隠世と花
自分が今生きているこの『隠世』という世は、前世の自分が来世の自分になるための、いわば待機場所のような世であるらしい。前世の業が来世に影響するとは言ったもので、それはそれはどのような生き方をしてきたのか、この隠世ではすぐ分かるようになのか、何なのか。生まれた時にそれぞれ人に色が現れている。主に髪や目、人によっては色白や浅黒い肌だったりと様々だ。来世までの待機…とは言うが、この隠世では皆、また新たに1人の人として生まれている。その際、前世の記憶はほぼ失っているが希に覚えて生まれてくる者もいる。そういう者の大半も、成長と共に記憶は薄れていく。自分もその口だ。記憶を保持したまま成長する者は極希だ。この隠世の、前世による生まれの色や来世までへの一時の生の仕組みや成り立ちというものは、昔からの口伝えや、昔、隠世にいた者による文献など様々な形で残り、隠世で今生を受けている者の当然の知識、常識となっている。
特に、それが事実なのだと実感させられる出来事というのは……花である。この隠世での生を終えると一輪の花となる。その者と同じ色を持つ花。そして、現世のように病死、老衰というものは隠世には存在しない。老人でも子供でも、女でも男でも、ある日急に一輪の花となる。例外として人の身体である以上怪我など回復不可能なまでのもので、生命維持が困難な状況のみ死体となる。しかしその死体も、しばらくすると身体は消え一輪の花となるのだ。自分が隠世に生を受けてからいつ花となるのか、それは誰にもわからない。老人になり花となる人、生を受けて数年で花となった子供、結婚し、または出産を経て母や父となってある日花となる人、様々だ。
皆、隠世で花となることを来世へ移ったのだと考える。『輪廻の輪に選ばれた』のだと、言う。