第1話
俺が自分の力に気付いたのは、10歳の時だった。
いつものように、猟師の父に付いて山へと狩りに行っていた。
その日は夜行性の獣を狙っていたので、昼間にたっぷり寝て、日が暮れる頃に山に入った。
月明かりの中にぼんやりと浮かび上がる木々、夜闇の中で輝くキノコやコケの美しさを、今でも覚えている。
目当ての獣を狩って、夜明けと共に村に戻った。
そして、その時には……村は、盗賊の夜襲を受けて壊滅していた。
母を探しに行くと、父が村に向かって。俺はそれを、茂みの中に潜んで見ていた。
俺が見詰める先で、村に近付いた父の胸に、矢が突き刺さった。
倒れた父の体を、物陰から出てきた盗賊が物色し始めて……気付くと俺は、その頭に矢を撃ち込んでいた。
叫び声のような悲鳴のような声を上げながら、倒れた父に駆け寄って。
もう父に息がないことを確かめた瞬間、意識が飛んだ。
気付くと俺は村の広場に立っていて、周囲には血だまりに沈む30人以上の盗賊の姿があった。
手の平にズキンズキンとした痛みを感じ、見下ろすと俺の手にはボロボロの剣があって。それを握る俺の手は皮がひどくめくれ上がって、血塗れになっていた。
広場の中央で震えていた生き残りの女の子達によると、盗賊の剣を持って広間に駆け込んできた俺が、化け物じみた動きで盗賊達を皆殺しにしたらしい。
ほどなく、盗賊を追っていた軍の兵士達がやってきて、事情聴取と生き残りの捜索が行われた。
結局、村で生き残ったのは俺と若い娘5人だけだった。俺の母は、家の裏口を出たところで死んでいるのを発見された。
その後、村人の葬儀を終え、娘達は親戚を頼って他の村へ。俺は、兵士達に連れられて軍の砦に向かった。
どうやら、俺には天性の剣才があったらしい。
娘達の証言に半信半疑だった兵士が、葬儀の後に戯れに俺に立ち合いを申し込み、俺はその兵士を圧倒した。血塗れの手で。持ったこともない大人用の剣で。
それに感動したその部隊の隊長が俺を軍に勧誘し、特に行くところもなかった俺はその誘いに乗った。
俺の村を襲った盗賊達は、仕事にあぶれた傭兵達だったらしい。
隣国との戦争に参加するために戦場に向かったものの、いざ戦場に着いてみたら自国の圧勝状態で傭兵の出る幕などなく、わざわざ国境まで来たのだからと、帰り掛けの駄賃に近隣の村を襲うことにしたらしい。
それに気付いた軍が討伐部隊を派遣したのだが、部隊が追い付いた頃には俺がそいつらを全滅させた後だったということだ。
俺は、国境の砦に到着したその日の内に、正式にその部隊に一兵卒として組み込まれた。
と言っても、実際に戦場に出ることはなく、砦内で訓練をするだけ……の、はずだったのだが。
進退窮まった敵軍が、難所として有名な山を越えて砦の背後から奇襲を仕掛け、俺は期せずして実戦を経験することとなった。
敵味方入り乱れる戦場で、俺は敵部隊長の首を3つほど取り、その戦場で一番の戦果を挙げた。
その戦果で、俺は入隊わずか7日にして、歩兵10名を率いる小隊長となってしまった。
その後も、俺は隣国との戦争で華々しい戦果を上げ、軍の階級を駆け上がって行った。
率いる兵の数も、最初は10人だったのが、30人、50人とどんどん増えていき、軍に入隊して10年目で将軍職に就いた時には、率いる兵の数は4000人にまで膨れ上がっていた。
やがて、俺は隣国において死神将軍と恐れられるようになり、24歳で国王の命により西方戦線総司令官に任じられ、隣国との戦争における総指揮を執ることになった。
軍に入った頃から俺のことを気に掛けてくれた中将閣下が軍を退役され、その後を引き継いだ形になるのだが……まだ若く、何より平民上がりである俺を、他の幹部連中はよく思っていなかった。
そして、今日。
「それでは、全会一致で本日をもってジンク将軍を罷免。軍部からの追放処分といたします」
遂に、俺はそいつらの失態をなすりつけられる形で、軍を追われることとなった。
しかも……他ならぬ、信頼していた副官の手によって。