな出来。


「うまい」


 思わずつぶやいて、俺はベッドに突っ伏した。


「はっず」


 多分。恋の味ってやつがした。




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