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迷子の二人



 その子供は、一人でぽつんと横断歩道に立っていた。





 危ない。

 そんな感情を抱いて、それから口に出して叫びそうになる。

 少年はその言葉を飲み込むと、泣きそうな様子で道路の真ん中に立っている、一人の少女にさり気なく近づいた。

 さっと手を取り歩き出す。

 少女は不思議そうに彼を見つめたまま無言で彼の手に引かれる。

 道端の花の横を通り、人混みを抜けて、なんとかすぐ側の公園にたどり着いた彼は、少女を振り返る。

 少年よりずっと幼い子どもだ。

 白いマフラーに、ピンクのコート。ブラウンのブーツは紐の編込みで、どこかメルヘンな雰囲気のある格好。髪は二つ結び。

 染めていない純粋な黒の、柔らかそうな髪が風に揺れている。


「あそこで何してたの?」


 尋ねる。


「あのね、おかあさんとおとうさん、さがしてたの」


 と、少女は言った。

 少年はしばらく無言で考え込む。

 どうしたものか。


「お兄ちゃん、だあれ?」


 無邪気な問に少年は笑顔を見せる。


「お兄ちゃんはカナタっていうんだ。君は?」


「マナ! 5さい!」


 少女はハキハキと答えた。


「お父さんとお母さん。どこにいるかわからないの?」


「ううん。でもね、マナね、おかあさんのところにね、いけないの」


「道に迷っちゃったんだ」


「……うん」


「じゃあ……」


 言って、少年は口を噤む。

 この子をどうすれば親の元に連れて行ってあげられるのか。その方法を思いつかない。しかし、連れてきてしまったものは仕様がない。

 このまま放置するわけにもいかず、カナタはマナの手を再び取った。


「それじゃあ、お父さんとお母さん探そうか」


「うん!」


 二人の出会いはそんなふうに始まった。

 まず、最初に出会った横断歩道に戻る。

 キョロキョロと周囲を見渡すマナが突然走り出さないように、カナタはしっかりマナの手を握る。


「ここでママとパパと別れたの?」


「……うん」


「どこに行くところだったの?」


「あっち」


 指を差したのは北。

 しかしすぐに別の方向を指す。


「でもいまはあっちにいるの」


「……そっか。じゃあそっちに行こうか」


 言って歩き出す。

 僕達はまるで似ていない兄妹のようにみえるのだろう。

 時々人と目があっては、さっと目をそらされる。

 そのたびにマナは不思議そうにその人を見つめて、カナタに「どうしてお目々をそらすのかなぁ」などと尋ね、カナタは「マナが可愛いからだよ」と話をそらした。


 あっちへ行って、こっちへ行って。

 時々戻って、信号を渡り、横断歩道を通って、また立ち止まって。

 マナの進む先にカナタはついて歩く。

 マナは迷いながらも、なんとか目的地に向かっているらしかった。少しずつ顔色がよくなっていくマナを見ながら、カナタは必死にマナについていく。手は決して離さない。

 もし、手を離してしまったら、マナはお母さんのもとにいけなくなってしまうから。


 長いような短いような道のりを歩いて。そうしてたどり着いたのは、人の出入りが激しい大きな白い建物。

 

「ここに、お父さんとお母さんがいるの?」


「うん!」


 誰に引き止められることもない。

 建物の中を進む。進む。進んで、進んで。

 

「真奈!」


「お母さん!」


 呼び声に全力で答えたマナは、カナタの手からするりと抜け出して、母親に駆け寄った。


「ああ、真奈、真奈、どうして」


 涙を流す母親。

 その懐に全力で抱きつくマナ。

 それをみつめるカナタは、安心して微笑んだ。


「ありがとう、おにいちゃん」


 マナが全力で手を振る。

 それにカナタが応えた瞬間、ふとマナの姿が見えなくなる。

 そして──。


「お、かあ、さん?」


 真奈がつぶやいた。


「ああっ! 真奈! ああ、よかった!!」


「なんてことだ。奇跡だ」


「真奈! ああ、神様ありがとうございます」


 ベッドに眠る少女の周りで人々は歓喜にわいている。


(よかった。間に合って)


 そう思ってカナタはそっと部屋をあとにした。

 誰もカナタを阻むものも、話しかけるものもいない。

 ずんずんと進んで、進んで。



 気づけば、カナタは少女と出会った信号に戻っていた。

 そして再び佇む。

 道端の花が揺れる。

 カナタは目を閉じた。

 



 

 これは迷子の少年のお話し。



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